+この笑顔でいつまできみをはぐらかせるのでしょうか+


ベットの上でうつ伏せから仰向けに変える。
本を読むために支えていた肩が少し軋んだ。

「さてと・・・そろそろ寝るか・・・」

本を置き、蠟燭に手を伸ばしたところでシャドウが居ない事に気付く。
一体どこに・・・。

「ヴィオヴィオー!!」

ああ、いた。

「・・・なんだ、騒々しい」

シャドウがぱたぱたと元気良く駆け寄ってくる。
騒がしい事この上ない。

「あのな!これっ!!」

シャドウは嬉しそうに薄く四角い物体を差し出した。
それは一冊の本。

「『これ』じゃなくてちゃんと言え」
「えっとな、この本読んでくれ!」

寝る前の本読み、ということか。
・・・めんどくさい。

「・・・・・・・・・また今度な」
「やだ!今読め!!」
「駄々っ子・・・」
「読ーめー!」

ベットに飛び乗り、俺の横に倒れこむ。
ああ、うっとおしい。

「シャドウ・・・明日にしないか?俺はもう眠い・・・」
「やだ。明日読んでもらうのも決めてるから今日はこれを読め!」
「・・・・・・・・・・・・・」

読まなければ本当に俺を寝かすつもりは無いらしい。
疲れたを代弁する溜息が漏れる。

「わかった。読んでやるから本を貸せ」
「やったっ!」

シャドウは俺に本を渡すとささっとシーツにもぐりこむ。
そのまま頭だけ上げて、シーツを被った。

「かくれんぼじゃないんだからな、頭ぐらいちゃんと出せ」

シャドウの頭まで被さっていたシーツを引っ張り、肩まで降ろす。
当のシャドウはお構いなしに『早く』と枕にしがみついて本を押し付けてきた。

「ハイハイ・・・えー、昔々・・・」


昔々、あるところにひとりの少女がいました。
少女の父親は大富豪ですが、仕事でめったに帰りません。
少女の母親は早くに死に、今は継母と2人で国外れの豪邸に住んでいました。



「ありがちな話だな・・・」

短編の話か・・・。絵本と大差ない話じゃないか。

「ヴィオ!続き!」
「分かった分かった。あー・・・継母は・・・」


継母はとても意地悪な人で、いつも少女をいじめていました。
少女は継母をお母様と呼んだことはありませんでしたが、それでも継母の言うことは聞いていました。
逆らうと、父親に怒られるかもしれないからです。

そんなある日の事でした。少女に好機が訪れました。
鷹狩りをしに来た王子様が、少女を見初めたのです。

『どうか私と結婚して、王妃になってください』

王族と富豪だが庶民という身分の違いを超えて、王子様と少女は結婚しました。
少女はもう継母にいじめられることありません。
しかし、

『どこへゆくのですか!?』
『殿下、ほら小鳥がこんなに・・・』
『あなたは外へ出てはいけません。私の妻なのですから』
『・・・はい。ごめんなさい殿下』

少女はずっとお城に閉じ込められ、外へ出ることは出来ませんでした。
自由が無い。これは継母と居たときと変わりませんでした。

『私はなんなのでしょうか・・・』

次第に少女は王子に騙されているような気になってきました。
本当は自分の事など好きなのではなく、ただ道具として傍に置いているだけでは・・・。
少女は気分を変えるため、廊下へ出ました。
すると、ひそひそと声が聞こえます。

『王子は姫様にかまわず、ずっと政務をなさってるわ。お可哀想に』
『あら、私はこの前女の人と居るのを見ましたよ』

少女はこの言葉に愕然としました。
やはり王子は自分を道具としか見てないのです。
自分ではなく、富豪の令嬢という事しか見ていなかったのです。

『殿下、私は道具ではありません』

少女はそう書き残し、自ら死んでしまいました。
それを知った王子は嘆き、悲しみました。

『確かに私はお前を利用していたかもしれない。それでも、本当に愛していたのに』

そして王子様は・・・・・・・・・・・・・、



「・・・シャドウ?」

いつの間にかシャドウは眠っていた。
まったく、人に読ませておきながらいい気なものだ。

「・・・この本はもういらないな」

この本を読んでいると、どうも疲れが増してくる。
自分の事じゃあるまいし―――。

「っ何を考えているんだ俺は・・・」

シャドウといると時々無駄な思考が働くようになってきている。
自分の事ながら理解に苦しむ行為だ。

はぁ、と思わず溜め息が出る。

今の俺には何かが足りないのだろうか?グリーン達と居ないせいか?
いやそれは違う。何かもっと・・・気付いてない、に近いような感じだ。
あの本の中の王子が少女の孤独に気付けなかった様に。

「俺が気付いていない事があるのか・・・?」

自問自答しても、どうにも答えが見つからない。
馬鹿馬鹿しくなって、考えるのを止めた。

「俺は、光の勇者なんだからな・・・それを全うするだけだ」

横で眠るシャドウにぼそりと呟いてみる。
安心しきって眠るシャドウは、身じろぎもしない。

「やれやれ・・・・・・・・・あ・・・」

本が俺の手から離れて床に落ちる。
ぱらりと、本の挿絵が見えた。

それは微笑んでいる王子が、血まみれで床に倒れている絵だった。





















                                          fin.






+メモ+

本の中のお話は管理人の造話です。
ちなみに↑のシャドウとヴィオはまだ出会って3日です。












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