(スマX:スネーク+フォックス)

「どうも奴は好きになれない」

スネークは葉巻を咥え、仏頂面で呟く。

「なんで?」

フォックスが問う。
葉巻の代わりに裂けるチーズを口に咥えた。

「わからんが、気に食わない」
「ピカチュウは平気なのに?」
「ネズミだからって訳じゃない」

ふぅと息を吐く。
煙が出ないタイプの葉巻なのか、香りだけが部屋に漂った。

「揉め事は駄目だよ」
「揉める気はない。向こうが何かしない限り」
「それなら、いいけど」

チーズをワインで流しながら新しいチーズに手を伸ばす。
細やかに裂いていくのが楽しいらしい。
ゆるゆると裂きながら、フォックスは口を開いた。

「なぁ、ヤマアラシのジレンマって知ってる?」
「ん?いいや」
「寒い日の洞窟かどこかで、2匹のヤマアラシが寄り添い合う話」
「おい、よせ」

あからさまに眉を顰め、スネークは灰皿に葉巻をすり潰す。
新たな葉巻を取り出し口に咥えるとフォックスが火を差し出した。

「まぁ、そう言わずに」
「まったく・・・」
「大体の話はね、ヤマアラシが寒い日に洞窟で会うんだ」
「それはさっき聞いた」
「寒いから寄り添いたい。けれど、寄り添ったら互いの針が刺さってしまう」
「離れればいいだろう」
「そしたら寒い」
「矛盾だな」

スネークが葉巻を口から外し、ワインに手を伸ばす。
フォックスも自分のグラスに残っていたワインを飲み干した。

「それで結局近づいたり離れたりを繰り返してね」
「止めようとは思わなかったのか。お互い寒さを分かち合うとか」
「それを言ったら物語にならない。ちゃんと終わりがあるんだ」

フォックスは苦笑する。

「ある時に気付くんだ。くっついても針の当たらない、ギリギリの位置を」
「それでハッピーエンドだというのか?」
「俺が言いたいのは妥協点があるっていうことだよ」
「回りくどい言い方をする」

今度はスネークが苦笑した。

「ま、痛さに耐えればもっと温かさが得られるかもしれないけどね」
「それもそれでどうかと・・・俺は奴には妥協しないからな」

葉巻を指に挟んでその先をビシッとフォックスに向ける。
フォックスは視線だけはスネークに向け、最後のチーズを咀嚼した。

「何でそんなに気にするのかな」
「わからない、だがそういう気持ちになるんだ」
「そう」

フォックスはチーズを飲み込むと席を立った。
自分のグラスを持ちドアへと向かう。

「じゃあ俺は寝るよ。ごちそうさまでした」
「ああ、また明日」

フォックスが出て行き、ドアが閉まる。

「妥協点か・・・お互い様だろうに」

普段のフォックスと手厳しい緑の勇者のやり取りを思い出す。
続けてあの青いハリネズミを思い浮かべ、溜め息を吐いた。

相容れない、と。



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(スマX:スネーク+ピット)

「あったかい・・・」

ピットは中空をゆるやかに低空飛行しながら野原を行く。
ここ数日の温かさのおかげで野原には色とりどりの花がたくさん芽を出していた。
それらを踏まないように、一度着地しては飛び上がるという移動を繰り返す。

「おっとと・・・」

うっかり着地の際にバランスを崩しかけたがなんとか持ち直す。
持ち直すために翼を多く羽ばたかせたせいか、数枚の羽根が散った。

「大丈夫かな」

そっと着地して髪に手をやった。
今日は金色の冠のかわりに、花の冠をつけている。
昼にたまたま森でリンクに会い、暇だからと作ってもらったのだ。
白い花を中心にした花冠はピットの服装と合っている。
もっとも、リンクがそうなるように意識して作ったのだが。

「スネークさん、なんて言うかなぁ」

いつもと違うものをつけていると思うと心が躍る。
加えて、きっとスネークならこの違いに気付いてくれるだろうと。
リンクが作ってくれたと言えばもっと驚くだろうかと。
早く彼を見つけたくなってピットはその場から高く飛び上がった。
翼に力を込めれば更に高く舞い上がれる。
そのままひゅんと、しかし花冠を崩さないよう丁寧に飛んだ。


飛んで、飛んで。

視界の隅に見慣れたダンボールを見つける。
この前突然降りたら注意されたので、木の葉の様にそっと降りた。
降り立っても、ダンボールはぴくりとも動かない。

「スネークさん?」

ピットはひょいとダンボールの丸穴から中を覗き込んだ。
低い寝息、緩やかに揺れる肩、安らかに閉じられた目。

「眠ってる・・・」

自分よりも大きくて逞しい男性だが、こうして縮こまって寝ている姿は可愛らしい。
ピットは覗き込むのを止めて、ダンボールの横にちょこんと腰をかけた。

彼を起こす気にはならない。
いつか、起きてくれればいい。
それまで、傍にいるから。
それからも、傍にいるから。

不意に胸から恋慕う気持ちが込み上がり、空に向かって微笑みを向ける。
自分は幸せだと、いつも見守ってくれる人に伝えたくなったのだ。
スネークを起こさないようにと小さな声で。
それでも聞こえるであろう雲の上にいる女神に報告する。

