(スマデラ:リンク+カービィ+フォックス)


リンクの空色の瞳がとろんとする。
暖かい気温のせいか意識が雲に浮かびかけた。
ハッ!と目を大きく開いて意識を取り戻す。
ふあぁ・・・と欠伸をして眠たさを吐き出した。
瞼が重たい。すぐにうとうと。ゆらゆらしてくる。
早い話が、今眠たい。猛烈に。

洗濯物を畳み終って、仕事は一段落している。
夕食の準備までにまだ時間はあるし、一眠りしよう。
ベッドまで行くのも億劫なほど眠たい。眠すぎる。
思い立ったらリンク、行動は早い。勇者だもの。
この場でお昼寝決行。洗濯物を避けてスペースを作る。



ごろんと横を向いて寝転がり、3、2、1で夢の世界へ。



端正な寝顔で転がっていると、こっそりと忍び寄る者がいた。

「リンク?」

ピンクの球体に脅威の胃袋を持つ星の戦士カービィ登場。
てちてちと眠っているリンクに近づき、周囲をうろうろ。
畳んであったバスタオルを1枚取ってリンクの上に被せる。
テーブルにテーブルクロスをかけるような勢いで。
そのまま自分もリンクの胸に引っ付いた。

「おやすみぃ・・・」

添い寝のつもりなのだろう。すぐに眠りに落ちる。
見た目はリンクがピンクの球体を抱え込むような形だが。

気持ち良さそうに眠る2人(?)にふっと忍び寄る影。
影ははふ、とあくびを噛み殺しながら部屋に入ってきた。
無言でリンクをカービィに近づき、影は視線を向ける。
うんうん、と数回頷き、静かに顔を微笑ませた。
リンクと向かい合うよう、カービィを間に挟むようにして。
ごろり、と寝転がって瞳を閉じた。影も眠たかったらしい。
影は狐の耳をぱたぱたと動かし、1回しっぽを跳ねさせた。

川の字になって、皆でお昼寝。


夕方にリンクとフォックスは『寝過ごした!』と同時に慌てて目覚めます。
その後、2人は大急ぎで夕食の準備。下ごしらえをしておいて良かった。
後々カービィはごはんの匂いで目を覚ましましたとさ。

*********************************************************
(スマデラ:リンク+フォックス)


リンクはフォックスの狐色の髪を梳かすのが好きである。
柔らかく手触りのよい髪は人間とは多少異なる触感である。
フォックスは狐なので当たり前ではあるがピンとした狐耳がある。
それにブラシが引っかからないよう丁寧にリンクは梳くのである。

さらにしっぽの毛並みを整えてやるのも好きである。
しっぽは柔らかくもしっかりした弾力を持ち、フォックスの気分で振れる。
リンクはこのしっぽを撫でるのがとても好きである。曰く、気持ちが良いそうだ。
ゆっくりと這うようなスピードで撫でればそわそわとフォックスは腰を動かす。
そしてしっぽがゆらゆらと逃げ出そうとするのである。くすぐったいらしい。
リンクはそのしっぽを捕まえてブラシを通す。
髪より短い毛の上を優しく往復する。
最後にしっぽの付け根から先端まで引っかからずに、波一つなく梳けたらおしまい。
リンクはその出来栄えにほぅとこっそり感嘆を漏らすのである。


フォックスはリンクに触れるのが好きである。
自分の髪を梳いてもらうのも大好きである。
リンクはブラシで耳をかかないように梳いてくれる。
リンクの指がフォックスの髪を滑るように梳かしていくのである。
梳かし終わった後の髪はさらさらで舞う風に軽くなびいていくのである。

しっぽは時々リンクが悪戯のような触れ方をする時もあるが、やはり心地よい。
優しく毛並みを一方向に向け、ブラシがその上を渡るのである。
リンクの温かい手はいつも眠りに誘うぐらい気持ちが良いのである。
きれいにしっぽを梳かした後のリンクの満足そうな笑顔も大好きである。


