+好きじゃない、なんて言っても+
果汁に混ざる酒の香り。
首に絡んでくる腕。
「ヴィオ〜」
今の状態は非常にまずいかもしれない。
「ヴィオ好き〜」
かも、じゃない。かなりヤバイ。
「シャドウ、お前酒飲んだだろ?」
「ん〜・・・ヴィオ好き〜」
「はぁ・・・」
城に入って調子の良い事を並べ立ててシャドウをいい気にさせたはいいが・・・。
「やりすぎた・・・」
いつの間にかシャドウは酒を飲んでマジに俺に絡んでくる。
元々人に引っ付きやすい奴だとは思ってはいたが・・・。
「二人で国を作るんだ〜・・・」
「分かったから・・・ああもう」
ヒックと喉を揺らしながらシャドウは俺に抱きついてくる。
・・・なんでここまで来てよっぱらいの面倒を見る羽目になるのだろう。
ちょっと前までは自分の分身の子守をしていたというのに。
「ヴィオ〜」
「なんだ?」
「俺、信じてるからな〜。ずっと・・・俺と一緒に・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
満足そうに、幸せそうに、シャドウが笑う。
「世界をぜーんぶ滅ぼすからぁ・・・ヴィオ〜・・・」
「滅ぼさなくても俺はここにいるじゃないか」
「一人はやだ・・・ずっと一緒がいい・・・」
「・・・お前は、主を裏切っていいのか?」
「嫌い〜みんなキライ。誰も俺のことなんか見てくれないもん・・・」
「さみしい、のか?」
「今はヴィオがいるから・・・後はいらない・・・」
俺のひざの上で甘えてくるシャドウに、溜息が出る。
「俺は別にお前の事は・・・」
「ヴィオ・・・二人で支配者になるんだ〜」
「ああ。分かってるから、だからな」
「ヴィオ好き〜v」
ちゅ。
唇に柔らかい感触とほんのり酒の味。
途端、俺の身体は石のように固まった。
「・・・・・・・・・・・・シャドウ」
いきなりセクハラされるとは。
流石にこれは俺も頭を抱えた。
「ヴィオ〜・・・」
「いやヴィオ〜じゃなくて。お前今・・・」
「ヴィオ好き〜vv」
ちゅ。
もう、以下略。
「・・・シャドウ、お前な」
シャドウの顔を離させるため俺はジュースを口に含んだ。
シャドウはにこにこ笑いながら俺を見上げてくる。
「・・・ヴィオ〜俺を好きにしていいよ〜」
ぶ―――っ!!
俺の口からオレンジの液体が吹き出た。
ぽたぽたっと少しシャドウの顔にかかる。
「な・・・シャド・・・」
「ヴィオ、俺にプロポーズした」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「二人で世界の支配者になろーって言った〜・・・」
いやあれはモノのはずみというか、その。
ヤバイなーっとは思ったがまさかあれだけでここまで想われるとは。
俺も罪作りな勇者だ。
「ヴィオ大好き〜v」
って冗談言って現実逃避してる場合じゃない!!
「あーいや、だからな、シャドウ、」
「でも・・・」
ぎりっとシャドウが俺の肩に爪を立てる。
・・・服に裂け目ができそうだ。
「裏切ったら許さないから」
シャドウの目は座っている。
たら、と俺の背中に冷たい汗が走った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が裏切るわけないだろう?」
「・・・ヴィオ好き―――っ!!!」
「うぐっ!」
シャドウが俺の首に腕を絡めて抱きついてくる。
あーあ、マジでどうしよう・・・。
「ヴィオ〜vv」
「分かった、分かったから」
いい加減俺の上からどいてくれ。
重い訳ではないが、動き辛い。
「ヴィオ〜」
ちゅ―――――――・・・
・・・長い。何がしたいんだシャドウは。
「ん・・・ぅ〜・・・」
のたのたと唇の境目でシャドウの舌が動く。
・・・・・・ああなるほど。
「・・・はっ・・・それはこうするんだぜ」
シャドウの顎を捕らえて深く唇を重ねる。
次はちゅ、ではなくもっと鮮明に濡れた音。
「んっ、うぅ・・・」
・・・シャドウの舌触りは思ったより気持ちいい。
具合が良い、とでもとでも言うのだろうか。もう少し、だけ続けていたいと思ってしまう。
「ふっ・・・ん、ん〜〜っ!」
シャドウの手が震えている。
俺はシャドウと口を離した。
「ぷはっ!」
「これがしたかったんだろう?」
表面上で顔を繕う。
シャドウはというと、ぽわんとした、熱に浮いたような顔をしていた。
「・・・ヴィオ・・・違う」
「ん?」
「もっと・・・」
唇をチロ、と出して舌舐りをするシャドウに、ぞくりとした色気が見えた。
ふと、心の中で湧き上がってくるものを感じる。
「ヴィオ・・・」
艶っぽい声で呼ばれ、近う寄れと言わんばかりに腕を引いてくる。
まぁ、シャドウは酒が入ってるし・・・一回ぐらいなら。
据え膳食わぬは男の恥とも言うし。
「後々俺のせいにするなよ」
「好き・・・」
俺はそっと、シャドウの眼を掌で塞いだ。
fin.
ブラウザバックでお戻りください