「パルテナ様、僕は今日もこの人が好きです」

ふわり、と春風が舞い上がった。



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(スマデラ:フォックス+リンク)

昼の街並みを歩く。
春のうららかな日差しの下、若葉の芽吹いた萌え木を通り過ぎる。
彼の腕の中には、一束の赤い花。
八重の花びらをしたそれは、彼の足取りに合わせて揺れる。
彼が花を持つのは不釣り合いのような、しっくりきているような。
たまにすれ違う人の視線が彼を追う。
彼はそれをしっぽで跳ね返し、すたすたと風を切って歩いた。

目指すはこの花を捧げる人のところまで。

彼は玄関を潜りまっすぐに台所に向かう。
捧げる人の、匂いがしたからだ。

「リンク」

ちょいと台所を覗く。
案の定、捧げる人――リンクがいた。
リンクは食器を片付けていたが、フォックスに気づくと手を止めた。

「フォックスさん、おかえりなさい」
「ただいま」
「おや・・・どうしたんです、その花?」
「ん、これな・・・」
「どなたかに、貰ったんですか?」

首を傾げなら問うリンクに、フォックスは苦笑する。

「いいや。俺が買ってきたんだ」
「フォックスさんが?」
「ああ。リンク、今日何の日だか知ってる?」
「?・・・ええっと・・・」

腕を組み、あさっての方向を見ながらリンクが悩みだす。
ああ、知らないのかも、とフォックスは心の中で溜息を吐いた。

「えっと・・・花の日ですか?」
「ちょっと違うな」
「じゃあ羽の日ですか?」
「それも違う・・・ていうか羽の日って何・・・?」

リンクが真剣に悩めば悩むほど回答がおかしな方向へ行く。
フォックスはほどほどのところでストップをかけた。

「リンク、待った待った」
「あとは針の日とか・・・えっ何ですか?」
「もう・・・今日はね、母の日なんだよ」
「母の・・日・・・?」

きょとんとするリンクにフォックスが優しく微笑む。

「そう。お母さんの愛を大事に思って、感謝する日だよ」
「そうなんですか・・・あ、だから花を?」

ようやく合点がいってリンクが納得した顔を見せる。
フォックスはリンクが理解したのを確認すると、すっと花束を差し出した。

「えっ・・・?」
「俺にはもういないから。それに、これはリンクにと買ってきたんだ」
「わ、私にもいませんよ・・・?」
「だから、リンクにさ」

差し出されるままにリンクは花束を受け取る。
まだよくわかっていないのか、首を傾げながらフォックスを見詰めた。

「リンクはお母さんじゃないけど、いっつも家事とかしてもらってるから」
「えっでもそれはフォックスさんだって・・・」
「こんな時しか感謝の気持ちって表せないからさ」
「感謝ってそんな・・・私は・・・」
「俺の普段の気持ちだから。花、受け取ってくれないか?」

いつもより押しの強いフォックスにリンクは戸惑いながらも頷いた。
渡された花束に目を落とせばふわりと咲いた赤い花。
きれいに映えるその色は、道中さぞかし目立ったことだろう。
店先で買うことも、ラッピングを選ぶのも、やはり恥ずかしいことだったのではないだろうか。
それでも、彼が自ら出向いて選んで手渡してくれたことに、リンクは胸が一杯になった。

「フォックスさん」
「ん、何?」

花を押しつぶさないように優しく、柔らかに抱きしめる。

「ありがとう・・・ございます」

にっこりと微笑んだリンクに、今度はフォックスが花の如く、赤くなった。



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(スマX:ピット+スネーク)

点々と街頭が立っている、暗い夜道。
星がいるはずの空は真っ黒に塗り潰されている。
そこに浮き上がっているのは輪郭のハッキリしない朧月。
どこか不気味なそれは、夜の闇の深さを表しているかのようだった。

「スネークさん、明日は雨でしょうか?」
「どうだろうな」
「月が雲を被ってます」

そう言って僕は少し浮いた。
羽根が数枚、辺りに舞う。
代わりに足音がひとつ無くなった。

「ピット?」
「スネークさん、こんな話、知ってますか?」

スネークさんが怪訝な顔をして僕を見る。
それ以上質問されないうちに僕から切り出した。

「蝋(ロウ)でくっつけた鳥の羽で太陽を目指した人の話です」
「ああ・・・イカロスのことか」
「はい」

鳥の翼を蝋で固めて太陽に向かった人。
近づいてはいけないと言われたのに太陽を求めた人。
そして深い海に落ちた。だから死んでしまった。

「なんで彼は太陽を目指したんでしょうか?」
「神話で言うなら、彼は塔に幽閉されたはずだ」
「ええ。でも空を飛んで脱出するんですら、夜に飛べばよかったのに」
「夜だと外が良く見えなかったんじゃないのか?」
「ああ――そうかもしれませんね」
「脱出の時に月が出ていたとは限らないしな」