ブラシを傍らに置いたリンクが膝枕しましょうか、というとフォックスは素直に頷く。
ごろ、とリンクの膝に頭を乗せてフォックスは猫のように喉を鳴らす。
心地よい手で梳かしたばかりの髪を撫でられる。
そうして暇な時間を2人でまったりと過ごすのである。



「飼い主とペット」
「恋人とはちょっと違う気がするし」
「ブラッシングがねぇ・・・やっぱ動物」

背後でポポ、ナナ、ネスがなんとも言えぬ表情で見ているのを、知らぬは当人達だけである。

*********************************************************
(スマX:フォックス+リンク)


朝焼けの空を窓から見ながら、リンクは階段を降りていた。
最後の段を飛ばして廊下に降り立つ。
不意に、台所の方で物音が聞こえた。
食器がぶつかっているのか、時々甲高い音が混じる。
リンクは訝しげに台所に向かった。

「誰か、いるのか・・・?」
「・・・かしいよなぁ・・・」

言葉までは聞き取れないものの、聞こえた声にリンクは身を強張らせた。
声の主はリンクに気づかず、言葉を続ける。

「なぁ・・・だって・・・」

リンクはそぅっと台所を覗き込む。
もちろん、台所に立っている者からは死角の位置に。
声の主はリンクに背を向ける形でグラスを洗っていた。
時折グラスの洗う音に合わせて狐耳としっぽが揺れる。
テーブルの上には銘柄はわからないが酒とグラスがひとつ置いてあった。
誰かと飲んでいたようだが、置き去りのグラスの中の酒は満タンだ。

「なぁ、リンク」

いきなり名前を呼ばれ、リンクはぎくり、となる。
だが、それは自分を呼んだわけではなかった。

「懐かしいよな、昔は一緒に皿とか洗ってたもんな」

懐かしい。
ああ、こいつは―――過去の勇者と、話している。
台所の中の時間は、きっと過去の勇者と目の前の男が過ごした時で止まっていた。
そう気づいた途端、自分の眉間に深いしわが寄るのが分かった。
わざと音を立てて、どかどかと台所に入る。
のんびりとグラスを洗っていた男が慌ててこちらを振り向いた。
その目は驚きと僅かな期待と、自分の奥にちらつく面影を捉えて、すぐにその輝きを失った。

「・・・フォックス」
「・・・おはようリンク。早いな」
「・・・水・・・飲みに来ただけだ」
「そうか。あ、冷蔵庫にお茶があるぞ」

返答はせずに、無言で冷蔵庫を開きお茶を取りだした。
横目でフォックスを見れば、空間が破られたせいだろう。
過去の勇者を失ったいつもの顔に戻っていた。
その顔をしばらく窺っていたらフォックスは視線に気づいたのだろう。
どうした、と首を傾げてこちらを見た。
さっきまでは気の溢れるような青年の顔をしていたのに。
自分を見た途端、ただの、大人の顔に変っている。


