+太陽+


手を焼く、黒猫のようだと思う。
気まぐれで興味の向くことしかしたがらない。
それでいて、見つめずにはいられない。大きな黒猫。
黒猫が夜になり、ようやく部屋に帰ってきてた。
宙を滑り、どさっとベッドに転がったと思った矢先の事。

「・・・これ、洗い直せ」

シャドウは不機嫌な顔をして、ベッドから起き上った。

「シーツのことか?」
「そうだ」
「それは今日洗って干したばかりだぞ」
「・・・嫌なにおいがする」

ヴィオは読んでいた本を置き、ソファーから立ち上がる。
シャドウはベッドから離れ、何かを払うように服を叩いていた。

「何の匂いがするって言うんだ・・・」

シーツに顔を近づけて、軽く周辺の空気を吸う。
異臭らしい異臭はしない。

「別に、変なにおいはしないだろう」
「・・・嫌なにおいがする」

ヴィオは仕方なくもう一度鼻を近づけて、あ、と気付いた。

「あぁ・・・なるほど」

今日は風と蝋の熱ではなく、太陽で乾かしたもの。
シャドウはそのにおいが嫌だと言ったのだ。
なんとも、闇の者らしい理由。

「オイ、シャドウ――」

ヴィオが振り返った先に、シャドウはもういなかった。
おそらく風呂にでも行ったのだろう。
それほどまでに太陽のにおいが嫌いなのだろうか。

「しかたないな、洗い直すか」

溜め息をついてベッドとシーツを分離させる。
めんどくさいが、このままだと夜通しシャドウの夜間飛行に付き合わされかねない。
飛竜の背は眠るには硬すぎる。ついでに寒い。

「よっと・・・ヒノックス、来い」

ヴィオは剥いだシーツを簡単に畳んで、呼ばれてやってきたヒノックスに渡す。

「洗って乾かせ、夜明けまでにだ」

ヒノックスは頷くとシーツを抱えて走り去った。
夜明けまでにと区切ったのは可哀相だが、今夜は風がある。
なんとか乾くだろう。多分。

「・・・ヴィオ、シーツは洗ったか?」

ヴィオが声がする方を向けば、髪に水を滴らせたシャドウが立っていた。
ぺたりと水で張り付いた髪が顔を隠している。
風呂に入ったというより、水を頭から被ったようだった。

「髪ぐらい拭いて来い」
「じゃあヴィオが拭いてくれ」

頼みごとというより命令のような口調に、カチンと頭に来ながらもタオルを受け取る。
ヴィオはソファーに向かい、シャドウを呼んだ。

「シャドウ、後ろを向け」
「ん」

ヴィオはソファーに座って、その前の床にへたり込んだシャドウの頭にタオルを乗せる。
たっぷりと水の染み込んだ髪は、あっという間にタオルを濡らしていった。

「少しは髪を絞ってから出て来い」
「これでも少しは絞ったんだ」

わしわしとタオルを動かし、髪の水を吸わせる。
頭の天辺から耳の後ろにかけて、何度もタオルに乗せた手を滑らせた。
幼い子供のような柔らかい髪質のせいだろうか。
タオルの隙間から見えるシャドウの髪はつやつやとして美しい。
紫暗の髪は光の当たり様によっては深い紫にも漆黒の闇にも見える。
ヴィオはその2面性を持つシャドウの髪を好んでいた。

「シャドウはキレイな髪をしているな」
「そうか?」
「ああ。鳥の羽みたいにつやつやしてる」
「俺はヴィオみたいな金髪も悪くないと思うけどな」

ヴィオのハニーゴールドのような、強く濃厚な金糸の髪をシャドウは好んでいた。
日焼けもせず色褪せていない金髪は、闇に甘く輝く。
髪の上で滑っていたタオルがもそもそと耳の後ろを行き交う。
シャドウはくすぐったそうに首を竦めた。

「こら、動くな。拭きにくい」
「ん・・・まだ?」
「髪の量が多いからな。もう少しじっとしてろ」

ヴィオはタオルをひっくり返して再度シャドウの髪に当てる。
残りは後頭部の髪だけらしく、掬い上げるようにヴィオの手が動いた。
小刻みに動くヴィオの手が心地よく、シャドウは軽くヴィオの方に寄りかかった。

「動くな」
「くすぐったい」
「すぐに済む」

タオルで大方水を吸い取り、ヴィオが手櫛で髪を慣らす。
僅かに湿りを残す髪は指の流れに逆らわない。

「もういいか?」
「ああ、このぐらいでいいだろう」

タオル越しにぎゅっとシャドウの髪を絞った後、ヴィオは手を放した。
タオルはそのままシャドウの肩に落ちる。
シャドウは身震いするように、ふるふると頭を振った。
ほのかに植物の香りを含んだ芳香が散った。

「あ、そうだ。ヴィオ、シーツは?」
「ヒノックスに渡した。今日は新しいのを出そう」
「どこに入れたっけ・・・?」
「お前の塔だろ、記憶しておけよ」

呆れた溜め息を吐きつつ、ヴィオはソファーから降りる。
そのまま足を進め、タンスから真っ白なシーツを取り出した。
シャドウを手招きで呼んで、ベッドメイクをを手伝わせる。

「どうだ?これは太陽のにおいはしないだろう」
「ああ・・・これなら良い・・・」

くあ、と獣の咆哮に似た欠伸をした後、シャドウは新しいシーツに寝転がった。

「・・・ヴィオは寝ないのか?」
「風呂に入ってくる」
「朝入ればいいだろ」

ベッドの上からにゅっと手を伸ばしてヴィオを捕まえる。
ヴィオは半ば引きずられるようにしてベッドに転がり込んだ。

「・・・駄々っ子」
「ヴィオと一緒に寝たい」

シャドウは悪戯っぽく微笑んでヴィオに引っ付いた。
まるでヴィオを掛け布団にするように、いそいそと肌と金糸の間に顔を埋める。
さわさわと、シャドウの髪がヴィオの首筋をくすぐった。
ヴィオはすぐ横にきたシャドウの米神に口付けを落としす。
そのまま紫暗の髪を一筋、唇で咥えて引っ張った。
その間にシャドウがヴィオのベルトを外す。

「ヴィオ」
「・・・シャドウ」

ああこのシーツも汚れるなと思いつつ、ヴィオはシャドウに口付けた。















                                        fin.


















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