+ある愛の言の葉+


ロイは考えた。
『愛』ってなんだろう。色々と本を読んでもイマイチ分からない。
身の回りの『愛』を見てみるために、読書を止めて歩き出した。




「愛、愛・・・・リンクに聞いてみようかな」

愛を知ってるかもしれない勇者が今、どこに居るか分からない。
ので、その辺にいた鳥さんに聞いてみる。
鳥さんは鳥さんでどたばたとピンク球と格闘してた。

「ファルコー、リンク見てない?」
「あぁ?それなら・・・」
「さっきフォックスと一緒に洗濯物干してたよー!」
「あ、ありがとうカービィ」
「だー!このピンク球が!」

鳥さん基準にうろちょろするピンク球。
なんだか鳥さんがボールに遊ばれているようでちょっと笑える。

「あ、そだ。ファルコ、愛って何?」
「は?愛?」
「うん、愛」
「ハン、こんなガキが居る前で言えるかよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「なんだよガキってー!」

なんだか大人の意見をありがとう鳥さん。
ロイ君は手だけ振って物干し場へ急いだ。
大人の『愛』はまだ早い。そう判断した上でのこと。





物干し場には勇者と狐さんが話しながら洗濯物を干していた。
主夫・・・?と思うような2人の自然な動作。1日どれくらい洗濯してるか良く分かる。
現に洗濯カゴが2人の間に3つある。
なんだか声が掛けにくい雰囲気だったので物陰から2人の様子を見てみた。
風に乗って彼らの会話が聞こえる。


『リンク、今日はいい天気だな』

(真っ白なシーツをはためかせながらシワを作らないように干す)。

『はい、洗濯物が良く乾きますね』

(タオルを左右に引っ張って物干し竿に掛ける。ピンク色だからカービィのタオルかな)。

『これ干し終わったら休憩にしないか?』

(誰かの服をハンガーに掛けて干す。丁寧な手付き)

『そうですね、お茶を入れましょうか?』

(大きなタオルを両手一杯に広げて干す。誰が使ってるタオルなんだろ)

『それもいいけど・・・天気がいいんだ、日向ぼっこでもしないか』
『そうですね、たまにはいいかもしれませんね』

(同時に洗濯物干しを終える。)

『じゃ、俺はカゴを片付けてくるから』


リンクとフォックスは一瞬柔らかなアイコンタクトをしてそれぞれの方向を向いた。
ロイ君はなんだか新婚さんを見たような気持ちになってしまった。
べったりじゃないけれど、どこか甘い、そんな雰囲気な彼ら。
見ていてこっちが恥ずかしい、そんな感じ。



勇者がようやく1人になったので、本来の目的である『愛』について聞くことにする。
リンク・・・と呼ぼうとした瞬間、何かが視界をものすごい速さで駆けてった。
駆けてったのは青いマントにエンブレムを背負った、青い髪の美形な王子。

『わぁっ!ちょっ、マルスさんっ!!』
『リンク、愛し・・・たふばっ!!』

王子は勇者に盾をぶん投げられ、変な悲鳴を上げて地面に倒れた。
だが、3秒としない内に起き上がって同じ事を繰り返してる。
何度盾をぶつけられても鼻血が出ないのはすごい。

『ハハハ、相変わらず手厳しいね。リンクは』
『マルスさん、何か用ですか?』
『何か用って・・・僕はリンクに会いに来たんだよ?』
『はぁ・・・』

王子も勇者も相変わらずだ。
王子の告白も、勇者には???で伝わってる。
王子のあれも『愛』なのかなぁ、後で聞いてみよう。

『リンク、愛してるよ』
『・・・アリガトウゴザイマス』
『なんか心が篭ってないお礼だね・・・でもそんな所も好きだよ!』
『はぁ・・・・そうですか』

多分だけど、勇者は恋のお相手じゃない限り『愛してる』って言われても全て友達どまりみたいだ。
王子も一応王子なんだし、プロポーズの言葉をホイホイ言わないほうがいいんじゃないのかな。
ああ、また勇者に盾をぶつけられて・・・当たり所が悪かったみたいだ、王子、動かなくなった。

『マルスさん?私はまだやることがありますから』

王子の頭を軽く撫でて勇者は行ってしまった。
優しいのか薄情なのか。
仕方ないから物陰から出て王子を起こしに行った。

「もしもーし、生きてますかー?」
「うぅん・・・・・ロイ・・・?」
「うん。大丈夫?」

王子は起き上がって髪の毛を直した。
身だしなみに気を使うのは王子だから、と言っていた。

「マルス、『愛』って何?」
「ん?『愛』?『愛』って言うのは相手に自分の熱い想いをぶつけることだよ」
「ふぅん・・・」

その結果が盾として返ってきてる訳では。
そう思ったけど黙っておくことにする。

「だからね、僕はリンクを『愛』してるよ」

なんだか今、とっても優しく『愛』してるって囁いてる。

「そういえばさ、なんでそんなに愛してんの?」
「話せば長いよ?」
「・・・手短にお願いします」
「リンクに一目惚れしてね。そこから更に好きになって今に至るんだけど・・・」