もう、お前の、大事な、勇者は、いない。
だから、俺を、そんな顔で、見るな。
俺は、お前の、勇者じゃ、ない。
俺を、重ねて、見るな。


「なぁ、リンク」
「・・・なんだ」
「さっきの独り言、聴いてた?」
「独り言、じゃない・・・話してたのだろう・・・?」

そう言うと、フォックスは何とも言えない複雑な顔をした。

「独り言だよ。お酒を飲んでいたから、酔っ払ってたんだ」
「嘘を吐くな!・・・会って、いたんだろう」

思わず鋭い声が出てしまう。
だってフォックスは記憶の中で彼と会っていたはずだ。
俺の顔を見ると、フォックスはごめん、と小さく呟いた。
謝られて余計に腹が立つ。

「そんなに過去の勇者が恋しいか」

刺のつく言葉が勝手に口から出る。
駄目だ、口を閉じろ。
フォックス、返事をするな。

「・・・ごめん・・・」

フォックスは消えそうなほどか細く、謝った。

「俺は、お前が好きな過去の勇者なんか、大嫌いだ」
「・・・ごめん」
「お前なんか・・・」

遠くで朝を知らせる鳥が鳴いた。

喉まで出かけた言葉が急に音を無くす。
何を言おうとしていたかすぐに反芻して、逃げるように台所から出た。
カラーンっとお茶のボトルが床に落ちる。

「リンク!」

フォックスの声だけが追いかけてきた。
それでも足音は届かない。
きっと台所から出てもいない。


もし、走って行ったのがフォックスの大事な勇者なら。
追いかけて行っただろうか。

「フォックスなんか・・・大嫌いだ」

俺じゃないリンクを大事にする、彼なんか大嫌いだ。



*********************************************************
(スマX:フォックス+スネーク)

ハロウィン3部作:1部

+午前中のお話+


ぎらりと蛇の目が光る。
目標確認、テーブルの上だ。
距離は約2メートル。
ローリングで行けないほどでもないが、如何せん場所が狭い。
背中を見せる危険があるが、一瞬で獲物を捕らえるしかない。
右手に持った凶器が唸る。
今だ――――!!

「とうっ!!」

身を低くして台所に飛び込む。
テーブルの上の獲物、今日はパンプキンケーキだ。
今日こそは、獲物の奪取に成功する!!

「甘いよ、スネーク」

頭上から声と共に、電気を通した網が降ってきた。
網は一瞬で俺のスネークを身体に巻きつき、容赦なく電流を走らせた。

「あだだだだだだだだだだっ!!」
「おやつは3時!しかもアンタは大人だろう・・・」
「フォ、フォックスっ!今日のトラップも良いセンスだ・・・」

フォックスと呼ばれた青年は苦笑するとそりゃどうも、と答えた。
フォックスは立場、というか役割として台所を統括している。
そしてその怨敵、もといゴキブリ並に蹂躙しに来るのがスネークだ。

「サバイバーなら外で食糧と取ってこいよ」
「・・・それをしてたらリンクに殺されかけた」
「あー・・・」

リンクのことだ、『子ども達が真似をする!』といって怒ったに違いない。

「なぁ、今日はハロウィンだしたくさんお菓子を作ってるんだろ、1つぐらい・・・」
「スネークはあげる側だろ」
「心はいつまでも少年だ!」
「少年が堂々と部屋にエロ本置くんじゃない!」

はー、とフォックスは頭を抱えた。
その間にスネークはもごもごと身を動かして網から出ようとしている。
蠢く姿は蛇というよりもはや芋虫の蠕動だ。

「じゃあ今日はトリック・オア・トリートと言えばいいのか?」
「俺にどんな悪戯をするって言うの?」
「そっちの部屋一面を俺の持ってる雑誌で一杯にする」
「・・・最悪だ」

部屋一面が女性の写った雑誌で一杯にされたら。
あまりにもピンクな状態に、フォックスは顔を引きつらせた。
ふぅと重い溜息を吐いて、近くにあった板チョコを一枚スネークに放る。

「お菓子はそれをあげるから、悪戯は駄目だ。あと、晩御飯まで大人しくすること」
「了解」

板チョコをものの3秒で食べきると、スネークは上機嫌で部屋を後にする。
電撃のダメージなど忘れたかのようにすたすたと去って行ってしまった。

「まったく・・・大きい子どもだな」

フォックスは苦笑すると夕方のハロウィンパーティに間に合わせるべく、お菓子の材料を手に取った。



*********************************************************
(スマX:スネーク+ピット)

ハロウィン3部作:2部

+午後のお話+

天井の空は青く、雲は綿菓子のようにふわふわとして白い。
その絨毯は紅葉と深い緑の色を含んだ草が敷き詰められた原っぱ。
草花は秋を冷たさを含んだ風に煽られ、寝転がっていた天使をくすぐった。

