+キューブ+
――――ここは・・・。
ウルフは左腕に鈍い痛みを感じながらゆっくりと覚醒していく。
『親分っ!気がついたんスねっ!!』
親分、とはウルフのことだ。スターウルフのリーダーで、ならず者達を率いる頭領。
――――うるせぇ、静かにしやがれ。腕に響くだろうが。
『ううう・・・親分はスターフォックスの狐と戦り合ったんですよ!それで、それでえぇ〜』
子分である猿のならず者その一は目の端いっぱいまでドボボと滝のような涙を流した。
ウルフはそんな子分の様子に溜息を吐きつつも、何があったのか自分の頭の中を整理する。
―――俺は・・・シマ荒らしを倒しに行って、この基地に帰ってこようとした。
その途中おそらくあいつもなんかの任務の帰りだったのだろう、スターフォックスのリーダ−、フォックス・マクラウドと出くわした。
こっちも一人、むこうも一人、誰にも邪魔はされねぇ絶好のチャンス。それで戦り合って、お互い瀬戸際までいって・・・相打ちになった。
それから・・・もつれる様に俺のウルフェンとあいつのアーウィンが地面を擦って・・・俺は・・・。
「そうだっ!!」
ウルフはがばっと医療用ベットから跳ね起き――またベットに沈んだ。
「痛ぅ・・・」
「親分、まだ起き上がらない方がいいっスよ!アバラがヒビ入る寸前だったんスから!」
「んなこたぁどうでもいいっ!おい、狐はどうしたっ!?」
――あの後、フォックスのアーウィンの通信機が壊れていて、俺は意識が朦朧としながらもレオン達にウルフェンから通信を入れたはずだ。
ウルフのものすごい剣幕にたじろぎながらもならず者その一は『レオン・ポワルスキー様の所っス・・・』とおどおどと答える。
それを聞いた瞬間、今度こそウルフはベットから飛び起きて一目散に駆け出した。
「親分・・・元気っスね・・・」
一人残されたならず者その一はぽつりと呟いた。
ウルフは基地内を風の如く駆けていく。元々足は速いのに今はスピードMAXだからもはや残像すらできそうな程である。
「レオン、居るか!?」
勢いよくレオン専用のR1にあるワンルームに飛び込む。
レオン専用と言う所からして、まともな部屋である訳がはずが無く、その中は石牢をイメージした床壁に
どこから取り寄せたかわからない幾つもの拷問道具や武器でインテリアされた超がつく程悪趣味な部屋。
好き好んで入る奴などレオンぐらいしかいないだろうと思われる、そんな部屋。
その部屋の中にはレオンとならず者達が7人ぐらいで円を作るようにいた。
「おや、ウルフ・・・よくその怪我で来たな、お前も混ざるか?」
レオンは貴族の使うような赤の布地に金の装飾の施された豪勢な椅子に腰掛け、偉そうに笑っている。
ウルフはというと、その部屋のツンとした匂いに苦々しく舌打ちをした。
「親分、気がついたんスねっ!」
「良かったスぅ〜親分〜〜」
部屋にいた子分達はウルフの姿を見てワァァァと歓喜の声を上げまくり喜ぶが、ウルフはその声を己の怒鳴り声で止める。
「うるせぇっ!!てめぇら、そこを退きやがれ・・・」
ずざざっと波を割るように子分達はウルフから左右に別れ一直線の道を作る。
その先には、ぐったりと床に倒れたフォックスが現れた。
「っレオン!」
「死んではいないさ。いささか生意気な口を叩くからお仕置きしたまでだ」
「いけしゃしゃと・・・」
ウルフは早足でフォックスに近寄り、脈と呼吸を取る。とりあえず、レオンの言う通り生きている。
だが、フォックスの服はびりびりに裂かれ、その身体には幾つもの赤い抵抗の跡が見えた。
・・・それはレオン達にそうとう手酷く扱われたことを表していた。
「てめえら、とっとと散りやがれ!!」
ウルフの一喝に子分達は蜘蛛の子を散らすようにばらばらと部屋から出て行く。残ったのは、ウルフとフォックスとレオンのみ。
そのウルフもフォックスを肩に担いで部屋から出ようとする。
「ウルフ、そんな狐をどうする気だ?」
「・・・コイツを殺すのは俺だ。それまで生かす」
「ならば今殺してしまえばいいだろう」
「コイツは戦場で殺す。てめぇの拷問で殺されてたまるか!」
ウルフはそう言い捨てるとさっさとレオンの部屋を後にした。
「・・・おだやかじゃないねぇ」
ウルフが出て行ったのを見計らってか、ドアの横からスィッと紅い薔薇を持ったパンサーが出てくる。
「パンサーか、・・・私は穏やかなウルフなど見たことが無いぞ?」
ククク・・・と喉の奥で笑うレオンを見てパンサーも『それもそうだ』と相槌を打った。
「しかしねぇ・・・ウルフはえらく、あのキツネ君にご執着じゃないか」
「フ・・・スターフォックスの先代からの因縁というものだろう。厭きないものだ」
「おや、アンタだってあの青い雛鳥を気に掛けているじゃないか」
パンサーがからかうように言うと、レオンは無言で凍りつくような、ゾッとする微笑を浮かべる。
「ファルコはいずれこの部屋に招待するつもりだがな・・・」
レオンの金色の眼が不気味に怪しく光る。
パンサーは『それはカワイソウに』と言い残し、またヒラリと無意味ながらも無駄の無い動きで去って行った。
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