元来、王子って一目ぼれしやすいのかな。
この前読んだ本に書いてあった。
白雪姫とかシンデレラとか。確実に自分の直感と好みで生きてる人達だったし。

「あ、こんな事してる場合じゃない!リンクは!?」
「えーと・・・」
「ちょっと探してくる、では失敬するよ!」

マントを翻して王子は走って行ってしまった。
勇者が行った方とは逆方向に。

「あーあ・・・」

王子を見送った後、逆を向いて勇者が歩いてった方に足を進めた。
王子の『愛』はちょっと良く分からない。
勢いありすぎ。自分ももっと大人になればあんな過激な恋ができるかも。
・・・あんまり、したくはないかも。

どうしたものかと悩んだ後、勇者の後を追っていった。
勇者は狐さんと一緒に、言葉通り日向ぼっこをしていた。
丁度、木陰の木漏れ日を浴びるような感じで、気持ち良さそう。
こっそり、ロイ君は別の木の裏から2人の様子を窺った。
風下に居たせいか、先程より声が良く届いた。

「は〜・・・気持ちいいな」
「はい」

柔らかい芝生をベッドに、ごろりと寝転がっている。
緑色の中で、狐さんのしっぽと勇者の金髪がよく映えた。

「平和って感じがする」
「ええ、平和・・・心が安らぎますね」

狐さんも勇者も穏やかな顔をしていた。

「風が気持ちいいですね」
「ああ・・・」

狐さんはごろん、と身体を転がして勇者に近寄った。
寝転がったまま、にこやかに笑って。
勇者はよっと手を伸ばして狐さんの耳を触ってる。

「リンク、『愛』してる」
「はい」

鳥さんのアダルトさや王子のような激しさは無いけど、ほわんとするような声色で呟いた。
勇者はそれに、花の様な微笑みを浮かべて。

何故、フォックスもマルスもなんであんなに柔らかく『愛してる』って言えるんだろう。
やっぱり精神的に彼らの方が大人なのかも。
ちょっとリンクに聞いてみよう。
彼らにあんなに愛されてるリンクだから、きっと『愛』の心理を知っているかもしれない。




狐さんと勇者が帰ってきた後、勇者が1人になるのを見計らって声を掛けた。

「リンク、訊きたいことがあるんだけど!」
「ロイさん。どうしたんですか?」
「リンクにどうしても訊きたいことがあるんだ!」
「いいですよ、なんですか?」

勇者は軽く首を傾げて返答を待っている。
大きく深呼吸して、勇者をまっすぐに見詰めていった。

「『愛』って何!?」

勇者はその優しい笑顔を浮かべたまま、表情を固まらせた。

「えっと・・・『愛』ですか?」
「うん、そう、『愛』!」
「えーと・・・『愛』はですね・・・」

勇者は必死に言葉を選んで、悩んでいる。

「すいません、私は上手くお答えできないのですが・・・」

10分後に、ようやく帰ってきた意外な答え。
勇者は申し訳なさそうな顔をしてる。

「そ、それならいいんだ、ごめん、困らせて」
「私はその誰かを慕ったり、大事に思うことじゃないかと思うのですが・・・」
「それが、『愛』?」
「えーと、『愛』にも色々ありますし、それも十人十色」
「つまり・・・『愛』は決まったものじゃないってこと?」
「そうですね」

分かったような分からないような。

「ロイさんも『愛』するものができれば、訊かずとも自然と分かりますよ」
「そう・・・かな」
「ええ、自分で感じてみるのが1番ですよ」
「うん・・・」

よしよしとリンクが頭を撫でてくれた。
なんだか子供か小動物になった気分。

「・・・そういえば、なんで突然『愛』なんて知りたかったんですか?」
「え、それは・・・その・・・な、なんとなく、かな・・・?」
「なんとなく・・・ですか?」
「そ、そう!なんとなく!」

勇者はおかしそうに笑ってる。
こっちは反対、顔が熱いって言うのに。

「いつか『愛』が分かるといいですね」

こくっと頷く。
リンクは頑張ってくださいね、と言い残して台所に行ってしまった。

「誰かを慕ったり、大事に思うことかぁ・・・」

火照った頬がようやく元に戻ってきた。
自分もそろそろ宮に帰らなければ。
王子や姫は宮で寝る決まり。
実を言えば、勇者みたいにアットホームなところがちょっと羨ましい。

「よくわからなかったけど、帰ったらお祈りしなきゃ」






今日は自分を『愛』してくれた、母上の命日。





























                                fin.



















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