+服+
普段より赤い顔。
とろんとした瞳。
時折痙攣する身体。
けほ。こほ。はくしゅんっ!・・・けほけほ。
ベッドの上で微妙な振動を続けるシャドウにヴィオは眉を顰めた。
「・・・大丈夫かシャドウ?」
「う゛ー・・・身体重い・・・息苦しい・・・」
「まぁ、風邪だからな」
昨日ぐらいからシャドウが咳をしだした。
加えて熱も上がりだし、今となってはベッドに沈んでいる状態である。
先日ベッドを買っといて良かったと、ヴィオは少し自分を褒めた。
「あ゛う゛・・・」
「何か欲しいものは?」
この台詞は本日3度目である。
したがって、水や果物、薬などはとっくに揃えてあった。
「テッィシュ切れた・・・こほっ」
「分かった」
新しいティッシュ箱をヒノックスに用意させる。
それ以上シャドウからの欲求がこなかったので、ヴィオは軽く溜め息を吐いた。
「シャドウ、俺は隣の部屋にいるからな」
「・・・・・・・・ぅん・・・・・・ヴィオ」
「何だ?」
「・・・・・・別に・・・けほっ」
何やらシャドウから縋るような視線を受けつつ、ヴィオは寝室を後にする。
シャドウの咳が聞こえなくなった所で、ヴィオは独り言を始めた。
「やれやれ・・・病人の世話なんて・・・こういうのはブルーとかの方が得意だろうに」
一応本で知識を得ているから、看病ぐらいはできる。
だが、最終的に風邪を治すのはシャドウであり、俺じゃない。
つまり、することが無くなれば俺は無力。
親身に看病というのはガラじゃない。
だから、今から本を読もう。
「よし!」
ぱんと手を叩き、本を片手にソファーに座る。
先程のシャドウの視線が頭に引っ掛かりながらも、ヴィオは読書を開始した。
月が空の真ん中で輝く時から読み始め、降り始めた頃にようやく本を読み終えた。
「さてと・・・そろそろ薬を飲ますべきだな」
ソファーから立ち上がり、台所に向かう。
コップの中に透き通った水を入れ、タオルと水を張った洗面器を持ってシャドウのいる寝室に行く。
寝室からは安らか、とは言えないが咳を繰り返していた時よりはマシな音が返ってきた。
「寝てるのか・・・」
コップらを傍らに置き、シャドウの額に手を添える。
まだ、熱い。
「シャドウ、起きろ」
「ふや・・・?」
寝ぼけた状態のシャドウを起こして、水の入ったコップと傍にある薬を差し出す。
「薬だ、飲め」
「やだぁ・・・」
目覚め切れていないのか、シャドウは口調も視界もぼやけていた。
「これでも少量な方だ、一日一服なんだし。飲め」
「薬はニガイだろぉ・・・けほっ」
「何を子どもみたいな事を言っている」
「薬は嫌い・・・・」
「・・・・いいから、飲め」
「・・・イヤだぁ・・・こほっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
実力行使決行。
ぐび、とヴィオが水と薬を口に含む。
シャドウの頭を捕まえて、その直後、ちゅーという擬音が鳴った。
「ん〜〜〜っ!」
力なくシャドウに叩かれるが、気にも留めずに水と薬を流し込む。
ごくっと喉が鳴るのを見て、ヴィオはようやく口を放した。
「・・・ニガイ・・・」
「ああ、確かにな」
口元を拭きながらヴィオが苦い顔をする。
確かに思ったより薬は苦かった。
「シャドウ、着替えるぞ」
「ど〜ぞ〜・・・こほっ」
「俺が着替えるんじゃない、お前だ。汗掻いているだろう」
「ん〜・・・うん・・・」
「自分で着替えられるか?」
「ヴィオやって・・・めんどくさい・・・」
「それは俺がめんどくさい」
「俺は病人だぞ〜・・・労われよ〜・・・けほけほ」
「お前本当は元気だろう。・・・まぁいい、両手を上に伸ばせ」
シャドウはだるそうにホールドアップする。
ヴィオは遠慮なくシャドウのシャツを下から掴み、一気に剥いた。
普段より熱い、シャドウの肌が外気に晒される。
「寒い・・・でも暑い・・・」
「服着る前に濡れタオルで身体を拭け。そのぐらい自分でできるだろう」
よく絞ったタオルをシャドウに渡し、ヴィオは別の寝巻きを取り出す。
シャドウはシャドウでやはり汗は気持ち悪かったのか、おとなしく身体を拭きだした。
「・・・ヴィオ・・・背中やってくれないか・・・」
「仕方ないな」
一度水に戻し、絞りなおしたタオルをシャドウの背中につけて擦る。
「冷たくて気持ちイイ・・・」
「そうか」
「・・・ちょっと荒いぞ、俺の背中はテーブルじゃない・・・けほ」
「・・・黙ってろ、咳がまた出るぞ」
ヴィオは手早くシャドウの背を拭き、新しい寝巻きを着せた。
ぶつぶつ言いながらもヴィオは面倒を見ている。
甲斐甲斐しい、とは言い難いかもしれないが。
「よく考えたらお前の服は影で出来てるんじゃないのか?」
だったら俺がやらなくても、とヴィオは溜め息を吐く。
「こんな状態で闇の力なんか使ったら・・・余計風邪が悪化する・・・こほっ」
「それもそうか。もう寝ろ」
「・・・ヴィオ、リンゴ」
シャドウの要約された言葉を回りくどく言うと、
『ヴィオ、リンゴを切って、ウサギで』
という意味だ。
きっちりウサギで、という所まで予測してしまう自分の頭に苦笑した。
「・・・少し待ってろ」
「うん・・・・・・・・けほっ」
「・・・シャドウ」
「ふぇ?」
「早く良くなれ」
「・・・うん」
へにゃ、とシャドウがヴィオに笑いかける。
・・・やはり看病なんてガラじゃないらしい。
翌日、シャドウの風邪はほとんど治っていた。
「ヴィオ、治った、治った!」
「・・・そうか、良かったな」
「・・・ヴィオ、なんだかお前、顔赤くないか?」
「・・・さぁな」
ヴィオは咳混じりの溜め息を吐いた。
fin.
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