(フォックス×時オカリンク)
買い物帰りの木枯らしのような風が狐の耳を揺さぶる。
耳の奥に滑り込もうとする冷風に、フォックスはぺたりと耳を倒した。
「寒いなぁ・・・」
ほぅと吐いた息は白くは見えないものの、温い湿りを帯びている。
町並みの色は緑から赤、黄へと変わり夏とはまた別の鮮やかさを放っている。
「もう秋ですから」
「リンクは寒くないのか?」
「寒いですよ。今日だけで何度もくしゃみが出ましたし」
2人で買物袋を提げて落ち葉の道を歩く。
今日の晩御飯は湯豆腐。
買い出しの彼らの手には大量の野菜と豆腐があった。
「月もきれいだったし、そろそろ冬の準備かな」
「ええ・・・夜も長くなってしまいました」
「食べ物はおいしくなるんだけどなぁ」
ちら、と買い物袋を見る。
寒くなって食欲が出ているのは確かだ。
「秋たけなわ、ですね」
「秋たけなわ?」
「ふふ、皆さん食欲の秋、ということですよ」
穏やかな青い瞳は紅葉からフォックスへと向く。
「え、まぁ、カービィなんかは年中食欲の季節だけどな」
「いいえ。皆さんも秋は少し食事の量が増えてるんです」
「え、てことは俺も?」
返ってきた返事はにっこりと微笑んだきれいな顔。
言葉に出さないささやかな肯定。
「・・・俺、自己管理はできてるつもりなんだけどなぁ・・・」
よく料理を手伝っているのに気付かなかった。
リンクがさりげなく食事の量を増やしていたなんて。
「別に分からないようにしているわけじゃありませんよ?」
「まぁ・・・そうだろうけど」
「皆さん太らないのは乱闘するからでしょう」
「運動の秋だから?」
運動、というには少し度が過ぎているが彼らにはちょうどいいだろう。
その分お腹がすくのも当たり前のことだ。
「リンクはその、しんどい思いしてないか?」
「私は皆さんがおいしいって言ってくれるだけで幸せなんです」
それに空腹は最高の調味料ですから、と笑う。
リンクは自分の作ったもので他人が喜ぶことを好む。
それは至極真っ当で、行うのは意外と難しいこと。
「俺はリンクのご飯が食べられたら幸せだよ」
お世辞ではなく本心からいうと、リンクは急に早歩きをしだした。
くしゃくしゃくしゃと彼が踏んでいく落ち葉が騒ぐ。
「リ、リンク?」
持っている豆腐を崩さないよう気を使いながら追いかけた。
並木道を抜けた所でようやくリンクは立ち止まる。
「どうしたんだ?」
「いっいえ・・・」
見ればリンクの頬や耳が真っ赤になっていた。
手をかざせば熱気が伝わってきそうなほど。
「あ、もしかして風邪気味なのか?顔が・・・」
「だ、大丈夫です。さ、早く帰りましょう!」
「あ、ああ」
紅葉が広がる中、なぜリンクの頬が赤に染まったのはわからないままだった。
「(ご飯がおいしいって言っていわれると嬉しいって言ってたのになぁ?)」
「(嬉しすぎて恥ずかしい・・・フォックスさん大好きです)」
彼らの仲の『秋』はまだ来そうにない。
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(アイク+マルス)
足元から凍った水が壊れる音が鳴る。
まだちらちらと小さな塊となって降り落ちる白い結晶。
滑りそうになるのに気を払いつつ、アイクは朝の鍛錬を行う。
手に持った剣は外の気温と同じく冷え冷えとしていた。
ジン・・・と冷え切った細かな振動を掌に伝えてくる。
それを片手でしっかり握り、鋭く上げ下ろしを始めた。
「5・・6・・7・・・」
白い息を何度も吐きながら剣を振るう。
一定のリズムを崩さず、ひたすら連続した。
「499・・・500!」
500回ほど振り下ろしたところでぴたりと腕を止める。
パンパン、と背後から手を叩く音が聞こえた。
「朝から熱心だね、アイクは」
「マルスか」
「雪、少し積もったんだね」
「風邪を引く、宮に戻った方がいいんじゃないか?」
アイクとマルスは宮で暮らしている。
そこは王族などが暮らしており、他にもゼルダやピーチが住んでいる。
アイクは本来そこに住むつもりはなかった。
トレーナーのようにきままなテント暮らしをするつもりだったのだ。
それが、マルスに『雇われる』という形で暮らすことになった。
『雇われる』といっても大した仕事はなく、給金も大したものではない。
「それはアイクも同じだろう?」
「俺は風邪はひかない」
そう言うとマルスはものすごく納得した顔をする。
「?・・・なんだ?」
「なんでもないよ。僕、今日は炭焼きのコーヒーが飲みたいな」
「炭焼き?」
「うん。だからあとで炭鉢を運んでくれるかな」
「わかった」
どうもマルスは力仕事が苦手らしい(アイクは勝手にそう思い込んでいる)。
そのために雇われたのだろうと感じていた。
「あとどの位鍛錬を続けるの」
「反対の腕で500回振った後、両手で1000回振る」
