+Drinking bout+
金色の日差しを知らない彼は、今日も冷たい月光を浴びている。
「ヴィオ、今日は月が眩しい」
「ああ・・・満月だな。雲が無いからよく映える」
澄んだ空には、大きな金色の皿が浮かぶ。
窓辺に腰掛け、照らされるシャドウはひどく青白い。
「月見をしようぜヴィオ。このまま見過ごすには惜しい月だ」
「ああ・・・肴は何がいい?」
「ヴィオが作ってくれるのか?」
「シャドウが自分で作るか?」
「・・・やだ、ヴィオが作って」
シャドウがヴィオにワガママな笑みを向ける。
ヴィオは軽く溜め息を吐いた後、頷いた。
「できたら持って行ってやる。待ってる間は月を眺めてろ」
「ん、期待してるぜ」
そう言ってシャドウは月に眼差しを戻す。
シャドウの瞳に、金色の円が浮かんだ。
「ほら、月餅。中身は栗とナツメだ」
大皿の上に7つの丸い、まさしく月の様な餅が乗っていた。
ヴィオは皿をそっとシャドウの座る窓辺の大きな石縁に置き、自分もその横に座る。
「さんきゅ・・・ってヴィオ、そっちはなんだ?」
シャドウはヴィオの手に握られていた、手の平ほどの瓶を指差す。
瓶の中には瓶の色なのか元々そういう色のものなのか、琥珀色の透明な液体が波打っていた。
「これは俺用の酒だ」
「俺もいる!」
「お前は悪酔いするから駄目だ」
「少しぐらいいいだろ?」
「駄目だ」
ヴィオは酒瓶を自分の横に置き、月餅の1つをシャドウの口に押し込む。
「むー!」
「ほら、月を見ろ」
ヴィオは視線をシャドウから月に移し、静かに見詰めた。
星の輝きも褪せさせるほどの金色の輝きは、荘厳。
月の影すら消え失せるほどの透明な眩しさ。
「綺麗だな」
「ん」
シャドウは手を使わず、もごもごと月餅を飲み下しながら答えた。
ナツメの味がふわっと広がり、その歯ごたえを楽しむ。
器用な食い方をするんだな、と、気がつけばヴィオはまたシャドウを見ていた。
「美味いか?」
「うん」
シャドウはヴィオの瞳が月に浮かぶのを見て、新しい月餅に手を伸ばす。
ヴィオの青い瞳に浮かぶ月は、孤独な海を漂っているようかのに見えた。
もふ、とかじった月餅からは栗の味がした。。
夜が更けても、まだぼんやりと斜めに傾いた月を見詰めていた。
一言二言交わしては黙り、交わしては黙りを繰り返す。
そんな時、ふとヴィオが問いかけた。
「・・・シャドウ、水に映った月の話を知っているか?」
「?知らないけど・・・」
ヴィオは窓辺の大きな石縁から畳んでいた足を解き、両手を斜めに下げて身体を支える。
だらりと紫のブーツは窓の外に投げ出され、ブランコのように動いた。
「ある国に、すごい剣の腕前の男がいたそうだ」
「へぇ」
「その男は人斬りだった。人を斬って、斬りまくったそうだ」
「・・・ふうん」
シャドウは眉を顰めながらヴィオの顔を見詰めた。
普段なら、あまり血なまぐさい話はしないのに。
「剣の腕前はどんどん上がり、その内池に映った月さえ斬れる腕になったそうだ」
「水は斬れないだろ?」
「まぁ物語だからな。だが、それだけすごい腕前だったんだろう」
水に映った月を斬るほどの腕前。
それならば、ヴィオの瞳の海に映った月も斬れるだろうか。
シャドウはヴィオのどこか機嫌の良さそうな顔を見ながら思う。
「そいつ・・・どうなったんだ?」
「それからそんな生活が嫌になって、ある時男は一生人を斬らないことを誓ったそうだ」
「それで?」
「それから聖者になって、旅に一生を費やした。これでお終い」
「なんだよ、それで終わりなのか」
「そうだ。これで男がどうなったのかも分からない」
なんとなくシメの悪い話に、シャドウはまた新しい月餅を手に取った。
今度は、ナツメ。
さっきから交互にナツメと栗を食べている。
ジュースが欲しいな、と思った時、隣で喉を鳴らす音が聞こえた。
「あ、ヴィオいつの間に酒をっ!」
「お前が月餅の3つ目に手を出す前にかな」
「俺にも〜」
「シャドウは駄目だ」
むっとシャドウが頬を膨らますのを見ながらヴィオは酒瓶のコルクを空け、コク、と口に含む。
シャドウがすっと宙を浮き、窓の外を回ってヴィオが酒を飲み下す前に口付けた。
