+ボクラの道+
〜出会い〜
今朝はだるかった。
ちゅんちゅんとさえずる小鳥さえやかましい。
こんなに気分が重たいのも、昨晩昔の頃の夢を見たせいだ。
夢の中の俺はちょうど、10歳の頃に戻っていた。
夢の内容は、俺が初めて分家の者と会った時の記憶。
俺が10歳の時、アイツとアイツの親のガノンドロフに初めて会った。
俺の家とアイツの家は本家と分家の関係で、仲はあまりよくなかった。
そんな中、俺の幼い頃に本家の女と分家の男が駆け落ちしてしまい、それは本家と分家の仲を徹底的に別れさせた。
互いが互いを疎むようになっていた頃、ガノンドロフは来た。
本家と分家の仲を直すためらしかったが、俺には別の企みを持っているように見えた。
油断のできない、敵。そう感じた。
その後ろに、隠れるようにしてアイツはいた。
黒髪。赤い瞳。どこか俺達と似た顔。
名前はシャドウ、とか言った。
夢の中なのに、その顔ははっきりと覚えていた。
「なあヴィオ聞いたか?」
通学路でグリーンが話しかけてくる。
「何を」
グリーンは四つ子だが俺の兄であり、長男。頼りがいは無い、頼ったことも無い。
「今日転入生が来るって。女の子だってさ」
「あそう」
「興味ないのか?」
「顔がよければ興味を持ってもいい」
女なんてそんなものだ。
「相変わらずクールだな、ヴィオは」
「そんなことより、またブルーとレッドがケンカを始めたぞ」
俺から3メートル先に言い争いをしている朝から元気な馬鹿達。
「ブルーのバカー!」
「なんだとっ!!」
ブルー。三男だが野放図で兄弟の中で一番馬鹿。こいつとは一番ソリが合わない。
レッド。末の四男だが、甘ったれで誰かが傍にいないとすぐに泣き出す。
「ああ、もう!ブルー、レッド!」
グリーンはブルーとレッドの方に走って行く。
これでやっとゆっくり学校に行けるな。
俺の寝不足の頭に、あいつらの騒音は毒だ。
学校に着けば他人と形ばかりの挨拶を交わす。それが済めば、教室の自分の席に着いて本を読む。
もっとも周囲がうるさくて本の内容はさほど頭に入らない。
「ブルー、まだ怒ってんの〜?」
「うるせーな、もう怒ってねぇっつーの!」
「ゼルダ、今度の日曜空いてる?」
「ええ、大丈夫よ」
この学校は人数が少ないから一学級一クラスしかない。
その中でもブルーとレッドはいつも一緒で、グリーンもゼルダとかいう貴族の娘と一緒にいる。
俺だけがあいつらとは一線を引く。それが俺にとってちょうどいい位置だった。
「皆、席に着くザマス!」
担任が教室に入ってきた。女で、ヒス持ちのように見えるがとりあえず教育熱心な先生。
だが俺は授業はそこそこにしか聞かず、ほぼ独学で勉強している。
早く言えば、授業が簡単すぎてつまらないってことだ。
クラスの奴らがばたばたと席に着くと先生は話し出す。
「今日はとても良い日です。我がハイラル国立学園に新しいクラスメートが増えるザマス」
それの何が喜ばしいんだか。
より教室が狭くなるだけだろう。
「入ってくるザマス」
教室の外で待っていた転入生が入ってきた。
転校初日にもかかわらず、スカートの丈はすごく短い。
襟も第一ボタンをはずして制服のリボンは緩めている。
校則違反になりそうなぐらい黒い腰まである珍しいロングヘア。
そして―・・・赤い瞳にどこか俺達と似た顔。
俺は転入生を見て絶句した。
―――アイツだった。
「シャドウちゃんザマス。皆、仲良くするザマス」
先生の横に立って、アイツは教室を一望する。
カチッと俺と目が合った。
「よろしくお願いします・・・」
頭も下げず、にこりとも笑わないで。
「席は―・・・そこの、後ろの空いている席ザマス」
後ろの空いている席。つまり俺の隣。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
アイツは無言で、俺の隣の席に着く。ピンと空気が張り詰める。
チラ・・・とグリーン達の方を見るとあいつらも気付いたらしく、青い顔をしていた。
「・・・・・・・・・」
「なぁ」
アイツが小声で俺に声を掛けてきた。
「・・・なんだ?」
「教科書・・・見せて・・・くれないか・・・・?」
「あ、ああ・・・」
気がつけば授業は始まっていた。
俺はカバンから教科書と一冊の本とノートを取り出し、教科書をアイツに渡す。
「俺は使わないから、貸してやるよ」
俺はそう言い捨てるとさっさと自分の本を開いて独学に集中する。
「ありがと・・・」
消え入りそうな声でアイツは礼を言ってきた。
・・・少し、集中力が切れた。
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