(アイク+トワリン)

「暑いな・・・」

ぽたりと額から汗を一筋零しながら、アイクが呟く。
一頻り剣を振るった鍛錬の休憩にと、木陰の根元に腰を落とした。
掌で顔に滴る汗を拭い、上半身の濡れた服を脱いで放る。
絞ったら水が落ちそうなほど汗を吸った上着に、もう着る気を失くしてしまう。

「脱いでからすればよかった・・・」

高貴な女性に見つかりさえしなければいいだろう。
楽観的にそう考え、木にもたれかかった。
静かな風に吹かれる葉っぱの声、遠くに木霊する鳥の囀り。
瞳を閉じれば、過去の賑やかな食卓が蘇った。

自分がいて、父親がいて、仲間がいて。

ふと、その中で妹のことを強く思い出す。
あの頃、洗濯は妹に任せきりだった気がする。
汚れた服を放って置けば、少し怒りながら注意をしてきた。
自分で洗っても、なぜか妹ほどきれいに洗えたことは一度もない。
むしろ自分ですると力が強すぎて服が痛むぐらいだった。

「ミスト・・・」

ここでの不自由ない生活の中で、急に恋しく思う。
もう年頃なのだし、自分の知らない所で恋をしたり大人になっていくのだろうか。
いや、女性なのだからもしかしたらこの兄よりずっと大人なのかもしれない。

「複雑だな・・・」

家族と言うのは一体どこまで心配することを許された存在なのだろう。
物思いに耽るアイクに、すっと影が差し掛かる。

「・・・アイク?」
「・・・ん」

薄らと目を開けば厚い本を抱えたリンクがこちらを覗き込むように立っていた。

「リンクか」
「気分でも・・・悪いのか・・・?」
「いや、休憩していただけだ」
「・・・その割には、難しそうな顔を・・している・・・」

言われてアイクは自分の顔に触れる。
触って分かるものでもなかったが。

「妹のことを考えていたんだ」
「妹・・・いたのか」
「ああ。リンクに兄弟はいるのか?」
「・・・弟みたいなのは、いる」

リンクの顔を窺うに少しややこしそうな背景が見えた。
アイクはぽんぽんと自分の横の空間を叩き、リンクに座れと促す。
それに反抗することなく、あっさりとその空間は埋められた。

「リンク、兄というのはどこまで下の子のことを想っていいんだろう?」

唐突な質問にリンクは一瞬きょとんとするも、真剣に眉を顰めて考えだす。

「その、子にもよるんじゃないのか?」
「・・・年頃の女の子だ。性格は明るい。兄の俺が言うのも何だがいい嫁になると思う」
「自慢の妹、だな」
「何が妹の将来にとって幸せで、それについて俺ができることは何だろうかと」
「そうだな・・・難しいな」





ううんと2人で頭を抱え、ああでもないこうでもないと言い合う。
1時間ほど悩んで結局出た答えとは。

『女性に聞いた方がいい』

結局蛇の道は蛇ということに落ち着いてしまったのだった。

「・・・妹だと、心配が多いんだな・・・」
「まぁ、な。・・・だが・・・悪くは、ない」

とても穏やかな顔で呟くアイクに、リンクはそれを少しだけ羨ましそうに眺めるのであった。




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(ソニック+スネーク)

自分は何も悪くない。
自分の正義と感情をもって、スネークと会話をしていた。
それが――今ではひどいスラングの飛び交う口論となっていた。

「蛇!何だこの××××!!」
「何だと!お前は××××だろ!!」

テレビだったらピーなりバキューンなりの擬音が入りそうな程のスラング。
元々スネークと俺は仲があまり良くない。
向こうだってこちらの第一印象は相当に悪い。
それだけで十分なのがさらに日頃の意見の食い違いを発見してしまったのだ。
争いの原因を忘れてしまう程、口論は激化していた。

