+風の向こう+



瞳の上で七色に光る太陽の光は眩いけれどずっと見ていたくなる。
少し下に見える海が光を反射して、その光がキラキラと目に差し込んでくる。
なんて、きれいで強い光。
大きく息を吸って気分を落ち着かせたあと、僕は登っていた岩から降りた。
草の茂った坂を下りる。
目の前を小さなブタが駆けた。

「にいちゃーん!」
「・・・アリル?」

アリルが手を振りながらこっちに駆け寄ってきた。
浜辺の砂と海の水を蹴って、手にはいつもの望遠鏡を持って。

「はぁっはぁ・・・・・どこにいたの?探したんだよ」

アリルは呼吸を整えながら僕の顔を下から覗き込んだ。
いつもなら、小さな妹の方が僕より先にどこかにいなくなる。
そうして夕暮れ前に僕が見つけて一緒に帰る。
毎日が平和でのんびりと暮らして。それが幸せだった。

「ごめん、ちょっと丘の方に」
「もう、遭難しても知らないよ!」
「その時はアリルが見つけて」
「にいちゃんってば!」

怒っているけど、アリルは優しい子だ。
それは僕の誇りでもある。

「にいちゃん、展望台に行こう」
「好きだね、アリルは」
「だって、いろんなものが見えるんだもん!」

浜辺を歩きながらアリルは話し出す。展望台から見えるもののことを。
楽しそうに、笑いながら。

海のこと。
空のこと。
鳥のこと。
島のこと。
人のこと。

アリルは小さな望遠鏡のガラスの中から大きな世界を見ていた。

「展望台のはしご、僕が先に上がるね」

展望台の長いはしご。もう僕よりアリルの方が多く上っていると思う。
アリルが展望台に上がるようになって、僕は丘に上がるようになっていた。
展望台よりも高い丘に登って、より多く見ておけるように。

「にいちゃん、あたし思うんだ」
「ん?」

僕とアリルは並んで立って、風を感じる。潮を巻き込んだ風が身体を吹き抜けて気持ちいい。

「あたし、風になっていろんなものを見てみたい」

アリルの瞳には、水平線が映っていて空と海が映っていた。

「そっか・・・アリルは大人になったら島を出たい?」
「うーん・・・おばあちゃんがいるし・・・あたしはここにいるよ」

やっぱりアリルは優しい子だ。僕みたいには考えてはいない。
僕はほんの少しでいいから、世界を見たいと願っている。
雲ほど世界を見なくてもいい、風ほど世界を渡らなくていい。
ほんの少し、大きな世界を見てみたい。

「でもね」

コン、とアリルが望遠鏡で僕の頭をつついた。アリルの瞳に僕が映る。

「にいちゃんは、見たかったら見に出てもいいんだよ」
「え?」
「にいちゃんはあたしより高い所でいろんなものを見てるから。きっと見えてるものも多いでしょ」

見抜かれていたんだ。流石・・・とゆーか。でも、

「その時はアリルも連れて行くよ」
「え?」
「僕がいなくなったら、探してもらわなきゃ」
「にいちゃんってば」

ざぁ・・・と風が海の上を泳いで、白い雲を運んでいく。
その雲は遠く、遠くに流れていった。

「世界は広いね、アリル」
「うん・・・」

望遠鏡の中よりも鮮明な世界を。
できることなら。

「帰ろうか。」
「うん。おばあちゃんが待ってるね」

海と空を越えて風の向こうに続く世界を。
いつか必ず。

「にいちゃん」
「ん?」
「今度あたしも丘の上に連れてって」
「・・・いいよ。明日――晴れたら行こうか」
「やったぁっ!約束、絶対だよ!!」
「うん。約束だ」

望遠鏡より広い世界を妹に見せてあげたい。
















                          fin
.









ブラウザバックでお戻りください。