そういってスネークさんはぼやけた月を見上げた。

「月に向かって飛べば、落ちずに済んだかもしれないのに」
「そうだな」
「スネークさん、地面を歩く人は太陽に触れたいと思うのですか?」

僕の質問にスネークさんは難しそうな顔を浮かべた。

「どうだろう・・・俺にはわからんな」
「そう、ですか・・・」
「まぁ俺は太陽が炎の塊って分かってるから別に行きたいとも思わないな」
「僕も、スネークさんが燃えちゃうのは嫌ですよ」

くすくすとお互い笑う。
でもその笑いの意味は、お互い違う。

「もしスネークさんが雲の上に行きたい時は僕が連れてってあげますから!」
「ハハハ、ピットの羽なら溶けないからなぁ」
「でしょう?絶対落としたりしませんよ」
「でも俺は重いからな。うっかりなんてことになったら困るぞ」

またくすくすと笑う。
空に昇る時のスネークさんが重いわけが無い。
だって、僕が持って上がるのは、貴方の一部だけ。
僕の大好きな貴方の大きな掌と、魂を持っていく。
行き場の無い魂だと貴方が言っていたから、僕がこっそり持って行きます。
いくら人を殺していても、地獄になんて落とさないから。

「いつか一緒に空に昇りましょう。月よりも高い所に」
「そうだな、いつかな」

ぼんやりした月は、とうとう雲に飲まれて見えなくなってしまった。



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(スマX:メタナイト+カービィ)


「雨、よく降るねー」
「そうだな・・・あまり離れると濡れるぞ」
「あ、うん。せっかくメタナイトがお迎えに来てくれたんだしね」
「わ、私はたまたま通りかかってだな・・・・」
「うん。だから傘が一本なんだよね?」
「そ、そうだ。カービィがおやつの時間に帰ってこないから・・・」
「あれ?やっぱりお迎えだったの?」
「―――・・・通りすがっただけだ」
「うん。だから今、相合傘してるんだよね?」
「まぁそうだが・・・あ、相合傘と言うんじゃない」
「じゃあなんて言うの?」
「・・・・・・・・・・」
「相合傘でいいでしょ?」
「・・・勝手にするがいい」
「えへへ、そーするー♪」
「うわっ急に抱きつくな!」
「だって濡れちゃうもーん」
「まったく・・・」
「ねーメタナイトー」
「なんだ?」
「この雨、全部飴玉だったらいいのにね」
「・・・当たったら痛そうだな」
「でも最高じゃない!?止むまでいっぱい飴食べれるんだよ!」
「太りそうだ・・・そういえば、今日のおやつは水飴と言っていた」
「やったぁ、水飴ー!!」
「だから離れたら濡れると言って・・・」
「この雨、水飴でもいいなー」
「それは・・・ものすごくベタベタになりそうだな」
「食べきれないよねー」
「そういう問題でもない気が・・・」

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(スマX:ピット+スネーク)

「ホーホー、ホーホー」
「ピット、そんな木の上で何してるんだ?」
「あ、スネークさん。ホーホー」
「いやだから・・・。・・・もしかして、フクロウの真似か」
「えへへ、今日、本で見たんです。ホーホーって鳴くんですって」
「(天使がフクロウの真似とは・・・)」
「でもあれ首がすごく回るんですよね!僕も回らないかなぁ・・・」
「ま、待った!回すな!!」
「え?駄目なんですか?」
「はぁ・・・ピット、俺もそっちに行っていいか?」
「はい、もちろん!」
「じゃあ、失礼して。よっと」
「僕、もう少し端に寄りましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
「そういえばスネークさん、僕に何かご用でも?」
「ああ、そうだった。これが今日のおやつだと」
「・・・これは何ですか?」
「これは水飴といって、伸びる飴だ」
「へぇ・・・ん、甘くておいしいです!」
「そりゃよか・・・ん?」
「あれ、雨・・・・」
「夕立だろう、すぐに止む」
「ねぇスネークさん」
「なんだ、ピット?」
「この空からの雨とこの食べている水飴と」
「ああ」
「なんで同じ『アメ』なんでしょう?」
「・・・考えたこともなかったな」
「誰か他の人なら知っているでしょうか?」
「そうだな・・・雨が止んだら、聞きに行くか」
「はい・・・あ、水飴が食べ終わった後でもいいですか?」
「もちろんだ」