(スマX:ウルフ+リンク)
「はぁ・・・」
「おい、ガキ。そんなところで何してやがる」
「あ・・・ウルフ・・・」
「どんよりしてるとキノコが生えるぜ」
「ど、どんよりなんか・・・してない・・・」
「それはテメェの面見てから言いやがれ」
「・・・雨が、降ってる・・・」
「そうだな」
「釣りに・・・行くつもり、だったんだ・・・」
「それでか。くだらねぇな」
「・・・今日は特殊な魚が釣れる日なんだ・・・」
「んなもん今度に回せばいいだろうが」
「・・・・・・・・・・・・・だが・・・」
「室内でジメジメするんじゃねぇ。湿気が増すだろうが」
「・・・さかな・・・・・」
「釣りができねぇなら本でも読んでりゃいいだろ」
「図書室、この前壊れたし・・・」
「そういやぁチビ共がかくれんぼしてて破壊しちまったんだな」
「まだ復興中で入れないんだ・・・」
「他の奴に本借りればいいだろ」
「・・・借りはしたけど・・・英語の本で、あまり読めなかった・・・」
「どうしようもねぇな」
「・・・他に・・・することない、から・・・」
「・・・・仕方ねぇな」
「・・・・・・・・・」
「本、見せてみろ」
「え?・・・ああ・・・」
「どこがわからねぇんだ?」
「えっと・・・この3行目の文・・・」
「あー・・・『醜いカモはボコられながら心の中で叫んだ「覚えてろてめぇら!」と』」
「・・・おもしろい・・・訳の仕方だな」
「俺様ならこう読むがな。次は?」
「ここ・・・・」
「『「今日がテメェの命日だ・・・」カモは手に持ったネギを振り上げた』」
「なるほど・・・ウルフ」
「なんだ?」
「その・・・ありがとう・・・」
「フン・・・雨が止むまでの暇つぶしだ」
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(スマX:ウルフ+リンク)初話
甘いものはそう好きではない。
食べれないわけでもないが自分から食べることは少ない。
あの甘ったるい匂いは鼻につく。
だから普段は食べないのだが、今は口の中に飴玉が一つ。
苦い炒ったコーヒー豆の飴。最近自分はこれなら大丈夫と知った。
だがシガーと違って口の中でごろごろされるのは好きじゃない。
だから早々に己の鋭い牙で噛み砕く。ガリガリと割と大きな音を立てながら。
それを2、3回繰り返して満足するのだが、今日はそうできなかった。
「ぅ・・・ん、ん・・・・・」
たまに俺の部屋に来る若い狼。
人型で勇者と呼ばれる類の剣士だが、俺から見ればただのガキだ。
別に来ても何をするということもなく、黙って座ったり、たまに言葉を交わす程度。
満足すれば帰っていく。そんなものだったのだが。
今日は何故か眠りこけていた。部屋の隅で丸まっている。
起こそうかと思って顔を見れば少し赤くなっている。
泣きでもしたか。
大方の予想がつくが、泣き疲れたから眠っているのだろう。
無理やり起こしてまた泣かれても面倒だ。
となれば放って置くしかない。
ついでに部屋の温度を少し上げておく。
「ん〜・・・・・ぅ・・・・」
何か夢を見ているのか、たまに子犬みたいな声が上がる。
そのわりに気分よさそうに寝ているから、夢の中では笑っているのだろう。
仕方がないから、今は口の中の飴を噛まずにおいてやる。
・・・舐め終わってかけらを飲み込んだ瞬間、目を覚ましやがった。
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(スマX:リンク+フォックス+ウルフ)中話
「・・フォックスの、馬鹿・・・」
ぽたり、と涙が頬を伝う。
鼻がツンとして、心が痛い。
最近は俺を過去の勇者と重ねることがなかったのに。