「っ!」
「んっ・・・」
ヴィオの舌に吸い込まれる寸前だった液体は、シャドウの舌によって奪われる。
奪えたのは喉にも残らず、舌の上で消える程度の量だったが。
ちゅ、と音を立てて奪われた酒に、ヴィオは眉を顰めた。
「ん・・・シャドウ、お前な・・・」
「いい酒じゃん、俺にも飲ーまーせーろー」
身を乗り出し唇を尖らせるシャドウに、ヴィオはふぅと溜め息をついて。
「そうか・・・」
ヴィオはシャドウの後頭部に手を回し、宙に浮く身体を固定させた。
シャドウの浮いた身体は足だけが窓からはみ出し、風の流れを受けている。
「じゃあお前が杯になれよ・・・?」
ヴィオは意地の悪い笑みを浮かべ、酒瓶の口をシャドウに向けた。
酒瓶から伝うように、無言で酒を飲むことを強要する眼差しをシャドウに向ける。
シャドウはヴィオと軽く目を合わせると、酒瓶の口を咥えてちらっと見上げた。
ヴィオは笑みを崩さないまま、酒瓶を軽く傾ける。
「んぅ・・・」
とくとくっとシャドウの口に琥珀色の液体が流れ込む。
つぅと口の端から酒が零れるのを見て、ヴィオは食むように唇を重ねた。
「・・・っう、ぅ・・・!」
ヴィオはシャドウの舌の上に自分の舌を這わせる。
絡むわけでもなく、酒だけを拭い取るような動きにシャドウの身体が僅かに跳ねた。
「は・・ぁ・・・ヴィオ・・・?」
「ほら、次」
舌で唇を舐めながらヴィオがシャドウの前で酒瓶を揺らす。
酒に煽られているのか、シャドウを煽っているのか。
ヴィオは早くしろ、と言わんばかりの視線を向ける。
「良い酒なんだろう?」
「う・・・」
シャドウが先程と同じように酒瓶の口を咥える。
同じように、瓶が傾いてとくとく、と酒が流れて。
同じように、ヴィオに咥内を探られて。
「ぁ・・・ふ・・・」
「ん・・・まだ酔ったとか言うなよ・・・」
シャドウの口端から零れた酒を、ヴィオが思い出したように舐め取る。
酒の前に口付けに酔いそうだと、シャドウは霧が掛かり始めた頭で思う。
今は、酒よりあの甘い口付けが欲しい。
もっと強い刺激が欲しい。
もっと――――。
「ヴィオ、まさか全部こうやって飲む気なのか?」
「杯になれと言っただろう」
「俺、ほとんだ飲んでな・・・」
「杯は酒を飲むんじゃない、注ぐものだ」
「う〜・・・」
「まだ月見の最中なんだろう、大人しく酒を含め」
シャドウはしぶしぶ、ヴィオの持つ酒瓶の口に舌を伸ばす。
ヴィオは酔っ払ってるんじゃないのか、と疑いを抱きながら。
瓶の口を咥える際に歯が瓶に当たったが、そのまま歯でなぞるようにして口に含んだ。
痛みは無い、だが、酒瓶は冷たい。
「っ・・・ぅ・・・・・・?」
ヴィオは口付けはしてきたものの、酒を奪おうとはしない。
舌よりも、別のところに気を回しているようだった。
どこを、とシャドウが視線を動かす前にヴィオの指がシャドウの背筋をなぞった。
「んんっ!」
びくっとシャドウの身体が弓なりにしなる。
その反動で舌の上の酒を音を立てて飲み込んでしまった。
喉を鳴らす音を聞いたくせに、わざとらしくヴィオの舌がゆっくりと侵入してくる。
執拗に探って、銀の糸を舌と舌の間で張らせながら唇を話した。
「・・・酒が無いな。杯が酒を飲んだか」
「っヴィオ!」
「飲んだのなら、出してもらえば済むことだよな?」
ゆら・・・と隻眼の海が揺れる。
シャドウはその瞳を見つめながら、自分の身体が流されていくのが分かった。
流されるというよりは、誘われるに近い。
行ってはいけないけど、その先の強い熱と甘い快楽には逆らえない。
大きく硬い窓縁に背中を縫い付けられ、腰から下は浮遊したまま。
コト、とヴィオは酒瓶を遠い所の床に置いて、その手でシャドウの足を掴む。
「ヴィオ、こんな・・・とこ・・で・・・」
「関係ない」
身体を曲げ、シャドウの首筋に口付けを落としていく。
服の擦れる音がしたかと思うと、シャドウのベルトが床にずり落ちた。
黒いチェニックと下に着ていた白い服は捲りあげられ、鎖骨の上に溜まる。
外気に晒された肌に、冷たい月光が降り注いだ。
「ヴィオ・・・」