「・・・じゃあ、僕は先に宮に戻っておこうかな」
「その方がいい。炭鉢はちゃんと運んでおく」
「頼んだよ。それじゃあ」
ふわりと軽やかなマントを翻しマルスは去っていく。
足音もしゃくしゃくと軽快で今さっき起きた風にはとても見えない。
アイクは冷えてしまった手で剣を握ると、振り上げた。
アイクが鍛錬を行っている場所から少し離れた林。
マルスは宮に戻らず、一人そこに立っていた。
目の前には木々の間に作られた大きなクモの巣。
雪が降った後のせいかそれはきれいに輝いていた。
マルスは剣を抜き、すっと構える。
「はっ!」
一瞬の気合の声の後、残像が生まれそうなスピードでクモの巣を何度も貫いた。
それを30回ほど繰り返し、剣を鞘に収める。
クモの巣の間を縫って繰り出された剣撃はひとつたりともクモの巣に触れていなかった。
「こんなものかな」
雪の上に足跡だけ残して、マルスは静かにその場を去っていく。
透き通るような朝に、思い出したのは過去の愛しい人。
素早い突きの繰り返しは幻影突きという、彼の技。
剣の壁ができたかのような素早く正確な突きの剣撃だった。
振るう度に舞う金糸の髪と相手を射抜くような青い瞳が好きだった。
「後輩に負けてられないものね」
アイクのあの振り上げるような豪快な剣はどこか赤毛の少年を思い出す。
炎を振り上げ、あの爆発するような勢いのある剣はアイクのものと似ていた。
三剣士と呼ばれた古参はいまや自分のみ。
自嘲とも、懐かしい思いに口角が持ち上がった。
不意にどささ、と背後で音がする。
振り返ればクモの巣は木の上から零れ落ちた雪によって潰れていた。
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(ウルフ+トワプリリンク)
白く舞い散る花びらはそれだけで風流。
夜ひっそりと月を肴に飲む酒も良いが、花を見ながらでも悪くはない。
一年の大半を宇宙で過ごす自分が、こうして息吹ある花を愛でる。
以前ならばさして気にすることでもなかったが、今では酒の味すら変わったような気がした。
これも、ひょっとすれば横で草笛を吹いている少年のおかげかもしれない。
ちら、と視線を向ければ音色が止んだ。
「・・・ウルフ・・・」
草笛の山を越えるような透き通った音色が僅かな響きを残して消えていく。
音に背を向けるように振り返った少年の髪は、太陽の様に輝いていた。
本当に、耳でも目でも絵になるような瞬間。
「なんだ?」
「・・・酒、美味いか?」
「ああ」
ここは小高い丘にひっそりと立つ樹の根元。
年の内の限られた季節のみ花を咲かせる樹は穴場であった。
この季節以外では、この樹はただの枯れ木の様に見えたであろう。
少年が見つけなければ誰にも愛でられること無く、花を散らしたに違いない。
さわ、と細い枝先の花が雪の様に揺れる。
「良い場所、だろう・・・」
「よく見つけたな」
「・・・良い香りが、したから」
風に僅かに混ざる蜜の香り。
普通誰も気付かないようなそれに気付いたのか。
小さなボトルに入った酒瓶を傾けて一口飲む。
蜜に酒の香りが加わった。
「俺様に教えて良かったのか、こんな穴場早々ないぜ?」
「構わない」
即答の答えに押し黙る。
声色は軽々しいものではなく、むしろ背中を押すようなものだった。
「ウルフなら、愛でてくれると・・思った・・・」
「・・・まぁな」
花を愛でる趣味などない。
だが、確かにここは良い場所だ。
それらを全て承知の上でつれて来たのだろう。
いつも吸っているシガーを、今だけは必要ないと思う。
それほどまでにこの場の空気は澄んでいた。
「草笛」
「え?」
「もう少し聞かせろ」
「分かった」
どこか嬉しそうに薄くはにかみ、薄茶色した草を抜く。
そのままそれを瑞々しい唇に押し当て、高く昇る様な音を出した。
次第にメロディとなり、心地よく耳に入ってくる。
「・・・うまいな」
酒の肴は花と、彼の旋律。
ああ、酒が美味い。
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(ウルフ+トワプリリンク)
ウルフとフォックスから英語なるものを教えてもらってからというものの。
リンクの興味はその異世界の言葉に集中していた。
まだ簡単な文章しか分からないが分からないなりに楽しい。
そんなある日の折の事。
「おいガキ、最近わりと英語が読めるようになったんじゃねぇか?」
ウルフの部屋でいつもの如く壁を陣取り座っていたリンクは顔を上げた。
先程までシガーを吹かしながらパソコンを弄っていたウルフは、リンクの前にトンと跳ねる。
ズイと近寄り読んでいる本をしげしげと見詰められ、急接近した顔の距離にリンクは顔を背けた。
「(いや、別に、俺を見てるわけじゃ、ないのに)」
