彼はきれいな空気みたいな人だった。


俺と彼は戦うために出会ったのに。


俺は彼に心地よさを覚えた。


彼はきれいな空気みたいな人だった。





+プラネタリウム+





ほんの少し前、俺と彼に別れの時が来た。
俺も彼も、あるべき所に帰るための別れ。
俺には元の世界に帰れるという郷愁よりも、彼と別れる名残惜しさが大きかった。
別れに上手く笑えない俺に対して、彼は最後まで微笑を携えていた。


『お元気で。フォックスさん』
『ああ・・・また、会えるといいな』


彼に『さよなら』は言ったかどうか良く覚えていない。
ただ、自分も彼も泣いてはいなかった気がする。
それから、俺は元の世界に帰ってきた。
強いネオンとか、電磁音の音とか。
懐かしい刺激が帰ってくる。
だが、そこに彼のような新緑の香りはなかった。





俺の世界に戻って、1ヶ月経ったある日。
急に『ソレ』は来た。
最初はコーネリアで生活用品を買って、普通に帰艦する予定だった。
なのに、俺が夕暮れの人の多い街中で買い物を終えた瞬間。



いきなり『ソレ』が来たのだ。



人と目が合ったら気持ち悪くなって、頭がくらくらしてきて。
吐き気がして、目尻に涙が浮かぶ。
立っているのが辛い。
人ごみを逃げるように走り抜けて、基地に停泊しているグレートフォックスの中に駆け込んだ。

ただいまも言わない内に自室に飛び込み、ベッドの上に倒れ込む。
買い物袋をその辺に放り投げて、ゴホゴホと咳き込んだ。
掠れた笛の音のような細い息が何度も喉を通る。

落ち着くのを待って、俺は目を開いた。
見慣れた自分の部屋のライトが見える。
眩しいから、明かりはつけない。
俺は暗い中、街中でのあの症状について思い返した。



あの時感じたのは、強い『孤独』。



人ごみの中で、俺だけが強いスポットライトに照らされだした疎外感。
彼と居る間に忘れていた、1人の感覚。
彼と居る間は、俺に孤独感などほとんどなかった。
彼はきれいな空気で、いつも俺の傍に居てくれていたから。
彼がいなくなって、俺は今更涙が出そうになった。



自分はこんなに淋しい存在だったのか。



自分の鼓動に合わせて、寂寥感が増す。
足りない。会いたい。
空気が足りない。彼に会いたい。
肺が満たされない。今すぐ彼に会いたい。
瞼を閉じれば、記憶の中の彼の顔が思い浮かぶ。





俺は起き上がってグレートフォックスの外に出た。
空は薄い雲のせいか、幕がかかっているように見える。
空が暗く重い。
彼と見た空はもっと、澄んでいたのに。
自分の足音だけが虚しくその場に響く。

「もう、いないのにな」

自分自身に言い聞かせる。
大事な友達は、もう自分の傍には居ないんだ。
もう逢えないんだ。
おもむろに、腰に差しているブラスターを手に取った。
いままで一緒に戦ってきた相棒。
なんどもこのトリガーを引いた。






「リンク」






彼の名と共に、空へとブラスターを打った。
流星のように、紅い光が空へ走る。
彼にまでは届かない紅光は、俺の願いと同じように消えた。























                                                 fin.