+愛+
フォーソードを聖地に戻してから、時が経った。
俺が『リンク』の中に戻ってからも、時は流れた。
『リンク』に合わせてかどうかは分からないが、僅かながら俺も成長していた。
成長と言っても精神面での成長でしかないから、見た目はほとんど変わっていない。
ただ、当の『リンク』は背も伸び、騎士団の団長補佐にまで登りあげた。
俺は今、シャドウと一緒に影の世界にいる。
影の世界とはいっても、『リンク』の中に過ぎないのだが。
果ての無い薄暗さが続き、濡れない泉の上に立っているような感覚の場所。
特に不快感は無い。既に慣れたと言う所か。
ここには、俺とシャドウしかいない。
「ヴィオ、どうしたんだ?」
「シャドウ・・・・・・いや、少し考え事をしていた」
「そっか・・・」
シャドウは『リンク』の中に戻った後も、影の中に居た。
だがそれは、俺にとって目の前に居るのに触れられない状態だった。
俺は『リンク』の光の場所に。シャドウは『リンク』の影の場所に。
シャドウは一緒に居られるから、隔てられていても、それでもいいと言った。
俺は、よくなかった。
裏切ったことを話して、ちゃんと触れられる所に行きたかった。
そして、俺はシャドウと居るために影に堕ちた。
それ以来、一緒に『リンク』の中に戻ったレッドとブルーには会っていない。
それでも、いつも一緒に居るという感覚はある。
彼らも同じ『リンク』の中にいるのだから、当然かもしれないが。
「・・・ヴィオ、ヴィオ!」
「ん・・・なんだ?」
「なんだじゃない、ずっとぼーっとして。どこか悪いのか?」
「考え事を・・・」
「ここで俺の声が聞こえないほど、悩むことがあるのかよ」
シャドウはむ、と顔を顰めている。
俺はなんだか気まずくなって顔を背けてしまった。
「・・・すまない。昔の事を思い出してた」
「昔・・・」
「・・・シャドウにとっては、あまりいい思い出ではないかもしれないからな」
俺は勇者であった時、シャドウを裏切った上に一度消滅までさせた。
謝罪もできないままにシャドウは自らの命を、闇の鏡を割った。
「ヴィオ・・・でも俺は悪い思い出だけじゃなかったから」
「だが、俺はお前を・・・」
「ヴィオと居た時は楽しかった」
「俺は・・・シャドウに嘘をついていた」
シン・・・と辺りが静まる。
影の世界は元々暗い。光が見えるのは『リンク』が光に当たって影ができた時のみ。
そんな所で音もなくなってしまったのでは、静かな闇に支配されるだけ。
しばらく黙っていたが、不意にシャドウが口を開いた。
「ヴィオ、覚えているか?昔、俺がヴィオに言ったこと」
「・・・なんだ?」
「俺の前から居なくなったら、殺してやるって」
「・・ああ、覚えている」
炎の塔に居た頃。
月がとても綺麗な夜にシャドウが言い出した約束事。
『もし、ヴィオが俺の前から居なくなったら』
『居なくなったら?』
『追いかけて、見つけて、捕まえて、それから』
『それから?』
『・・・殺してやる』
シャドウは愛を囁くような声で、そう言い放った。
『・・・なかなか厳しいな』
『でも、愛してるから』
シャドウはするりと俺の首に手を絡めて、軽く絞めた。
苦しくはない。温かい掌の感触が伝わる。
しばらくして、シャドウはゆっくりと手を放した。
『・・・本当は、愛なんてよくわからないけど』
そう言うと、シャドウは俺に口付ける。
触れるだけの、ささやかな接吻。
『・・・俺も、よく分かってないかもしれないけどな』
月に照らされたシルエットが折り重なった。
俺は嘘を含んだ深い口付けをシャドウに送った。
今、シャドウは俺の目の前にいる。
『リンク』の中だけど。それも、『リンク』の影の部分にいるのだけど。
成長していく『リンク』を、俺と一緒にずっと影で見ている。
「ヴィオ、今でも愛してる。でももう殺しはしない・・・殺せない」
「それは・・・ありがたいな」
「ヴィオに裏切られた時はさ、俺、ヴィオを殺そうとしたけど・・・今は殺さなくて良かったって思ってる」
「シャドウ・・・」
「だから、もう気にしなくていいから・・・」
シャドウはそっと俺の手を握った。
温かい手。
俺はその手にを取って、シャドウを強く抱きしめる。
「・・・っヴィオ?」
「今は嘘じゃない。嘘じゃないから・・・」
俺はシャドウを抱く手に力を込めた。
シャドウも俺の背に腕を回し、優しく抱きしめてくる。
「・・・・・これが愛だと思うか、シャドウ?」
「ヴィオがそうだって言うんなら、これが愛だ」
くすくすと、シャドウは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
俺もつられて柔らかく微笑んだ。
歪んでボロボロになった挙句、やっと形になったもの。
それが俺達の、『愛』の形。
fin,
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