反り過ぎてごりっと壁に頭をぶつけたリンクには目もくれず、ウルフは本を掠め取る。
題名と何行か文章を目で追って最初のようにリンクに本を戻した。
「スラスラ読めるか?」
「大体、は・・・」
ウルフは思案するように隻眼を瞑り、パソコンの乗ったデスクに返っていく。
一体何なんだ、とリンクが目で追えば一冊の本を携えてウルフが戻ってきた。
「ほらよ」
読みかけの本の上にボン!と新たに差し出された本を置かれ、リンクは慌てて2冊の本を支える。
差し出された本はやや古びた英語の本で、おそらく書庫にあったものなのだろう。
「今の本読み終わったらそれ読んでみろ」
「わ、わかった・・・」
「ついでに書庫に返してこい」
「・・・わかった・・・」
若干後始末を押し付けられたような気がしなくもない。
リンクは心の中で腑に落ちないと思いながらも渡された本のページをめくる。
最初の数行を読んでいて、おや、と眉を顰めた。
「・・・ウルフは、全部・・読んだのか?」
「だから返してこいって言ってんだ」
相変わらずシガーを吹かしてパソコンを弄っている。
その声は平坦で、いつもを変わりない。
リンクは再度、本に目を通した。
だがその文章の内容からして、どうにもウルフが好みそうな内容ではない。
彼の好みを全て知っているわけではないが、これは読まない。絶対に。
文章も簡単で、何よりこれはリンクの好みそうな傾向の物語だった。
「(もしかして・・・俺に合った本を探してくれていた・・・?)」
一人でそう思っただけなのに、頬が熱くあるのを感じる。
眼帯側の壁に座っているのだからウルフから顔が見えるわけではない。
だが意識されずとも妙に恥ずかしい気持ちは隠せなかった。
「(うれ、しい・・・のかも・・しれない・・・)」
ずるずると壁に背を預け、受け取った本で顔を隠す。
スン、と鼻孔を古びた紙の匂いと混ざり香るものがくすぐった。
「(ウルフの・・・シガーの香り、だ・・・)」
リンクは目を細めて、もう一度その焼けた香りを吸い込む。
シガーを吸うことはできないが、これぐらいの香りなら平気。
残り香が消えない内に、読んでしまおう。
「・・・ウルフ」
ありがとう、と蚊の鳴くような声で呟けば、男はぱた、としっぽを僅かに揺らすだけだった。
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(フォックス×時オカリンク)
リンクはかっこいいなぁ」
乱闘終了後、唐突に言われた言葉にリンクは目を丸くした。
「何言ってるんですか、フォックスさんの方がかっこいいですよ」
剣の汚れを払い、鞘に戻しながら言えばフォックスはにこにこと笑ったまま。
その間で周囲にいた選手は『ノロケが始まった』と言わんばかりに遠い眼をして離れていく。
「え・・と、私のどこがかっこいいんです?」
変わらず笑うフォックスにリンクは真剣に首を傾げた。
今日は特にアピールも成功したわけではない。
スマッシュの決まり具合もいつもとそう変わらない。
「もうちょっとしたら分かるよ、多分」
「?なんですか、教えてくださいよ」
詰め寄るリンクにフォックスはまぁまぁと宥めた。
と、そこに先ほどの乱闘写真ができました、とアナウンスが入る。
その声にフォックスはピンと耳を立て、お菓子を与えられた子どものように瞳を輝かせた。
「リンク、行こう!」
「え、え?どこにですか?」
「掲示板!」
掲示板に張り出されていた写真の右上には。
ちょうど背中合わせになるように佇むフォックスとリンクのそれがあった。
「あ、これ・・・」
「良かった、ちゃんと撮れてる」
写真を抓み剥がして目の前へと持ってくる。
向かい風を受け、青い瞳を凛々しくはっきりと見せたリンク。
その背後を守るようにして、銃を構えた立っているフォックス。
一枚の絵のようなそれは戦闘中の彼らを見事に切り取っていた。
「ほら、かっこいいだろ?」
言った通り、という顔のフォックスにリンクは思わず顔を赤くしてしまう。
この時写真を撮られていることに気付かなかったのだ。
知っていれば、フォックスとツーショットだと分かっていれば。
もう少し身だしなみも整えていたのに。
乱闘でずれた帽子、向かい風で舞い上がっている前髪。
正直取り直してほしいぐらいだ。
「俺、この写真貰うけどリンクは?」
ヒラヒラと写真を振られ、恥ずかしいから捨ててくれとも言えない。
「わ、私は――・・・っ!」
乱闘で若干乱れた、どこか遠くを見ている自分の写真。
だけど、フォックスと2人で映っている写真。
「焼き増ししてください・・・」
「了解!」
ご機嫌なフォックスをよそに、リンクの一人の葛藤は焼き増しの写真を貰うまで続いたのだった。
「まぁ・・・フォックスさんかっこいいし、いいか・・・」