+愛患い+



すりり・・・と頬を肩に擦り寄せてくる。
寄せているのはミツル。
寄せられているのはワタル。
ワタルはミツルに後ろから抱きしめられ、拘束されていた。

「あの、ミツル?」
「なんだ?」
「えっと・・・髪の毛がくすぐったいんだけど・・・」

ミツルが緩く上下するたびに、ワタルの首を柔らかい髪が撫でる。

「くすぐったい?」
「うん。もそもそする」
「じゃあ別のところでやろうか?」

別のところ。
ワタルはなんとなく良くないものを感じ、話題を変えることにした。

「・・・ミツル、暑くないの?」
「冷房が効いてるからな」

ここはワタルの家のリビング。
ソファーの上で密着しているとはいえ、25℃の部屋は涼しい限りである。
外では蝉時雨と車の音で満たされて。

「ミツル、もしかして寒いの?」
「いいや・・・」

ミツルはかったるそうにワタルの肩に顔を埋め、ふぅと一息ついた。
安定したのか、頬擦りを止める。

「落ち着いた?」
「ああ」

身体の半分を占領されたワタルは口だけ動かす。

「ミツルって猫みたいだね」

時々、ミツルは信じられないほど甘えてくる。
それはとても不器用な甘え方だけど。

「オレはにゃあって鳴いた事はないぜ?」

ワタルはなんとなくその様子を想像して、くすっと笑みを零す。
それを察した敏いミツルから、咎めるようにワタルの腹をくすぐった。

「ひゃっ!く、くすぐった・・・あははははははっ!!」

ばたばたと身をよじりながらワタルは笑い声を上げた。
ミツルは20秒ぐらいくすぐり続けて、ようやくワタルを開放した。
ワタルはソファーの上を器用に転がりながら、ミツルと向かい合う。
ワタルはぜーはーと荒い呼吸で、涙目で、なんだかすごい顔になっていた。

「もー・・・ミツルはぁ・・・」

乱れた服や髪を直しながら、ワタルは少し頬を膨らませた。

「ワタルが妙な事を考えたからだろ」

ミツルは膨らんだ頬を指で押して破裂させる。
両頬の空気が抜けたところで、親指でワタルの下唇をなぞった。
ワタルは少し困った顔をして、ミツルを見上げている。

「ワタル、オレは病気かもしれない」
「え、何の?悪い病気じゃいよね!?」

ワタルは慌ててミツルの前髪を捲り、熱を測ろうとする。
ミツルは淡く笑いながら、オレは平熱だ、と答えた。

「どこが悪いの?ちゃんと治るの?」
「さぁ・・・どうだろうな」
「ちゃんと病院に行ったの?」
「別に、治らなくてもいいから」
「悪い病気だったらどうすんのさ!」

ミツルはふっと綺麗な微笑を見せた。ワタルはその顔に目を奪われる。
そのスキを突くように、ミツルは強い力でワタルを引き寄せた。
そのままワタルに抱きつき、その細い肩に顎を乗せる。
いきなりのことにワタルは戸惑って、ミツルの腕の中であわあわし始めた。
その様子が、可愛らしい。

「病気の元は、ワタルだからな」
「え?ボク何かした!?」

じたばたするワタルをより強く抱きしめながら、ミツルはそっと囁いた。

「ワタルの事が好きでたまらなくなる病気」

どこか笑いを含んだミツルの綺麗な声。
ワタルは顔を赤くしながら、小さな声で呟いた。
今にも消えそうなほど、小さく小さく。
『・・・治らないで』、と。

「ワタル・・・」

蝕まれる。
この幸せな恋の病に。

「好きだ、ワタル」
「ボクもだよ、ミツル」



もっと肥大化すればいい。
もっともっと、心から溢れるぐらい。
小さな苗木が、大樹になるように。
大地から優しさを吸って、太陽と水から愛を注がれるように。




この大切な愛の病を進行させればいい。
















                                           fin.
































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