「っくしゅん!」

天使は羽で自分の身を守るように縮こまるが、すぐに起き上がった。
前に、彼が来たからだ。
穏やかな草原には少々不釣り合いな、危険な蛇。

「スネークさん!」
「ピット」

ぴょんと羽を震わして飛び上がり、その大きな肩に飛びつく。
くるくると反動で回った後、2人してどすんと草花の絨毯に座り込んだ。

「スネークさん、どこに行ってたんですか?」
「ん、ちょっと野暮用をな・・・探したか?」
「少し・・・でも、見つからなくて」

スネークの膝の上にちょこんと横座りに腰かけて、ピットはにこにこと笑う。
スネークはピットの羽毛布団よりも尚軽い翼の感触を楽しんでいた。

「ピット、今日がハロウィンなのは覚えているか?」
「ええと、前に教えてもらった仮装する行事ですよね?」
「そうだ。ピット達は今日はたくさんお菓子をもらえるな」
「あれ、スネークさんはもらえないんですか?」
「そうだなぁ、フォックスからは板チョコをもらったぞ」

そういうスネークに、ピットはすぃ、と顔を近づけた。
その顔の口の端に茶色いものを見つけて、くすっと笑った。

「スネークさん、口の端にチョコがついてますよ」
「ん、ああ・・・」
「取ってあげます」

口の端に触れる柔らかな感触。
拭おうと思って上げた手はそのまま降ろしてピットの羽を抱く。
多少くすぐったく感じたが、スネークは動じることなく大人しくしていた。

「はい、取れました」
「ん、ありが・・・」

突然、ぞくん、と背筋に悪寒が走った。
ピットを片腕に抱きかかえたまま、獣のようにその場から飛び退く。
間髪入れずに、スネークの居た場所が砂煙と亀裂を生じた。
煙が晴れてみれば、一本の剣が天から降り落ちたかのように深々と刺さっている。

「・・・スネーェェク・・・」

剣を握っていたのは子供思いの真面目な緑の勇者。
その表情はメデューサに相当しそうなぐらい、気迫が詰まっている。

「子どもに・・・何を・・・させている・・・?」
「何って・・・リ、リンク、今のは俺がやらせたわけじゃ・・・」
「問答、無用・・・!!」
「ま、待て・・・う、わぁぁああっ!!」
「ス、スネークさーん!」

剣を振り回す勇者とそれから必死こいて逃げる蛇。
残された天使は、呆然の走り去る彼らを見ていた。

「僕、まだ『トリックオアトリート』って言ってないのに・・・」

残念そうに口を尖らせる。
しかし不意に何を思ったか、スネーク達の去った方向へ向く。
そして大きく息を吸って、山彦をさせるように叫んだ。

「いたずら、しにいっちゃいますからねー!覚悟しててくださいー!!」

ほんの舌先に残るチョコの味の分だけ、手加減はしますけど。
ピットはどんないたずらをしようかと、人知れず心を躍らせた。



*********************************************************
(スマX:フォックス+リンク)

ハロウィン3部作:ラスト

+夜のお話+

『トリックオアトリート!』

子どもたちが叫んでいる。
それに笑いながらお菓子をあげたり、いたずらされている大人。
その中でお菓子を上げながらもいたずらされている大人が、一人。

「・・・フォックス・・・」

子ども達に囲まれて、左右前後、くるくると回っている。
わけのわからないものをつけられたり、抱きつかれたりしている。

「いそがしい、ことだ・・・」

魔物に扮装した子ども達は普段自分が戦っているものと大きく違ってる。
きゃあきゃあとはしゃいで、なんともかわいいものだ。
自分もトアル村でフォックスと似たようなことにはなっていた。
子ども達が周囲ではしゃぎ、賑わい、楽しい時を過ごす。
懐かしい記憶が、優しい湯気のように立ち上る。

『リンク!』

フォックスのそばにいる子ども達の誰かが自分を呼んだ。
そちらに顔を向ければリュカやカービィか手を振っている。
こちらに来い、ということだろうか。
腕が振り切れそうなぐらい、一生懸命呼んでいる。

