〜想う心〜

結局家に着いてから取れた睡眠時間は2時間弱。
正直な話、かなり眠い。
学校に着いてからも眠気はすさまじく、授業時間を寝潰そうかと思ったぐらいだ。

「ふあ・・・」

俺の隣でも眠たそうにあくびをしている奴がいる。

「眠・・・」
「お前もか、シャドウ」
「2時間ぐらいしか寝てないんだ・・・すっごい眠い・・・くう・・・」
「・・・・オイ」

まだ授業が始まって2時間目だというのに。
シャドウはくーすーと気持ちよさそうに眠ってしまった。
これは起こすべきか・・・、・・・別に起こさなくていいか。
そのごシャドウは昼まで寝続けた。
寝方がいいのか、先生に気づかれることもなく爆睡。
俺は授業中難しい問題を当てられやすいから意識を半分寝かせた状態で受けていた。
俺も一緒に爆睡したい。ちらりと横を見ては思う。
昼の時間になって腹が減ったのか、よくやくシャドウはのろのろと起きだした。

「ん〜まだ寝足りない・・・でもお腹空いた・・・」
「・・・もう昼だぞ」

俺は自分の弁当を出し、フタを開ける。中身はほぼ、昨日の夕食の残りもので構成されている。

「そー・・・あー・・・ごはん・・・」

寝ぼけ半分でシャドウはカバンから弁当を出す。
飾り気がなくシルバーの四角い弁当は女の子が好みそうなものじゃないというのだけは見て取れた。
ひょっとしたら、いなくなったシャドウの兄のものだったのかもしれない。
ひょいとシャドウの弁当の中身を見る。

「・・・それ、お前が作ったのか?」
「ん・・・そだけど・・・」
「ほとんど野菜が入ってないな」
「野菜はあんまり好きじゃない・・・」

シャドウの弁当の中身はファミレスのお子様ランチと大差ないものだった。
シャドウはフォークを掴み、くるくるとスパゲティを絡めとる。

「・・・おい、こっち向け」
「んー・・・はう」

ぽいとシャドウの口にブロッコリーをひとつ、放り込む。

「噛んだら飲み込め」
「うー・・・んう・・・苦・・・」

苦味で多少意識が戻ってきたのか、とろんとした目に活気が戻る。

「むー・・・野菜、キライ・・・」
「ほら、さっさと食べないと昼休みが終わるぞ」

いつもは俺一人でさっさと食べていたのに。
お節介な性格でもあるのだ、俺は。
図らずも、その日の昼食はシャドウと摂ることになった。



「ヴィオ・・・なんか楽しそうだね・・・」
「そうかぁ?」
「そうだよ」

レッドとブルーの会話は席の遠いヴィオ達には聞こえていない。
普段ならそのぐらいの声は気付いているヴィオだが、その時はシャドウと話すのに気がいっていた。




「ヴィオは友達いないのか?」

シャドウが昼食後にきちんと目を覚ましたのか、ストレートに聞いてきた。
無遠慮な上に失礼な質問をどう答えるべきか、ヴィオは一瞬押し黙る。

「なんで」
「だって・・・なんか他人と一線引いた感じがするってゆーか・・・」
「まぁな。あんな程度の低い奴らとべたべたしたくないだけだ」
「・・・そう、か」
「お前こそ、女友達は作らないのか?」
「・・・あんまり作る気はない。家族とか、恋愛の話とかされても困る」

