+Secret of the evil+



寄り添って生きてはいけない。
対等に向き合って銃を突き付けて、たまに横に並ぶ。
そのぐらいが、ちょうどいい関係。
浮気より不倫よりもずっと危険な駆け引き。
だから、この秘め事は雨の影に隠してしまおう。
禁断な甘く不埒なこの行為を流してしまおう。
誰にも見つからないように。








夜の冷たい雨がひたすら窓を打っていた。
だがその水音は室内の水音と濡れた声でかき消されている。
妖艶に輝く真っ赤な照明は暗闇の中のその肌を照らし出した。
部屋の中央のスプリングの利いた大きなベッドがぎしりと鳴る。
純潔な真っ白のシーツの上で行う秘め事は、まだこれから。

「あっ・・は・・ぁ・・・ん・・ウル、フ・・・」

指で丹念に蕩かされた場所に、自らの愛撫により昂らせたもので貫かれる。
その腰と狼のしっぽが揺れて秘所の奥まで擦り上げられる度に、達した時と同じ快感を得た。
ぞくぞくと、頭の天辺から足の指先まで痺れが走る。

「あ・・・熱・・・・・ぁ・・つ、い・・・・」

業火。
熔けそうどころではない。
焼け焦げて身体の境目がわからないぐらいだ。
仰け反らせた喉で熱い、熱いとか細く伝えれば男が笑うのが分かった。
ズンと一番奥まで潜り込ませて、動くのをぴたりと止めてしまう。

「・・・っや・・・やめ・・・る・・な・・・・っ!」

快感がなくなると途端に心許無くなる。
続きを促すように内の楔を締め付けた。
一瞬ウルフが眉を顰めるが動く気はないらしい。
とどめをさせという懇願ではなく、捕らえた獲物の反抗を待っている。

「・・・・っこの、やろ・・・・ぅ・・・」
「ちんたらしてるとシガーでも吸うぜ?」

ベッドに投げだしていた腕にどうにか力を込めて男の顔に持っていった。
震える指で眼帯の上に触れる。
ウルフは一瞬身構えたが、すぐに大人しくなった。
外しても、良いのだろう。
爪を引っ掛けないよう慎重に外してベッドサイドのテーブルに置く。
悪い眼つきが2倍、悔しいがかっこ良さが4倍増しだ。

「・・・それで?」

身体を身じろがせ、よりウルフに身体を密着させた。
もう互いの服は全てに床の上に丸まっている。
自分より筋肉があって大きい身体が憎らしい。
それでいて弾力があって鋭いくせにしなやかなのだから、弱点など何もないと思う。
腰に足を回して、外れないよう足首で固定する。
これで達したら、承知しない。

「んっ!!」

腕と腹筋を使って、起き上がる。
同時に不可抗力だが男のものをきつく締めつけて。
ウルフはそのまま仰向けに倒れ、腹の上に俺を置いた。

「締め付け過ぎだ、痛ぇだろうが」
「そっちが、意地悪するから・・・だろ・・・」

はぁと大きく息を吐いて腰を揺らす。
もう、好き勝手に動く。
そう仕向けたのは向こうなのだから。

「んっ・・あぁ・・あっ・・はぁ・・・っ」

髪を振り乱して揺れた。
ウルフが淫乱、と目で笑っている。
獣の口を開いて自分よりも大きな牙をもつその口にキスをする。
獲物を捕らえた肉食獣がするような、肉を噛み切る深いもの。
喉の奥まで届く舌に苦しさを味わされながらも自分のものと長く絡める。

「ふ・・・ぅ・・・ん、ぁ・・・・んん・・・・」

ガクガクと身体が震えた。
口角から飲み込みきれない唾液が空腹の犬みたいに溢れる。
泡を割って、よくやく官能的な口付けを終了する。
もう、煽れるだけは煽った。
あとは、ウルフの番。
大きく息を吸った瞬間、両腕を押さえつけられ押し倒された。

「ひっ・・・!」

内の猛りが荒々しく奥まで擦り上がる。
刹那に目の前が白く染まり、耐えていた涙が零れた。

「・・は・・・ウルフ・・・っ」
「足は絡ませたままにしとけよ」

短く言われながらズンと深く穿たれて嬌声が上がる。
深いのに激しく突き上げられ抵抗する言葉すらままならない。
視界がぐらりぐらりと回る。
身体の全てが熱い。
顔も手も腹も足も、繋がっている箇所も、全て。
自身や秘所からの雫がいくら体内の熱を纏って溢れても収まらない。

「やぁ・・・ア、ああぁっ!・・・・・はあ・・っン、くぅ・・・っ!」

ウルフの爪が彼よりずっと細い自分の腰に食い込む。
あとでミミズ張りができていそうだと頭の片隅で思いながらも、律動を止めて欲しいとは思わない。
ただ熱に呑まれるようにして快感を追っていきたい。
胸の奥がとくとくと苦しいのは、愛されることの喜びは知っているからだ。
はしたなくよがればよがるほど、優しい口付けや愛撫が降り注ぐ。
醜く堕ちていけばいくほど、心を伝えるような手管を与えられる。
こんなにも粟立つ肌はウルフのせいだと、言葉にできないかわりにひとつ吠えて。

