+加速して空回りするシンドローム+




『ワタル、なんで駄目なんだ?』
『だって恥ずかしい・・・』
『すぐに慣れる』
『ミツル・・・そうは言ってもさ・・・』
『俺の事、嫌いなのか?』
『そうじゃないけど、まだ気持ちがまとまらないんだ』
『じゃあ、明日までにつけておけよ』
『そんな無茶な』








無茶なのは、ワタルの言い分だ。








「何故上手くいかないんだろう」

今は真夜中。普通の子どもは眠っている時間。
ミツルは真っ暗な部屋で寝返りを繰り返しながら、悩んでいた。


先日、オレはワタルという恋人を手に入れた。
一生秘密にするつもりだったが、我慢ならずに想いを告げてしまった。
そうしたら、ワタルもオレの事を好きだと言ってくれたのだ。
ココまでは別に何の問題も無い。が、


「進展がないな」

ミツルは恋人として最大の問題を、極小さな声で呟いた。


恋人でも進展がなければ友達になってしまう。
いや、それ以前に本当にワタルはオレが好きなのか?
あの時ただ単にオレの意見に流されてしまっただけじゃないのか?
いや、焦ってそうと決め付けるわけにもいかない。
これと言うのもワタルがキスさせてくれないからだ。


ミツルの頭の中はワタルに対して肯定と否定がシーソーのように上がったり下がったりしていた。


オレは、ワタルが欲しい。
勉強も、遊ぶのもいいけれど。
もっと直接ワタルが欲しい。
他の誰かとワタルを共有したくない。
独り占めしたい。


「・・・馬鹿だな・・・」


人一人を独り占めに、なんてそうそうできるものじゃない。
だからせめて、ワタルのほんの心の一部分を独占したい。
・・・独占、なんてのは言い方が悪いな。


『大事にしたい』


綺麗に言って、そんな感じだ。
言い換えた所で、やりたいことは変わらないけど。
キスをして、触れたい。
もっとワタルの声が聞きたい。
色んな表情を見たい。


「ワタル・・・・」


オレは、何かを忘れている気がする。
何かきっと、ワタルに近づける大事なものなのに。
思い出せない限り、この気持ちも晴れないのだろうか。
オレは自分の、この重たい雲のような気持ちを晴らしたい。


「何かの罰みたいだな・・・」


求めるものを、ギリギリで与えられない辛さ。
思い出したい。
思い出さなくてはならない。
なのに、思い出せない。
もっとワタルに近づけたら、思い出せるかもしれない。
なんだか矛盾してきたな。

もっと近づくには、思い出すことが必要で。
思い出すためには、近づくことが必要で。


「・・・だったらまずはキスからか」

話は最初に戻って来る。
そうしている内に、時計は丑三つ時を通り抜けた。









「ミツルってさー、なんでそんなにボクの事、好きなの?」

ワタルのマンションの居間で、ミツルはワタルに膝枕してもらいながら会話をしていた。
膝枕をしてもらう前にキスを試みたが、ワタルはさらっとミツルをかわした。
そこでミツルがふて腐れていたら、ワタルがしぶしぶ『膝枕してあげるから機嫌を直して』と言ってきたのだ。
ミツルもキスを諦めたわけではないが、膝枕をありがたくしてもらうことにした。
これも触れ合うことのひとつ。

「・・・さぁ、なんでだろうな?」
「・・・真面目に答えて欲しいんだけど」
「オレはいつでも真面目だ」


なんでそんなに、なんて。
自分でもよく分からないぐらい好きだ。
頭の靄が晴れたら、それも分かるかもしれない。


「・・・・・・・・・・ワタル、お前は何者なんだ?」
「え?」
「オレは初めて会った時・・・お前を知っている気がしたんだ」


妹の、アヤの手を引いて道を歩いていた時、ワタルに出会った。
ワタルはオレを見て不思議な顔をしたのを覚えている。
オレにはデジャヴのような感覚に襲われて、それからだ。

『ワタルが、好き』

そんなことを思い始めた。


「ミツル・・・」
「ワタル、お前は何なんだ?」
「ボクは・・・・・・・・・・ボクは、ミツルの恋人だよ」

花の様に微笑むワタルを見て、ミツルも納得したらしい。
ふっと薄い笑みがミツルに浮かぶ。

「・・・恋人なら、キスぐらいさせてくれるよな?」
「え、え、それはちょっと・・・」
「今は2人きり、別に見てる人もいないからいいだろう?」
「う、うーん・・・でも恥ずかしい・・・」
「なんで?」
「な、なんででも。それに膝枕で我慢してくれるんだろ」
「今日のところは、だ」

ミツルはすかさず訂正を入れる。
ワタルはミツルの柔らかい髪を指で掬いながら、苦笑。
そうする内に、ミツルの目がとろんとして、ゆっくりと瞬きを繰り返した。

「眠い?」
「少し・・・」
「ミツルは寝不足なんだよ」
「遅くまでワタルのことを考えていたから」

さらりと恥ずかしい事を言うミツルに、ワタルは少し赤面する。

「それって喜んでいいの?」
「さぁな。・・・少し、寝ていいか?」

言うが早いか、ミツルは目を閉じて既に眠る体勢をとっている。
ワタルは髪を弄る手を止めて、オヤスミと呟いた。
静かになった部屋に、ミツルの寝息が響く。
その様子に、ワタルは小さな溜め息を吐いた。

「ミツルは、もう覚えてないよね・・・」

ワタルは優しく切ない眼差しでミツルの顔を見詰めた。









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