やっぱり思い返しては俺を見て溜息を吐いている。
ひどいひどい。あんまりだ。
ようやくフォックスを少しは信じられるようになったのに。
信じた矢先でこの仕打ち。
そんなに過去の勇者がいいというのか。
ふらふらになった気持ちと身体は流れるままにウルフの部屋へと来ていた。
ドア越しに気配を読んで彼がいることを確認する。
身体を通すのに必要なだけそのドアを開いた。
そのまま幽霊のように入り込んで壁にもたれて座り込む。
ウルフはピク、と片耳を動かしただけで何も言わない。
静かな時が流れる。
ウルフは何も言わない。
それがありがたい。
泣く理由なんて恰好悪いもの、人になんか言えない。
しばらくするとうとうとしてきた。
もう少し、ここにいさせてもらって、それから出ていこう。
出ていく頃には、自分は元気になっている。
そんな根拠とも自信ともつかないもので納得させて目を瞑った。
雲ひとつない、果てない空に自分は立っている。
足元は何も無い。でもしっかり立っている感触が足の裏にある。
ふと右を向けばフォックスが立っていた。
自信なさ気な顔で薄く笑っている。
いつの間にか近づいていて、ぽん、と俺の頭の上に手を乗せた。
『ごめんな』
そう言ってぎゅうと俺を抱きしめる。
ごめん、なんていらないのに。
抱きしめるだけで、いいのに。
おかげで何一つ、素直に言えない。
急に空が浮力をなくす。
俺はガクンっと高い所から落ちるように目が覚めた。
そして目が覚めた後でああ、夢だったんだなと気づいた。
そもそも空に立っていたのだから夢で当然だ。
「おい」
感傷に耽っている所、頭の上から低い声が落ちてきた。
ああ、ここ、ウルフの部屋だった。
部屋の主はあまり機嫌が良くないらしく、眉を顰めている。
「・・・邪魔をした」
のそっと立ち上がってドアノブに手をかける。
さぁ出るかと足を浮かせかけた瞬間、わしっと頭を掴まれた。
夢の中のフォックスとは違って、まるでぬいぐるみの頭を掴むみたいにがっつり固定されている。
「ウ、ルフ」
「・・・・・・」
何を言うわけでもするわけでもなく、その手はあっさりと離れた。
一体何がしたかったのだろう。
「どうか・・・したのか?」
「・・・ガキ」
「なっ・・・!」
反撃しようと口を開けた瞬間、何かを舌の上に放り込まれた。
コーヒーの苦さ僅かな飴の甘さが口の中で広がる。
「それ食ってとっとと行きやがれ」
「あ、ああ」
引き留めたのはそっちのくせに。
頭の上から重たい手がなくなり、代わりに背中を押される。
「あ、ウルフ」
「ァン?」
「・・・ありが、とう・・・」
「んなもん言われる筋はねぇ」
ほぼ強制的に部屋の外に追い出される。
ウルフになら言えるのに。
なんでフォックスには言えないんだろう。
不可解な思いを残しつつ、口の中の飴をガリガリと砕いた。
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(スマX:リンク+フォックス+ウルフ)終話
「やっちゃたなぁ・・・」
誰もいないリビングで呟く。
重たい身体をギリギリまでイスの背もたれにかけて溜息を吐いた。
普段はピンと立つ耳もしっぽも、今ばかりは項垂れる。
傷つけるつもりはなかったのに、リンクを傷つけてしまったらしい。
「過去の勇者と重ねて見るな、か・・・」
怒って出て行ったリンクの言葉を思い出す。
自分が大好きだった『過去の勇者』はもういない。
それは『過去』のことになってしまったからだ。
自分の中ではまだ、過去と割り切れていないのに。
「そんなこと言ったって・・・」
たまに、ほんの極たまにだけど。
リンクを見ていて思ってしまうことがある。