「今、行く・・・」

近づけば子どもではなくフォックスが歩み寄ってきた。
もはや何のいたずらをされたかわからないぐらいぐしゃぐしゃな格好。
苦笑して、すごい様だな、と呟いた。

「すごいだろ、この状況。はい、リンクにもあげる」

そう笑って握らされたのは数種類の飴。
子どもの好みそうなフルーツ味だ。

「俺は・・・子供じゃ、ない・・・」
「あ、ごめん。じゃあ、交代料ってことで」
「何・・・」
「俺、休憩!皆、次はリンクからもらってくれ!」

お菓子の入ったバスケットを渡されると共にフォックスは走り去る。

「なっ・・・ま、待て、フォックス!」

時すでに遅し。
キラーン☆と子ども達の輝く瞳が自分を捉えていた。
逃げられる状況ではない。
こんなことなら、昼間、蛇を生かしておけばよかった。

「お、覚えていろ・・・フォックス・・・」

子ども達にもみくちゃにされながら、村での懐かしい感触を味わった。
自分はトリックオアトリートなんてもう言わないけど。
子ども達にいたずらされながらも逃げた大人に、そっと呟く。

「・・・トリック・オア・トリート・・・」

フォックスが戻ってきたら、子ども達と一緒にいたずらでもしてやろうか。
こんな日ぐらい、あいつも自分を見て笑えばいいんだ。


風見鶏のように回して、バスケットの中を空っぽに。
大人になったさびしい心も、空っぽにしてやるから。
だから、お菓子よりも、笑顔をちょうだい。



*********************************************************

(スマX:リンク+ピット)

紅茶色の髪の毛に降り注ぐ、程よく温かいお湯。
滑らかで水桃のような玉の肌をしとどに濡らす。
小さくくぼんだ鎖骨を通って、平たい胸を走る。
子どもらしい曲線のお腹を滑り、曲げた足からタイルにたどり着く。

背中の翼はきゅうと縮ませて、お湯の粒を静かに弾いた。
頭に滴るお湯を、ふるふると左右に軽く首を振って払う。
浴槽の側に置いてあるシャンプーを手に取って泡立てた。
くしゅくしゅと手の中で柔らかい雲が出来上がる。
このままふぅっと飛ばしたいのを堪えて、その手を頭に持っていく。
ふんわりとシャボンが目の前を降下していった。

わしゃわしゃと泡にまみれ始めた髪を洗えば、ぽたぽたっと泡塊が落ちる。
鼻の上には小豆大、胸の上には卵大の大きさの泡塊が着地する。
そのままぬるぬると身体を落ちていく感覚がくすぐったい。
時々泡を払いながら髪を十分洗って、もう一度ざぶりとお湯を被った。
勢いよく被ったせいか、翼にも大きくお湯が飛んでしまった。
翼を開閉させて泡とお湯を落とすと華奢な身体をゆったりと浴槽に沈めた。

片腕を上げてお湯が滴るのを見たり、ぼんやりと天井を見たり。
ふと翼を見つめて、その一本を掬い取る。

「今度、スネークさんかリンクさんに羽洗うの手伝ってもらおうかなぁ」

地上は雲の上より汚れるのが速い。
鈍り始めた羽の色にため息を吐きつつ、浴槽からばしゃっとと外に出る。
湯気の熱気に当てられながらも、ほこほこした気分でお風呂を上がった。

身体を拭いて、髪と翼をあらかた乾かしたら向かうのは台所。
その中からコーヒー牛乳・・・ではなくワインを手に取り、一杯ごくりと飲み干した。
この一杯に生きている!とは言わないものの、ある種の格別感が胸を満たす。

「ふー・・・」
「・・・ピット、か・・・?」
「あ、リンクさん!」
「羽・・・まだ・・・水が、滴ってる・・ぞ」
「え!?ちゃんと拭いたと思ったのに・・・すいません」
「いや・・・風邪を・・引かないように、しろ・・・」
「はい、気をつけます!」

