+仲間+



バタンッと強く扉の開く音がする。
さっき外に出て行ったかと思ったのに、もう帰ってきたのか。

「ヴィオ!」
「ん・・・何だシャドウ?」

扉を開いた主が現れる。
そのまま俺の前まで来て、顔を下に向けた。

「・・・・・・・・」
「人の名前を大声で呼んでおいて黙りこむな。どうした?」
「・・・次の指令にヴィオも加わる事になった」

やはりか。
しかし、そんな事に何故シャドウが慌てているんだ。

「俺の役目は?」
「暗黒の神殿での勇者達の誘導だ」
「そうか」

何らかの事に利用されると思っていたが、まさかこんな事とは。
もっときつい役割が待っているかと思っていたのに。

「ヴィオ、お前の役目は誘導だけだ。決して俺を裏切るな」

シャドウの眼に黒いものが宿る。
焦っていたのは、そういうわけか。

「俺が裏切るわけ無いだろう?」
「・・・ああ。・・・信じるぞ、ヴィオ」
「・・・で、具体的にどう誘い込めばいいんだ?」
「それを今から話し合うんだ」

利用する側が利用される側に作戦を考えさせていいのか。
多少疑問を抱きつつも、とりあえず作戦を立てることにした。

「グリーン達全員が来るのか?」
「いや、レッドとブルーだけだ」
「・・・暗黒の神殿はどういったものだ?」
「もとは光の神殿って呼ばれてた所で、明かりはほとんど点けてない」

ばらっとシャドウが地図を広げる。どうやら神殿内部の地図らしい。
俺は顎に手を当てながら、地図を眺めた。
本来ならレッド達と合流したい所だが、まだココで得た情報が少なすぎる。
それに、シャドウはまだ俺への疑惑を解いていない。

「ヴィオ?」
「・・・なるべく分かりやすい罠の方がいい。あいつらは馬鹿だからな」
「お前がそう言うなら、そうしよう」
「この通路の先が広くなっているから、ここに棺おけを設置しろ」
「棺おけ?」
「グリーンを死んだ事にする」

シャドウがぽかんと目を丸くして俺を見た。

「何だ?」
「や・・・ホントに大胆な罠だなぁと思って」
「そのぐらいの方が、あいつらの隙を突きやすい」
「それから、石工でフォーソードの偽物を作れ。棺おけの上に飾る」
「え、俺が作るの!?」

シャドウの言葉に俺の身体が傾く。
そこまで俺に頼るなよ。

「・・・分かった、剣は俺が作ってやる。棺おけはそっちで用意しろ」
「うん、あ、でも・・・」
「何だ?」
「グリーンの死体が無い」

当たり前だ、と言おうとして慌てて言葉を引っ込めた。
そんな事を言っては、疑惑が更に強くなる。

「・・・棺おけの中は空でいい。俺がなんとか言いくるめる」
「そうか。ならいいや」
「誘い込んだ後は、どうなる?」
「ヴィオは俺とすぐに風の宮殿に向かう」
「俺が勇者達を誘導している間、お前はどこにいる?」
「風の宮殿だ。そこで勇者共にトドメを刺す魔物を連れてくる」

俺は心の中で舌打ちした。
シャドウが暗黒の神殿で待ち構えているというのなら、もっと楽なのに。
まぁ、仕方ないか。

「・・・分かった」
「ヴィオ、あくまで誘導だけだからな。誘導し終わったらすぐにお前を連れて行くからな」
「分かっている」
「作戦はあいつらが暗黒の神殿に着き次第、決行だ」

シャドウは地図をたたむとあふ、と大きなあくびをした。

「眠いのか?」
「ん・・・ヴィオ、寝よう」
「・・・分かった」

なんで俺まで、とは言いたかったが変に断るわけにもいかない。
しかし、寝室は無法状態の雑魚寝が常だから、身体が痛くてしょうがない。
シャドウが寝たら抜け出そう。
そう思案しながら寝室に向かう俺に、シャドウが待ったをかけた。

「どうした、眠くなくなったのか?」
「違う。また出なきゃいけないから、ソファーで寝る」
「なら俺まで一緒に寝る必要はないだろう?」

怪訝そうな顔をする俺に、シャドウは手招きをして呼ぶ。
呼ばれたらその瞬間、床から黒い触手のようなものが俺の身体に巻きついた。

「うわっ・・・何をする!?」

シャドウはあくびをしながらパキンと指を鳴らす。
触手はそれを合図に俺をソファーに押し付けた。

「ちょっ・・・シャドウ!!」
「枕。月が窓の空の真ん中ぐらいまできたら、起こしてな」

のしっとシャドウの頭が俺の膝に乗っかってくる。
同時に、身体を締め付けた触手は消えたが、今も拘束されていることは変わりない。

「オイ、シャドウ・・・」

俺不満気な声の返答に、シャドウからは安らかな寝息が返ってきた。
俺の口から深い溜め息が漏れる。

「アンバランスな奴・・・」

感情の波が激しいくせに妙な所で頭が切れる。
執着心が強いかと思えば、忠誠心は曖昧。
疑っているなと思えば、こうして静かに寝息を立てていたりする。

「本当に俺の事を仲間だと思っているのか?」

つい呟いてしまった独り言に、俺はしまったと手で口を覆った。
膝の上を見れば、ぼんやりとした目でシャドウが俺を見ている。
バレたのだろうか・・・。
ぞく、と背筋に冷たい汗が流れる。

「ヴィオ・・・」
「ど、どうした?まだ月は昇っていないぞ?」
「ヴィオは・・・俺の仲間だよな?」

はっきりしない口調でシャドウが訊ねる。
まだ夢見心地らしい。

「ああ、お前の仲間だ」
「・・・グリーンとか、他の奴らがそう言うと虫唾が走るけど・・・ヴィオが俺に言うのは嫌じゃない・・・」

そう言ってシャドウは花の様にうっとりと微笑む。
それが余計、俺の背筋を凍らせた。

「・・・もう寝ろ。ちゃんと起こしてやるから」
「ん・・・」

シャドウは安心したように目を瞑る。

「はぁ・・・」

嘘をつくのは、しかたない。だが、俺は何かを恐れている。
それはシャドウが闇の力を使う時より、先程のような笑み。
あんな顔を見るたびに、妙な心苦しさが湧き上がる。

「まさか、な・・・」

俺は寒気の収まらないまま、窓の外を見た。
月はまだ、窓の中にすらいない。

















                                               fin.






















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