「分からず屋!」
「石頭の鼠!」

お互い口汚くスラングを怒鳴ろうとした瞬間。
自分とスネークの間に足を転ばせるような烈風が走った。
飛んで来た側を見ると抜き身の剣を携えたリンクが立っている。

「お前ら・・・いい加減に、しろ・・・」

金糸の髪の間から見える瞳は既に怒りに燃えている。
ゴクリ、と嫌な事だが同時に唾を飲み込んだ。
こちらの立場は蛇に睨まれた何とやら、である。

「見ろ・・お前らの剣幕に・・・・ピットが怯えてる・・じゃないか・・・」

剣先で部屋の隅のダンボールを指す。
そこには羽を震わせながらこちらを窺う天使の姿があった。

「それはお前さんにじゃないか?」

スネークの軽口はすぐさまリンクの強い視線に塞がれた。
そのままリンクは剣を一振りして刀身を輝かせる。
この馬鹿蛇、と怒鳴る間もなく再び烈風に襲われる。

「2人とも・・・正座しろッ!!」

美形の勇者は鬼の様な形相で叱り付けたのであった。




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(ソニック+ピカチュウ)

まだマシなのだろうか。
もしもリンクがあの飛び交ったスラングの意味を正しく知っていれば。
この度の足が痺れて立てなくなるまで説教というのは優しい方なのだろう。

『刺されてないだけマシだよ、ソニック』

と、スラングの意味が分かるフォックスは苦笑していた。
それにしたって自分は悪くない、と思う。
リンクが去った後で怒られたことに対してまた言い争いになり。
今度はピットが止めたため、それ以上発展はしなかった。
気まずい空気で肩が凝ったため、ずこずこと自室へ戻る。

「ソニック、またやったの」

自分の部屋の前ではピカチュウが待ち受けていた。
彼を部屋へと招き入れながら、柄にも無く溜め息を吐いてしまう。
自分はベッドに腰掛け、ピカチュウは椅子に座ってこちらを見詰めた。

「あのね、ソニック。いつも僕が言ってると思うんだけどね」

―――始まった。
ピカチュウの説教は静かだがとにかく長い。
自分からすれば月に行って帰れる程長い。

「ソーリーソーリー・・・いやマジで」

降参と両手を顔の高さに掲げ、顔は下を向く。
説教はリンクがした分でもう充分なのだ。

「じゃあスネークと仲直りしてきなよ」
「ワッツ!?なんで俺が頭下げなきゃいけないんだ!」
「突っ張る事には命賭けるくせに、ケンカした相手に頭も下げられないの?」

呆れたようなピカチュウの視線が痛い。
だが、自分から謝りに行くというのは癪だ。
大人気ない。そんなことは分かっている。

「けど・・・やっぱりノーだ!!」

高らかにそう宣言した瞬間、パリッと静電気を感じた。
静かに鼓を描く彼の唇から繋がる頬には、目に見えるほど電気が溜まっている。

「あ、いや、その、今のは、な、ナシ・・・」

どこからとも無く彼の世界のバトルテーマが流れてくる。
戦う前に既に電磁波に捕まっている俺。
自分の右上に体力メーターのようなものが表れた気がした。

ソニックは からだが まひして うごけない !!
ピカチュウは げきど  した!
ソニックに ちめいてきなダメージ !
ソニックは ちからつきた !!

げっそりとも炭とも見分けの着かなくなった俺は部屋から放り出される。
英語を言う暇も無く色々な意味の雷を落とされて、精根尽き果てたのだ。
『ちゃんと謝ってくるまで部屋に入れない』とのお達しまでいただいて。
俺の部屋なのに。最悪今晩は廊下で寝なくてはならないのか。

「部屋奪還のためだ・・・謝りに行くか」

それ以上に、これ以上ピカチュウの雷を食らいたくは無かった。




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(スネーク+ピット)

所変わってスネークの部屋では。

「うまいか?」
「ハイ!」

天使の羽を心地良さそうに触る蛇がいた。
ピットも黄色い箱に入ったお決まりの栄養調整食品を頬張っている。

「リンクの説教は肩が凝るんだ・・・」

アニマルセラピーを感じるように羽を梳いた。
ピットは首だけ捻ってしょうがないなぁという顔を作る。

「スネークさん、喧嘩は駄目ですよ、めっ!」

無邪気な子どもはスネークの鼻先を掠めるように羽を羽ばたかせた。
された側としてはただ可愛く見えるだけで怖くもなんとも無い。
『そうだなぁ』と口先で受け入れたフリをして触感がクセになる羽を再度撫で始めた。

