+一度きりの天国+
「ん?」
ふっと空高くにある太陽が一瞬陰る。
気のせいかと思った瞬間、太陽は何かを落とした。
「スネェェェェェェェェクさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!」
「ぅおおっ!?」
落下してきたものは翼を羽ばたかせて地面との衝突を避ける。
強いつむじ風が辺りに巻き起こり、一瞬呼吸を不可能にさせる。
太陽から落っこちて・・・もとい、空から急行落下してきたのは最近知り合った天使。
「ピット・・・・」
「こんにちは!スネークさん」
あれだけ強い風を受けているはずなのに、目の前の天使はろくに髪も乱れていない。
まったくもって不思議な生き物だと思う。
背中から羽が生えている時点で人間じゃないというのは重々承知している。
だが、この天使はそれ以前にズレたところがあるのだ。
「ピット、下りてくる時は前もって言ってから下りてきてくれないか」
「名前を呼びましたよ?」
「いや呼びながら落ちてきたら意味がないから」
「じゃあ前みたいに弓矢で・・・」
「それだけは駄目だ」
ちょっと前、ピットが空を浮遊していて、たまたまその下にスネークがいた。
ピットはスネークに声では届かないと判断し、垂直に弓矢を射った。
弦の反動+重力の速度は半端無い攻撃力を持っている。
脳天に当たれば股まで一気に貫かれるようなライフル以上の攻撃力。
その矢はスネークには当たらず、その真横に置いていたダンボールを貫いた。
射抜かれたダンボールはもう使い物にならなかった。グッバイ。
「静かに下りてくればいい。そんなに急がなくても」
「一気に降下した方が楽なんですが・・・分かりました」
真面目な顔で見上げてくる。
少し手が掛かる、だが、悪い子ではない。
よしよしと頭を撫でれば、子ども扱いしないで下さいと頬を膨らませた。
天使の年の数え方はよく知らないが、子どもと見た方が扱いに悩まないで済む。
人が天使に会えるのは、死んだ時ぐらいなのだから。
白い根元に先端が空色の翼。
子どもながらの柔らかさとすらりとして細い四肢。
つやつやとした甘く茶色の髪。
何より、純真さを思わせる丸く碧い瞳。
「なんだかなぁ・・・・」
「どうしたんですか、スネークさん?」
「いや・・・ああ、ほらカロリーメイトをやろう」
「あっ、ありがとうございます」
こうやってわくわくしながらお菓子(一応栄養食品だが)をもらう姿は子ども。
だがピットには天使のイメージとバトル中のギャップが存在する。
人としても危うい俺が、一体どう付き合っていけばよいものか。
「ね、スネークさん」
「ん?」
口の端にカロリーメイトのカスをくっつけたまま、ピットがこちらを見る。
自分はと言うと、あーあーと言いながらそのカスを取ってやる。
どこのお父さんだ。
「今度ワインの飲み比べしませんか?カウントはタルでもいいですから!」
「あー・・・まぁ、今度な・・・」
遊園地に連れてって、なノリで願ってくるのはえらくアダルトなこと。
俺はきっと勝てないから、この約束は保留にしておく。
見た目は子ども、中身は・・・。そんなフレーズがどこかの国にあったな。
「なぁ、ピット」
神様も天国も今まであんまり信じちゃいなかったが。
なんでこの小さな天使はこんな俺にくっついてくるんだ。
それを当の本人に訊いてみたら、あっさりとした答えが返ってきた。
「スネークさんと一緒に居たいからですよ」
飲んで食べて寝て遊んで戦って。
俺にくっついて色んなことを楽しみたいらしい。
結局のところ。
この小さな天使は俺の横で笑っているんだ。
fin.
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