+激昂+
ああ、ヤバイ。
何がヤバイって、今俺が置かれている状態が、だ。
物陰に潜み、乱れた息を必死で整える。
「・・・まだ来てないな・・・」
ほっと息をついた瞬間、窓にものすごい威圧感の塊が現れた。
「ヴィ〜〜オ〜〜〜ど〜〜〜こ〜〜だ〜〜〜〜?」
威圧感の塊はずしゃっと地割れしそうな勢いで窓から降りる。
いつもの身軽さはどこへやら、だ。
ことの始めは、ほんのささいなことからだった。
俺がいつもの様に本を読んでいたら、いつもの様にシャドウが邪魔してきた。
俺は適当にあしらいながら話をしていたのだが、それがまずかった。
つい、俺の口が滑ってグリーン達のことを話してしまったのだ。
後は、火を見るより明らか。
シャドウの背からどす黒い炎が湧き上がり、ものすごい形相で俺を追いかけ始めた。
『やっちまったー』なんてのん気なことを言ってる場合ではない。
掴まったらどんな目に遭わされることか。
だから、俺はこうして『生死の境ギリギリオニゴッコ』をしているのだ。
「ヴィ〜〜〜オぉ〜〜〜〜怒ってないからぁ出て来いよ〜〜〜」
嘘をつけ!!
と力一杯叫びたかったが、それは俺の死の宣告を示すので言えない。
今の俺はただただ、シャドウが早くこの場から立ち去ることを願うのみだ。
「はぁ・・・ヴィオ〜〜今出てきたら許してやるよぉ〜〜?」
信用ならない!!
許しを証明するのであれば、まず背後の黒い炎を消すべきだ。
「・・・ヴィオはここにはいないようだな・・・しょうがない、次の部屋を探すか」
トットット、とシャドウの足音が遠くなる。
俺は胸を撫で下ろしながら、物陰から出た。
出た途端、シャドウに発見された。
シャドウは先程の場所で宙に浮いたまま、悪魔の様な笑みを浮かべていた。
つうぅ、と冷たい汗が俺の全身から溢れる。
「見ぃ〜〜〜つけたぁ〜〜〜〜♪」
「・・・だ、騙したな・・・・足音をわざと小さくして・・・」
しまった。もっと考えてから出るできだった。
「ヴィオ〜〜さぁ、俺と一緒に部屋に戻ろうなぁ〜〜〜」
伸びてくるシャドウの手を俺は後ろに下がって避ける。
シャドウはなおも俺に手を伸ばしてきた。
俺はさらにそれを避ける。
永久運動。
「ヴィオ・・・」
「・・・まぁ落ち着け」
「俺はとっ〜〜ても落ち着いてるぞ?」
「落ち着いてる奴は自らの背からどす黒い炎は出さん」
「・・・いいから来い!!」
「嫌だ!!」
俺は身を翻し、走り出す。
モンスターなら倒すなりなんなりと方法はあるが、今は逃げる以外手はない。
「逃がすかっ!!」
ギョッルっとすごい勢いでシャドウが飛び掛ってくる。
「っく・・・カワリミっ!」
俺は懐に仕込んでいた本を放り、後ろに大きく転がった。
ぱこんとシャドウに当たった本は見るも無残に燃えるごみへと変わっていく。
「あああ俺の本が・・・」
「ヴィオ・・・」
シャドウの視線がいつもの100倍、痛い。
燃えた本に合掌しつつ、俺は少しでもシャドウと距離を取ろうと後ずさる。
どん、と俺の背が壁にぶつかった。
・・・絶対絶命。
「ヴィオ・・・もう逃げられないぞ・・・」
シャドウが至極嬉しそうな顔で俺ににじり寄る。
ああ、レッドも似たような笑みを浮かべていたことがあったなぁ。
・・・なんていってる場合じゃないか。
がっちりとシャドウに捕らえられ、俺の命運も尽きた。
今度は自分に合掌。
「俺以外考えられなくさせてやるからなぁ〜〜〜♪」
「ちょっ、待て、シャドウ・・・・・・」
シャドウの黒い笑い声と俺の悲鳴は、月の無い夜に吸い込まれていった。
fin.
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