+まだ言葉というものに怯えたままのぼくから、+


空には灰色の雲が気持ち悪いほど重なっている。
降っては止んでの雨が続き、そろそろ雷も落ちてきそうな雰囲気だった。
木々を揺らす風も冷たく身を震わせる。
まさに悪天候の真っ只中。
だがその雲すら打ち破りそうな声が、炎の塔から響いた。



「なんだよ、ヴィオの馬鹿!」
「うるさいな、いい加減にしろ!」

10分ぐらい前からシャドウとヴィオは派手な口ゲンカを繰り広げていた。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ2人に、辺りのヒノックス達はとうに非難している。
いたとしても彼らを止める事はできないのだが。

「いつもそうやってヴィオは俺ばっかり――!」
「なら俺じゃなくてグリーンなり誰なり、別の奴をここに連れてくれば良かっただろ!」

ヴィオの言葉にシャドウの目が見開かれる。
髪の毛が逆立ちそうなほどシャドウは身体を震わすと、大きく息を吸った。

「ヴィオの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」

部屋中を震わすほど怒鳴ると、シャドウは走って外に出て行く。
ヴィオはその声に耳を傷めながら、シャドウの背を見送った。





「まったく・・・」

じぃんと耳の奥が響く。
一体どこからあんな声が出て来るんだか。
ヴィオは痛む耳をさすりながらそう心の中で呟いた。

「はぁ・・・」

ヴィオは耳鳴りが止むと、腰掛けていたベットに寝転がった。
じわじわとケンカの後の脱力感がヴィオの身体に圧し掛かっていく。
脱力感のせいでもあるのだが、ヴィオはシャドウを追いかけようとはしなかった。
『お互い頭を冷やしてから会った方がいい。
シャドウとて馬鹿ではないのだ。ただ、その場の感情が激しいだけで。
落ち着けば勝手に戻ってくる。
いつも、そうなのだから。今まで、そうだったのだから。

ヴィオは頭の中で一通りまとめると熱を冷ますため仮眠に着く。
起きた頃にはシャドウが戻っているはずだ、と思いながら。





ヴィオとシャドウは長いケンカをしない。
その代わりブルーとレッドの様に、カラリともしない。
時間をかけて問題を流すか、どちらかがめんどくさげに謝って終わり。
馬鹿ではないのだ、2人とも。
馬鹿ではないが、ケンカしてしまう。

ヴィオは、グリーン達の前ほど気を張らなくてもいいから、つい言いすぎる。
シャドウは、ヴィオには甘えられる事を知っているから、我が侭を通そうとする。

曲線とも平行線ともつかない想いがぶつかるとケンカになるのだ。





「ん・・・」

壁を打つ激しい雨音にヴィオは目を覚ました。
起き上がり部屋を見回して、シャドウがまだ戻ってきていない事に気付く。

「シャドウ・・・」

ヴィオが仮眠に入ってから早くも2時間は経っている。
月の出ていない夜に、ましてや外はどしゃ降りの雨なのに。
シャドウが帰ってこないということはあり得ない。

「っあの馬鹿・・・!」

ヴィオはばっとベットから飛び出した。
階段を駆け下りてヒノックスの横を走り抜ける。
塔から少し飛び出せばすぐに冷たい雨が全身に降ってきた。

「シャドウ、どこにいる!?」

ヴィオが叫んでも返ってくるのは雨粒が地面を打つ音のみ。
玉座のある方まで走り、見回るが見つからない。
シャドウと行き違いになったか、と思うものの、まだシャドウは外にいるような気もする。

「シャドウ・・・」

冷えてくる身体から熱い溜息を吐き、ヴィオは辺りを見回す。
水を滴らせた金髪をかき上げ、玉座の裏に回る。
そこでやっと、見つけた。

「シャドウ・・・こんな所で何をしているんだ?」

シャドウは玉座の背もたれを雨よけにするようにして座っていた。
膝を抱えて顔を伏せて、暗い部屋に閉じこもっていたかの様な姿。

「シャドウ」
「・・・・・・・」
「シャドウ、身体が冷えるぞ」
「・・・・・・・」

まだ怒っているのか、シャドウは返事を返さない。
顔を伏せているせいで起きているか眠っているのかも分からない。

「シャドウ」

ヴィオがシャドウの前に屈み込み、より近くで呼びかける。
反応は、ない。

「・・・風邪をひいてもしらないぞ」
「・・・うるさい」

ぼそりと。
蝋燭が消える様な声でシャドウは答えた。

「機嫌を直せ」
「・・・誰の・・・せいだと・・・っ」

シャドウが泣き出しそうな予兆を感じ、ヴィオは溜め息を吐いた。
案の定、シャドウはぐずり始める。

「ヴィオが・・・悪いんだ・・・」
「ケンカはお互い様だろう」
「ヴィオが・・別の奴を連れてくればいい、なんて言うからだ・・・」
「は?そんな事で・・・」

ヴィオの呆れた声にシャドウは顔を上げ、ヴィオを強く睨む。
ヴィオから滴る水滴がシャドウの顔にぶつかった。
そのまま頬を伝い流れて、涙のような跡を作る。

「・・・っそんな事でも俺は傷ついたんだ!!」
「・・・・・・・・」

ヴィオはまた、溜め息を吐いた。
どうも、ヴィオはシャドウの触れてはいけない傷に触れてしまったらしい。

「分かった、俺が言い過ぎた。もう言わない」
「・・・・次、言ったら許さないからな」
「ああ。・・・部屋に戻ろう」
「ん・・・」

ヴィオはシャドウに手を差し出す。
シャドウはゆっくりとヴィオの手を取った。

「ヴィオ、手が冷たい」
「お前だって」

シャドウが手を放そうとしないので、ヴィオも放すことができない。
雨に濡れたヴィオも、外にずっといたシャドウも身体が冷え切ってしまっていた。

「・・・部屋に戻ったらまず風呂だな」
「うん」

単に手を放したくないのか、手を放すのが面倒なのか、2人はつないだまま歩き出す。
つないだ手だけは、部屋に着くまでに温まっていた。

















                                       fin.


























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