+ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間+
もし、俺が光の勇者であれたなら。
「ヴィオ」
「なんだ?」
俺は窓際に寝っころがったままでヴィオに言った。
ヴィオは読んでいる本から目を逸らさないまま答える。
「なんでお前は光の勇者だったんだ?」
「・・・は?」
ヴィオは今俺の傍にいるけど。
ちょっと前までは光の勇者だった。
俺の敵、だった。
「なんでだ?」
「なんでって・・・俺が知るか。気付いたときにはそうだったんだ」
「・・・そっか」
なんで、俺だけ影の勇者だったんだ?
光の勇者なんか4人もいるのに。
「俺はなんで影の勇者なんだろう・・・」
もし、俺以外の誰かが『影の勇者』だったなら。
「さあな。・・・俺も何故光の勇者になっているのか分からないからな」
「もし俺が光の勇者だったら・・・」
もしも、そうだったら・・・。
「グリーン以外の光の勇者が、お前の代わりになっていたかもな」
「・・・なんで、影の勇者だけ」
一人なんだろう。
勇者は剣の数だけいるのに。
「偶然・・・と必然なんだろうな」
「え・・・?」
ぱたん、とヴィオが本を閉じる。
「お前は影の勇者に、俺は光の勇者に、それが俺達の運命だったんだろう」
「それは・・・」
「そして、元々の『リンク』以外は正しくこの世に生を受けていない」
そういえば、ヴィオ達も『写し』なのだ。
それでも、自分とは違う。
俺は元々の『リンク』の影だ。
「・・・ムカツクな・・・」
「なにが?」
「『リンク』が」
「なんで?」
「なんか、特別な存在みたいだから」
もし、ヴィオのいう偶然が必然だというのなら。
俺は何のために存在しているんだ。
俺だって、もしなれたなら・・・。
「・・・シャドウ!」
「・・・っ!なんだよ・・・」
いきなり近くで聞こえたヴィオの声に俺は少し驚いた。
ヴィオは困った様に眉をひそめた顔で、俺の横に立っていた。
「あまり考えるな」
「考えるなったって・・・!!」
そっとヴィオが俺を抱きしめる。
俺の胸にズキリ、と刺さるような痛みが走った。
「ヴィオ・・・」
「考えたって仕方ない事だろう」
勇者である以上、この運命には逆らえない。
誰も逃げられない。影であっても光であっても。
だから、抗う。
「・・・ヴィオ、俺は俺の野望を叶えてみせる」
「ああ・・・」
でも、
「まだ、足りない・・・」
孤独は嫌だ。
一人で居るのも嫌だ。
誰も見てくれないのは嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
俺を認めてくれないものは、全て嫌い。
「・・・泣くな」
「・・・泣いてなんか、ない」
悲しくなんかない。
ただ、嫌なだけだ。
「仕方のないんだ、俺もお前も。それに今は俺がいるだろう?」
「・・・そうだな」
ヴィオの唇と俺の唇が触れ合う。
ほんの少し、胸の痛みがやわらいだ。
「ヴィオ・・・」
今はヴィオは傍に居てくれる。
でも、
俺の闇は満たされない。
fin.
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