「ん、ごちそうさまでした!」

最後の欠片を飲み込んでピットがスネークに抱きつく。

「そういえばスネークさん」
「何だ?」
「ソニックさんと言い争ってた時の××××とか」

いきなりのスラングにスネークは身を強張らせた。
部屋の隅にいたとはいえ、あれだけの大声なら確実に耳に届いていただろう。

「他にも××××とか、どういう意味だったんです?」
「あー・・・人を罵る言葉だ。ピットは知らなくていい」
「でも僕、他の人がその言葉を使っていたら止めたいです」

どこまでも正しい行いをする天使の興味を引いてしまったらしい。
だがいくら罵倒に使わないからと言って教えてしまうのも些か気が引ける。
本来ならば知る所か耳に入れなくても良い言葉だ。
今更になってリンクの説教が耳に反響する。

『子どもの教育に悪い!!』

「そうだなぁ、ピットがもう少し大きくなったらな」
「大きくなったら、ですか」

納得できずに不満気な顔をした。
さてどうしたものかとスネークが髭の生えた顎に触れる。
それでも良い言い訳が見つからず唇を尖らせた時だった。

「ハロー・・・おっさん」
「わっ・・・ソニックさん」
「お前・・・ノックぐらいしろよ」

ノックもせずには行ってきたのはソニックだった。
若干やつれて見えるのは気のせいだろうか。

「さっきはソーリー!詫びだ!!」

ブンとスネークの顔に花束が投げつけられる。
そのまま踵を返して刹那の嵐は去ってしまった。

「これが詫びか・・・」

口に入った花びらを飲み込んで眉を顰めた。
なかなかセンスの良い花を選んで集めてある。
しかしこれをどうすればいいのかわからず、手の中で遊ばせた。
花を生けたことも無ければ飾った事も無い。
花束を握るのは――墓場の前だけだったのだから。

「キレイですね」
「あぁ・・・ま、アイツは花が好きだからな」
「そうなんですか?」
「水が苦手とも言っていたが」
「スネークさんはよく知っていますねー」
「・・・・別に知りたくも無かったが・・・・」

花束から数本ずつ抜いて、無造作にそれを編んでいく。
編みあがったそれを同じようにピットの頭に乗せた。

「花冠・・・でも、この花ソニックさんが・・・」
「生憎俺は花瓶を持っていなくてな。酒瓶ならあるんだが」

そう言ってニヤリと笑えば、ピットも『めっ!』と言った時と同じ顔をした。

「・・・スネークさんから言い出すの、もうちょっと待つんですか?」

スネークの気が変わるか、ソニックが本当に心を変えて謝りに来る時まで。

「もう謝罪も必要ない気するが。いつも通りになった事だしな」
「けど、ソニックさん、謝りに来ちゃったじゃないですか」
「あれはピカチュウに後押しされたからだろう」

ピットは何も言わないまま、随分大人びた顔で笑う。
少し仲が悪いぐらいの方が良いんだ、とスネークが言い訳じみた口調で言った。




「ヘイ!ピカチュウ!謝ってきた!!」

勢いよく自室のドアを開き、中にいるピカチュウに叫んだ。

「はいはいよくできましたー」

すっと半分の切られたリンゴを差し出され、ソニックの動きが止まる。
片方は切りっぱなし、もう片方は種も皮を切り取られていた。

「早く取りなよ」
「オ、オーケー・・・」

とりあえず剥き出しのリンゴを取る。
半分残った皮付きリンゴをピカチュウは景気良く齧った。

「食べれば?」

しゃくしゃくと頬を膨らませながら促す。
ソニックは言われるまま齧ろうとしてハタ、と気付いた。

「アー、ピカチュウ・・・」



ありがとう、叱って謝りに行かせてくれて。



口に出さないけれど、これだけは言っておく。
スネークは気持を含んだままで平気なのだけど。
そうはいかない自分はきっと謝らなかったら明日からスネークを無視してしまっていただろう。

「・・・サンキュー」
「どういたしまして。まぁ皮剥くのは苦じゃないから」
「・・・そっか」

しゃく、とソニックも甘酸っぱいリンゴに齧り付いた。


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