頭に乗せていたタオルで急いで羽を拭きながら、ふと感じる視線に顔を上げた。

「あの、リンクさん?何か・・・?」
「ああいや・・・天使の輪っかが、できている・・・」
「天使の輪っか?」

どういうことですか、と首を傾げるとリンクは優しく洗い立ての髪に触れた。

「これだ・・・この、髪の光・・・」

リンクはピットは鏡の前に連れて行き、すっと髪の光沢に指を指した。
見れば、ピットの髪には光を反射した輪っかができていた。

「これが、天使の輪っか、だ・・・」

紅茶色の髪の毛に映るつやつやとした光の輪。

「自分の髪ですけど、なんだかきれいですね。天使の輪っか」

くすっと笑って、浴槽で考えていたことを思い出した。

「リンクさん、良かったら今度羽を洗うのを手伝ってくれませんか?」
「羽・・・ああ、構わない・・・」
「ありがとうございます、そろそろちゃんと洗いたかったので・・・」

リンクは穏やかな笑みを浮かべてピットのタオルを手に取った。

「リンクさん?」
「ちゃんと、拭かないと・・・風邪を引くぞ・・・」
「あ、はい!」

翌日、ピットがスネークに『天使の輪っか』の話をしている所を目撃したとか。



*********************************************************

(スマX:フォックス+リュカ)

それはいつもの朝のこと。
それはちょっと懐かしい。
それはちょっと切ない記憶。

ちゅんちゅん、と会話するわけでもなく小鳥が囀る。
窓から朝日が差し込む眩しさに、うっすらと目を開いた。
あ、朝だ、と思いながらも布団の温かさに再度瞼を閉じる。
そのすぐ後に床から、正確には1階から自分を呼ぶ声が聞こえた。

『リュカ、ピット、朝だよー!』

フォックスの声だ。
カービィやポポ達が呼ばれないってことは、もうみんな起きてるんだ。
ピットは多分、スネークとかいう男の人の所にいってるんじゃないかなぁ。

僕も、起きなきゃ。
でも、今日はとっても眠たい。
でも、今日はとっても寒い。
でも、今日は誰かに起こされたい。

どこか遠くで爆発音と剣を振る音と、誰かのものすごい足音が聞こえた。
同時に、トントントンと階段を上る音が聞こえる。
ベッドに潜って意識もぼんやりしてるのに耳だけはちゃんと聞こえてる。
しばらくして、僕の部屋の扉がノックされる。
僕はもっと深くベッドに潜り込んで、深い眠りに落ちているふりをする。

「朝だよ、リュカ」

さっきと同じ声。ああ、今日はフォックスだ。
僕はうぅんと眠たそうな声を上げて、ベッドから出なかった。

「リュカ、ピットはもう起きたよ」

諭すようなフォックスの声。
ちらりと目を開けば、エプロンを巻いたままの姿。
ほんの少し漂う朝ごはんの香り。
ふわりとした気持ちが広がって、もうちょっとわがままを言った。

「フォックスが一緒に寝てくれたら起きる」

フォックスはやれやれと、それでも優しい顔で頷いてくれた。
エプロンを置いてベッドに入って、僕をぎゅっとしてくれる。
男の人だけど、おかあさんみたい。
しばらくそうして、僕がまた夢の世界に入る前に起こしてくれた。

「お寝坊もここまでだ、さ、起きよう。朝ごはんを食べなきゃ遊べないぞ」
「うん・・・」

布団をめくって僕の服を取ってきてくれた。
壁に掛けられた服は冷たかったけど、我慢。
一緒に階段を降りて僕は洗面所、フォックスはリビングに向かう。
身だしなみを整えてからリビングに向かうんだ。
リビングには寝ぼけ半分のピットと朝ごはんを食べ終えたポポ達がいた。
僕がイスに座ると、フォックスが朝ごはんを出してくれた。

「おはよう、フォックス」
「おはよう、リュカ」

それはちょっと懐かしい。
それはちょっと寂しい記憶。
それは大好きなおかあさんを思い出す、朝のこと。


*********************************************************