シャドウはそこまで言うと、ふっと笑った。

「何がおかしい」
「だって、なんか似てるよ、俺達」
「・・・まぁな。・・・てゆーかお前自分の事『俺』」っていうのは・・」

シャドウはむっと顔をしかめて言いかえす。

「これはもともとだ!今更直んない!」
「別にいいけどな・・・」
「ふん・・・あ、夜のこと誰にも言ってないだろうな!」

少し声のトーンを落としてシャドウ言った。
父親が裏街のドンです、なんて知れ渡れば学校になど通えない。

「ああもちろん。俺だって一応『マジメな学生』だからな」
「ホントはものすごい不道徳な奴のくせに」
「やかましい。あんまり言うとまたキスするぞ」

ビクっとシャドウの身体が跳ねる。いきなり尻尾を触られた猫みたいだ。
・・・おもしろい。

「・・・なんなら今やってやろうか?」

そう冗談で言ってやると、シャドウはえらく焦って――。

「なっ・・・馬鹿っ!!」

ゴッという音と共に俺の顔に右ストレートのパンチを入れた。

「っ〜〜〜!!いきなり何を・・・」
「うるさい!お前が馬鹿なこと言うからだ!!」」
「単なる冗談だろう!」
「性質が悪い!!」

こんな俺達の様子をクラスのやつらは珍しそうに見ていた。
そりゃそうだろう。学校でこんな言い争いをするのは初めてだからな。

「あらあらグリーン、いつも冷静なヴィオがあんなに楽しそうに痴話喧嘩してますわ」
「うん・・・僕も初めて見たよ・・・」

ゼルダとグリーンまで物珍しそうに見ている。
とりあえず、痴話喧嘩じゃないことは確かだぜ、ゼルダ。





その日からヴィオにとってはシャドウといることが当たり前になった。
シャドウと普通の学園生活を過ごす。勉強をして、ご飯を食べて、遊ぶ。
お互いに他のクラスメイトには干渉しない。2人でいる方が楽だった。
ときどき二人で夜にも会うようになり、それはまるで秘密の逢瀬のようだった。
そんな折、ある日の下校時にげた箱でグリーンがヴィオに声をかけた。

「なあ、ヴィオってシャドウと・・・付き合ってんの?」
「・・・なんだいきなり」
「だって・・・なんか仲良いみたいだし・・・」

多少口ごもりながらグリーンは告げる。

「・・・だとしたらどうする」
「あ・・・分家との関係があるのにか・・?父さんにはなんて・・・」

俺とシャドウのことで一番気を揉んでいるのはグリーンだ。
長男ということもあり、色々と分家のことも気がかりなのだろう。

「・・・安心しろ。付き合ってるわけじゃない」

そう、付き合ってるわけではない。そもそも俺はシャドウの事は・・・。
俺はアイツに恋愛感情を持っているのか、それはつまり俺はアイツが好きと言うことになる。
この先シャドウと一緒にいるのか、それはそれで悪くない未来かもしれない。
たまたま俺が本家でシャドウが分家の人間だったということに過ぎない。
ならば――こんな気持ちを大事にしてみるのも一興かもしれない。

「グリーン」
「な、何?」

ヴィオの低い声にグリーンはびくっとする。

「俺はシャドウを好きなように見えるか?」
「え・・・あ、うん。見える!」
「そうか・・・分かった、余計な心配をかけた・・・」
「あ・・・そのヴィオにもいろいろあるとは思うけど・・・」

曖昧な表現で言葉を考えるグリーンに、助け船のようにゼルダの声が飛んできた。

「グリーン、帰りましょう」
「ゼルダ、すぐ行くよ!・・・じゃあまたなヴィオ」

たたっとグリーンはゼルダの方に走って行く。
仲睦まじい限りだ、とささやかな溜息がこぼれた。

「やれやれ・・・ん」

ピロピロと自分のケータイが鳴る。
噂をすればなんとやら、シャドウからだ。

「もしもし?」
『ヴィオ、明日の夜空いてるか?』
「なんだいきなり・・・空いてるけど」
『じゃあ明日の夜10時にタルミナ公園な、遊ぼうぜ』
「ああ・・・」
『じゃあ、またな!』

元気良く、シャドウは電話を切った。
ふむ、とヴィオは高速で頭を働かす。

「明日か・・・よし、決めた」

シャドウを俺のものにしよう。
ヴィオは自宅に向かいながらとんでもない計画を練ったのだった・・・。

















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