「ふぁ・・・あ、もっと・・・っ!」

すっかり汗ばんだ肌が跳ねた。
抑えの利かない腰が自然と揺れ踊る。
それすら抱き潰すようにより一層ウルフが蹂躙してきた。
ぐちゃぐちゃと粘着質な水音が爆ぜる音がどんどん速くなる。
ああもう、我慢できない。
目で訴えればウルフの手が濡れそぼりびくびくと反応を返す自分のものに手を伸ばした。
そのまま達することを許すように刺激を与えていく。
同じく昂っているもので奥まで突き上げるのも忘れずに。
その手管に、あっという間に陥落する。

「っ!だ、めっ・・・・・もぅ・・・イっちゃ・・・ふぁっ・・・・・ああああアァァッ!!」

頭の中が白く塗り潰される。
深くどこかの底なしに落ちる感覚に酔いしれた。
甘い吐息が零れて、余韻でひくつく秘所の熱を思い出す。

「俺様はまだイってねぇぜ」

ああ、目の前の男はまだ自分を食い終わってはいない。
これで、ほんの味見した程度なのだろう。
拍動と共に吐き出した自分の蜜液がぴちゃりと鳴った。

「・・・ウルフ・・・・・」
「もっといい声で啼かせてやるぜ?」

暗に、もっと深いところまで落としてくれるということ。
ウルフの言葉に、自然と自分の唇が弧を描いたのが分かった。


















太陽こそ昇っていないものの、大分時間が経った後。
いい加減限界を超えて、くたくたな身体をベッドに投げた。
ウルフもようやく自分を解放してくれて、のん気にシガーを吸っている。

「・・・流石に疲れたな」
「あ、あんなに・・するから・・・・ホントに腰が壊れるかと思った・・・」

不満たらたらな声で呻く。
腰は痺れているし、おそらく朝まで立つことはできないだろう。
機体乗りとは言え身体は鍛えているし、何より急激なGに耐えるため下肢も強い。
下肢を鍛えればそれなりの精力もおのずとついてくるわけで。
満足いくまで抱かれた己の身体を起こすことすらしたくなかった。

「・・・今日、そっちの仲間に黙って出てきたんだろ」
「あァ?」
「連絡しておかないと、気にされる。クリスタルもいるんだし」
「・・・てめぇの方はいいのか」
「別に。もう・・・ナウスだけだからな」

寂寥感がないと言えば嘘になる。
けれど追うわけにもいかなかった。
人には人の道がある。それを止める権利は自分にはない。
ついてこれる者だけが自分についてくるのだ。

「俺は今のままでいい、もう、誰とも・・・・・」

唐突に言葉が塞がれる。
唇どころか、その周りまで食らうように呼吸を奪って舌で口腔内を貪る。
ああ、シガーの匂いのキスのなんて苦い。
ごくりと伝わってきた唾液を情事の続きのように呑み込んだ。

「・・・俺様のモンだ」

断罪するように言い切られ、呆気に取られる。

「・・・強引」
「てめぇが余計なこと気にし過ぎなんだよ」

フンと鼻を鳴らしてウルフがシガーを灰皿に飛ばす。
灰色の煙と共に弧を描いて落ち燃えていくそれは、ひどく自分と重なる気がした。
何もかもこの男に吸い込まれ、満足すると吐き出されて。
俺も所詮、嗜好品に過ぎないのか。
愛されているのはそれ故なのか。

「はぁ・・・」
「・・・終わった途端に可愛げが失せるな、てめぇは」
「おかげさまで」

皮肉たっぷりに言い返せば男の瞳が細められる。

「俺様はてめぇがそうやって寂しがれば寂しがるほど楽しいがな」
「なっ・・・・!?」
「あのロボットもいらねぇ。てめぇはずっと一人でいやがれ」
「そ、そんなことできるわけないだろ。そうなったら俺は艦から降りないといけなくなる」
「・・・・・まぁ、撃ち合えなくなるのは癪だが・・・」

ウルフが新しいシガーを取り出して火を点ける。

「そうしたらてめぇを、・・・・・・・・・・・・あぁ・・・・なんでもねぇ」
「・・・なんだよ」
「忘れろ」

溜息のようにふぅと煙が吐き出された。
この男の肺の中を這いずった、憎い煙。

「じゃあ、忘れてやる」

本当は、言いたいことが分からないわけじゃない。
あれだけ身体を繋いで心を吐露したのだから。
きっと俺が孤独になればなるほど、ウルフの独占欲が満たされるんだろう。
強欲な男だ、俺を一人きりにしてようやく本当に愛してくれるのだろう。
空気みたいな檻に、閉じ込めて。
誰にも奪われないぐらい孤独に落とすのだろう。




そんな甘美な檻、愛していると言ったらいつでも入ってやるのに。




俺の溜息もウルフのシガーの煙に混ざって消えていく。
情事のほんの刹那に感じる永遠があるから続くこの関係。
自分に向かって放たれた弾丸がスローモーションで見える時と同じような感覚。
雪のように恋も愛も消えてしまうけれど、たった一瞬のために何度でも胸の内に蘇る。
他愛ない恋が、揺るぎない愛に変わる一瞬。
その一瞬こそが、唯一俺がウルフを捕らえられる檻の完成。

「・・・・俺は別にウルフなんかいらないからな」
「そうかよ」

この言葉が、目の前で小馬鹿にしたように笑う男に、せめてもの当てつけになればいい。




















                                         fin.





















ブラウザバックでお戻りください。