+裏切り+
剣のツカにめり込む肉。
剣が抜けると同時に倒れるグリーンの身体。
レッドとブルーの血の引いた顔。侮蔑を込めた瞳。
それに背を向ける自分。
耳に響くシャドウの笑い声。
石を弾いた時に出来た自分の掌の傷が、小さく痛んだ。
「最高の気分だ」
グラスを片手にシャドウがジュースを注ぐ。
「じゃあ、乾杯といこう」
俺のグラスとシャドウのグラスがカキンッと音を立て、中身のジュースが跳ね上がる。
グリーン、レッド、ブルーの3人の勇者がこの炎の塔で揃った。
グリーンと戦う事の引き換えに、俺はシャドウの信頼を得ることもできた。
裏切る下準備はできた。
「ヴィオ、来い」
「ああ・・・」
シャドウが窓際で俺を呼ぶ。
俺はグラスを置いて近寄り、遠い窓の外の景色を見た。
キレイな満月が空に浮かんでいる。
ここから見える景色は、シャドウが俺に与えた、俺とシャドウの国。
皮肉なものだと思う。
仲間から裏切りを受けた俺が、国を得ている。
この、闇にほとんど犯された国を。
シャドウは俺の口車に乗って、色々なことを喋りだした。
騙されている、ともしらないで。
だが、騙しているという罪悪感は湧かない。
それは、シャドウが主君を裏切れるせいだからだろうか。
それとも、ガノンに生み出されたからと聞かされたせいだろうか。
ただ、別のものが湧き上がる。
それが何なのか、自分でも良く分からない。
シャドウは俺に闇の鏡を見せてくれた。
黒水晶のような美しく禍々しい鏡。
飲み込まれてしまいそうな程、深い闇の輝き。
これを壊せば、シャドウは消える。
俺の目の前から、永久にいなくなる。
散々はしゃいで疲れたのだろう。
夜が明ける頃、ようやくシャドウは眠りに落ちた。
できれば、このまま眠ったままでいて欲しい。
眠ったままで、消えて欲しい。
シャドウの静かな寝息を聞き流しながら、闇の鏡の前まで行く。
俺の手には、ハンマー。流石に剣でこの鏡を砕くのは無理だ。
ふっと鏡に俺の姿が映る。
写った自分の顔に溜め息が出た。
ハンマーを握る手に力を込めて、心を静める。
ちくっと掌の傷がまた痛んだ。
俺はシャドウに対して罪悪感の湧かない気持ちと共に、ある種の恐怖も感じていた。
その正体も、鏡に映っ自分の顔をみてやっと理解した。
俺は、シャドウの奥にある闇に触れるのが恐かったんだ。
けれど、シャドウの闇を切り開いてしまったのは他ならぬ俺になるんだ。
裏切りの代償は、きっと重たいのだろう。
勇者だからと言って、許されるつもりも、許しを請うつもりもない。
償おうにも、時間が無い。
本当に、勇者とは嫌なものだ。だが、捨てることも出来ない。
さよならだ、シャドウ。
俺は大きく息を吸い込み、鏡に向かってハンマーを振り上げた。
この、愛に似た殺意を込めて。
俺の決意は、見事に阻止される。
緑色の服を着た、妙な奴に邪魔をされた。
計画は失敗・・・さて、どうシャドウを誤魔化そうかな。
また、別の恐怖が湧き上がってきた。
fin.
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