なんで『リンク』がいて、俺の大好きだった『過去の勇者』がいないんだろうって。
『過去の勇者』がいなくて悲しい。
そんなことを思ってしまう自分が悔しい。
今傍にいるリンクが消えた所で彼が返ってくる訳でもないのに。
「最悪だ・・・俺・・・」
自己嫌悪も最骨頂。
テーブルの上に2つ、ぽつんと残ったマグカップが余計に寂しい。
どうしようもなく吐いた溜息は湿っていて、代わりに入ってくる空気が喉に痛い。
不意に目頭が熱くなってくるのを感じた。
「あ・・・」
歳を取ると涙脆くなるって本当だな。
手前のマグカップを奥へ押しやり、腕を枕にうつ伏せる。
誰が入ってくるとも知れない場所だが、移動する気にもならなかった。
ぐす、と重力に逆らえない水が皮膚の上まで乗り上げようとしている。
「・・・フォックス・・・」
遠慮がちな声で呼ばれた。
ばっと顔を上げれば、そこには先ほど怒って出て行ったリンクが立っていた。
リンクは俺の顔を見てギョッとしている。
「な・・・泣いて・・・いるのか・・・?」
彼にしては珍しく焦っている。
それもそうか、俺が彼にこんな情けない顔を晒したのは初めてのこと。
「な、なんでもないよ・・・」
慌てて肘で顔を拭い、何も無かったような顔をする。
「・・・リンク、さっきは」
「待った・・・」
ごめん、と言いかけて遮られる。
何だろう、と紡ぎかけた言葉を飲みこんだ。
「ごめん、と、すまない、とか、それ以外の言葉を使え」
「え・・・も、申し訳ありません?」
「・・・俺を、馬鹿にしているのか」
キッと鋭い瞳で睨まれ、空気が危ない方向へ向かっているのが分かる。
一体俺は何を言えば良いのだろう。
リンクの鋭い視線は心臓を貫くように向けられている。
言葉が出ず、下を向いた時だった。
「てめぇら何してやがんだ」
「・・・ウルフ」
どこかゲンナリとした口調でウルフが現れた。
「つまらねぇことでいつまでも喧嘩してるんじゃねぇ」
「・・・つまらなくなんか、」
「アぁ?」
むっと口を挿んだリンクをじろりと叱るように睨む。
それ以上は何も言えなくなり、リンクは口を閉じた。
「フォックス、ガキ相手に何泣いてんだ」
「泣かされたわけじゃない。・・・歳取ると涙線弱くて」
「俺様に喧嘩売ってんのか・・・ったく。オイ、ガキ!」
「・・・・・・・何」
「てめぇもこんな腰抜け狐の戯言に一々反応するな」
「ちょっウルフ、腰抜けってひどいな・・・」
すっかり空気は親分の説教モード。
はぁと疲れたような溜息が唇から漏れ出る。
「・・・だって、フォックスが」
「うん・・・俺が悪いん・・・」
「黙れ!!」
怒号の唸り声にびくっと2人で身を震わせた。
こういう時のウルフはものすごく雰囲気が恐い。
圧倒的な力関係を重力のように無遠慮に落としてくる。
「リンク、今これ以上この狐とぐだぐだ喧嘩するんじゃねぇ」
「・・・・・・・・」
案の定、リンクの顔は全然納得できないという風だ。
「できねぇってんなら、フォックスと二度と会わねぇようにする」
「え・・・・?」
「空の上にある俺の基地の牢屋で監禁する。それでいいか」
リンクのさっきまでの顔が見る見る内に焦燥の色に変わる。
ウルフを見詰めたまま、ゆるく首を振った。
「・・・い、嫌だ・・・」
「そうか、じゃあ今回の揉め事は不問とする。いいな」
「わ、分かった・・・」
「分かったら自分の部屋に戻れ。フォックスと話すのは気分が落ち着いてからだ」
リンクは無言で頷くとリビングから出て階段を上っていく。
ターゲットがとうとう自分だけになったと、力いっぱい俺は項垂れた。
彼の足音が聞こえなくなった頃、プリズムバイオレットの隻眼が俺を射抜く。
リンクのように心臓を貫く、なんて優しいものじゃない。