「・・・服、押さえてろ」
「ちょっ・・・俺窓から落ちるじゃん・・・浮くのにも集中力ってものが・・・」
「落とさない」
ヴィオはシャドウの手を掴んで、強引にたくし上げた服の所まで持っていく。
シャドウは弱々しくだが、服を掴んだ。
結局自分が期待したのはこういうことだと、半分諦めの心も持って。
ヴィオはそれを確認するとチュ、とシャドウの胸の突起を吸う。
「・・・っあ・・・」
左手でシャドウの足、右手で落ちないようシャドウの肩を掴んでいる。
だとしたら、愛撫に使えるのは唇と舌であって。
ヴィオの舌に何度も擦られ、シャドウは断続的に息を吐いた。
「ぁ・・・ヴィオ・・・・んっ!」
胸の突起をカリっと歯を立てて軽く引っ張られる。
そう思えば唇で優しく食んできた。
不意の強い刺激と甘ったるい優しい動作に、シャドウの背が引き攣る。
胸の突起からはジンジンと弱い電流のような痺れが走った。
胸の突起の周りの薄い肉を歯形が残るほど噛まれて、一瞬呼吸が震える。
「はっ・・・」
「ん・・・・痛いか?」
「だ、大丈夫・・・・・・・・・ぁンっ」
「そうか」
ヴィオは胸の突起から口を放すと、腰を掴んでぐるりとシャドウの身体を反転させた。
いきなり変わった視点に、服を掴んでいた手が離れた。
その手は他に掴むものを求め、石縁に手をつく。
窓から外を覗き込むようなその格好は、逆にヴィオに腰を突き出す形になった。
「っあ、や、やだ・・・っ!」
流石に羞恥を感じてシャドウが抗議の声をあげる。
こんな外から丸見えな場所で。
もし外に見回りのモンスターがいたらどうするつもりなんだ。
「大人しくしてろ」
ふっと耳元に息を吹く込むように囁かれた。
酒が入ったせいか、いつもより溶けたヴィオの声。
その言葉にシャドウは抵抗を忘れ、力を抜いてしまう。
その間にヴィオはシャドウのタイツをブーツのところまで引きずりおろす。
「っあ・・・」
外気に触れる部分は多くなるのに、体温はぐんぐんと上がっていく。
身体は寒気にも似た震えが走っているのに。
ヴィオは身を震えているシャドウの腰を引き寄せ、秘所に指を這わした。
「やっ!・・・・・あ、ぁああっ・・いたぁ・・・っ!」
シャドウの痛がる声は聞こえているが、ヴィオは内を探る指を止めようとはしない。
それ所か指を増やして、音が立つほど動かした。
血が出るかも・・・とシャドウは痛みに耐えながらぼんやりと思った。
出てもすぐに治るけど。痛いものは痛い。
「い、痛いって・・言ってるだろ・・ぉ・・・!」
「そうか?」
ヴィオはシャドウの秘所を探りながら、逆の手でシャドウのものを掴む。
突然の刺激にビクっとシャドウの身体が大きく揺れた。
硝子でも扱うように優しく触れられたかと思うと、いきなり爪で弾かれる。
遊んでいるような手付きに、シャドウは首を振った。
「う、あ、・・・んっ!」
「あんまり声が大きいと外に聞こえるかもしれない」
「っや・・やだ・・・」
こんな所をモンスターにでも聞かれたら。
他人にこんな自分を見られるのは嫌だ。
それに少し知恵のあるモンスターだったら暗雲とかに告げ口されかねない。
そうしたら一体どんなことになることか。
想像するのも嫌になってくる・・・。
「どうした?泣きそうな顔をしているな・・・何を考えているんだ?」
「っぁ・・・別にっ・・・」
「・・・だったら、もう少しマシな顔をしろ・・・」
かぷ、と、うなじを髪の毛ごと噛まれた。
いつもならシャドウがヴィオにすることなのだが。
やはりヴィオは酔っているらしい。
自分も、少し酔っているのだけれど。
「このっ・・酔っ・・払いっ・・・!」
「・・・酔った気分に・・・なりたかっただけだ」
「え・・・・・・?」
蚊の鳴く声で囁かれたヴィオの声をシャドウは聞き取った。
つまり、今は酔ったフリをしているだけということなのか。
「さてと・・・シャドウ、もういいな?」
ぐ・・・と腰を持たれると同時にヴィオは身を起こし、秘所から指を引き抜いた。
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