心臓所か全身をずたずたのスプラッタにしてしまいそうな視線だった。
「フォックス、てめぇにはじっくり話があるからな」
「・・・夕飯の準備までには終わらせてくれ」
ウルフが手を重ねて指を鳴らす。
バキバキバキッと、俺限定の死刑執行の鐘を告げた。
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スーパーの特設コーナーに並ぶたくさんのお菓子。
そのどれもにお化けに魔女、笑ったカボチャがあり、今の時期を表している。
「ハロウィンだな。少しわくわくしてこないか?」
「スネークはあげる側だろう」
買い出し当番であるフォックスとスネークはそのお菓子の山を見ていた。
何を考えたのか眼球やカエルのチョコレートに、フォックスは多少顔を顰めてしまう。
「わかってるさ。せっかくだし、自分の部屋でも飾り付けてみようかと思ってな」
「へぇ・・・いいんじゃないかな。でも子ども入れて大丈夫な部屋か?」
普段が普段だけに、うっかり武器や大人向けの本があったりしたら大変なことになる。
主にスネークが、だが。
某子ども好きの勇者に断罪されてしまうからだ。
「その辺はちゃんと直しておくから問題ない」
「そう?じゃあやったらいいんじゃないかな」
フォックスはお菓子をいくつも選んでは買い物かごに入れていく。
今頃家では子供たちがお化けに変装している頃だろう。
夕飯はリンクに任せているし、問題はないはずだ。
「でも帰ってから飾り付けって間に合うのか?」
「そんな御大層なものはしないさ。まぁ人形置くぐらいか」
「そう・・・ん、よし。買い忘れなし。そろそろ帰ろう」
「ああ」
まったりと日の暮れた道を戻り、家に着く。
スネークはさっさと自分の部屋に戻って飾り付けを始めた。
フォックスも買ってきた菓子を大人たちに配って子どもが来たら渡すよう言いつける。
「とりっくおあとりーとです、フォックスさん!」
「トリート。はい、どうぞピット」
「ありがとうございます!」
天使なのに幽霊の恰好をしたピットにチョコレートを差し出す。
ピットの持っているお菓子のかごはそろそろ溢れそうであった。
「ピット、次は誰の所に行くんだ?」
「最後だからスネークさんの所です!」
「ああ、スネークは部屋にいるから。いっておいで」
「はーい」
とととっと小鳥のように駆けだして行ったピットを見送る。
次の子が来る前にコーヒーでも飲もうとやかんに水を張った。
お湯が沸くまでの暇つぶしに、ネットで世界のハロウィンというものを読むことにした。
「ハロウィンがないところもあるんだな・・・」
指でスライドさせていくと画面の文字がアメリカ・イギリスに変わる。
それを見た途端、フォックスはうわっと声を上げた。
そしてやかんの火を消し、慌てて階段に向かう。
その時。
『きゃあああぁぁ!!』
「あー・・・遅かった・・・」
階下まで広がるピットの声。
トントンと階段を上がっていくと、スネークに頭を撫でられているピットの姿があった。
ピットの目尻にはじんわりと涙が浮かんでいる。
「スネーク・・・」
「すまん、ちょっと驚かし過ぎたようだ」
「うん・・・見たらわかる・・・」
ひょいとスネークの部屋を除けば悪魔の巣のようになっていた。
ガシャーンガシャーンと顎を動かし噛みついてきそうなドクロが数体。
棺から手を伸ばそうとしている獣のような顔をした男の人形。その他諸々。
さながら良く見えるお化け屋敷である。
「・・・俺の国ではこれが普通なんだが」
「ファンシーとメルヘンのかけらもないね・・・」
ピットを慰めるスネークを見ながら、フォックスは感じていた。
そろそろここに飛んで来るであろう、ドクロより気迫を持った勇者を。