+A rainy day of father and a son+
朝から雨が降っている。
時折、雷まで落っことしてしつこく降り続く。
「そろそろ止めよなぁー・・・」
室内から窓の外を眺めていたフォックスは小さくぼやいた。
今日は久々にジェームズがパペツゥーンの家に帰ってくるのだ。
普段、フォックスが1人でこの家で暮らしているのだが、今日は違う。ジェームズが帰ってくる。
フォックスはそれが朝から待ちきれず、そえわそわしていた。
掃除もご飯もお風呂もベッドメイキングも全て万全に揃えてある。
準備万端。その言葉以外当てはまらない状況だった。
「まだ・・かなぁ・・・父さん・・・」
雨が降っていなかったらジェームズを迎えに行っただろうが、生憎の豪雨がそれを阻止した。
一刻も早く父に会いたいフォックスとしては、もはやてるてる坊主にも縋りたいぐらいである。
今更作っても遅いのだけれど。
フォックスは窓から離れ、ソファーに寝転がった。
寝転がった時、右腿にズキンと軽い痛みが走る。
ズボンを下ろしてみてみれば、右腿には拳より一回り小さい青アザがあった。
「あーあ、やっぱりアザになっちゃてたか・・・」
フォックスはその怪我をさして気にせず、ジェームズの帰りを待ち続けた。
待ち続けて―――いつの間にかフォックスは眠ってしまった。
空が夜の色に染まり、雨の音が止んだ頃。
フォックスは玄関からの物音に気付いて目を覚ました。
『ただいまー』と少し疲れを含んだ声が飛んでくる。
その声と同時に、フォックスは慌てて飛び起き玄関に走った。
「父さん!お帰り・・・」
びたっ!!ずべべべべべ!
フォックスは足の事を忘れて走ったせいで、ジェームズにたどり着く手前ですっ転んだ。
身体全体でフローリングの床にノックする。
「フォ、フォックス!大丈夫か!?」
「ん、大丈夫だよ!お帰りなさい!」
フォックスはジェームズに起こされる前に立ち上がり、服を払う。
右足がじくりと痛んだが、フォックスは気にしなかった。
気にしないことにした。
「父さん、お風呂にする?ご飯にする?」
「えーと・・・お風呂かな」
「じゃあすぐに入れるよ、タオルは置いてあるからね」
「フォックスは一緒に入らないのか?」
「俺はご飯の準備をするから、あとでいいよ」
にっこりと笑うフォックスの前に、ジェームズは少し淋しそうな顔をしながらバスルームに向かう。
フォックスは笑顔の裏でジェームズに謝りながら右足のアザをさすった。
一緒にお風呂に入れば、このアザが見られる。
ジェームズの事だから、見れば理由を訊いて来るだろう。
ジェームズに嘘つくことはできないが、かといって理由を話す訳にもいかない。
この傷は、間接的にだが、ジェームズ絡みでできた傷なのだから。
「・・・ご飯の支度、しなきゃ」
フォックスは食事の準備をしながら、今日の午後2時まで記憶を遡らせた。
アカデミーの暗い教室の一角。
自分の目の前には3人の、名前を覚えるのも億劫な奴らがいた。
俺の後ろは壁で、いわいる3対1の不利な状況。
『何がスターフォックスだよ、そんなんで英雄気取りか』
『軍と対等の立場にでも立ってると思ってるのか、お前の親父は』
『なんでお前みたいな奴がここにいるんだよ!お前なんかいなけりゃいいのに!』
うるさい、うるさいうるさいうるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
お前らなんかに、父さんの悪口を言う資格なんてない。
『っうるさい!』
肉弾戦開始。小気味良い音が教室に響いた。
ビルが止めてくれなかったら、結構な騒ぎになってたかもしれない。
『フォックス・・・』
3人がいなくなった後、ビルが心配そうな顔で俺を見詰めてくる。
『大丈夫だよ、ビル』
『・・・あいつらみたいな奴の方が、ここにいなけりゃいいのにな』
俺が気にしているのは、俺自身のことより父さんの事。
父さんを馬鹿にされる方が俺には辛い。
大事な人を悪く言われる方が苦しいから。
『俺は大丈夫だよ。俺の存在はあんな奴らの言葉じゃ揺るがないから』
いなけりゃいいのに、なんて言われてもそれがどうだと言うんだ。
俺は俺のために存在しているんだから。あんな奴らのために存在しているわけじゃないのだから。
だから、なぁ。
『ビル、そんな顔しないでくれよ』
酷い怪我を負った兵士を見るような目で、俺を見ないでよ。
本当に、そんなに気にすることじゃないから。
『フォックス・・・お前は強いな』
『それは・・・ビルがいるからじゃないのかな』
ビルは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべてくれた。
『今日さ、父さんが帰ってくるんだ』
『へぇ・・・良かったじゃないか』
『うん、帰ったらやる事いっぱい・・・痛っ!』
『フォックス?』
『・・・っ大丈夫、さっきケンカした時に足に一発貰ったんだ』
俺はあの3人に1人4発づつ当てといたけど。
まぁ、おあいこだ。
『帰ったらちゃんと手当てしとけよ、アザにあるぞ』
『うん、でも大したことなさそうだから・・・』
大したことないからと放っといて、今はこの様である。
「・・・寝る前に薬でも塗ればいっか」
フォックスは小さな溜め息を吐いて、食事の用意を進めた。
「フォックス、上がったよ」
「ご飯ももうできてるから・・・」
「ああ、ありがとう」
ジェームズはタオルを首にかけたまま、お酒の入ったボックスを開く。
ボックスの中はワインやブランデーが数本ストックされていた。
ジェームズはその内、赤ワインを取り出す。
フォックスはその間に、ちゃっちゃと食事をテーブルに並べていた。
「おいしそうだな、これフォックス一人で作ったのか?」
並べられた食事に感心しながら、ジェームズがワインのコルクを弾く。
「うん、まだ料理本見ながらじゃないと作れないけどね」
「でも、よくできている。じゃあ、いただきます」
「はい。いただきます」
食べながら、ジェームズはフォックスに色々なことを訊いた。
アカデミーの事、ビルやスリッピーの友人の事、今の生活の事。
話している内に食事を終え、テーブルの上には半分に減った赤ワインのボトルが残った。
「フォックス、その・・・すまないな、いつもお前一人にしてしまって」
「俺は大丈夫だよ、心配しないで」
「フォックス・・・」
ジェームズはグラスの中の赤ワインを揺らしながらそれを見詰める。
「俺は父さんが元気でいてくれたら大丈夫だから」
「そうか・・・」
「次のお仕事に出ても、無事に帰ってきてね」
「・・・ああ、フォックスがいるからな。ちゃんと帰ってくるよ」
ジェームズはワインを飲み干すと、席から立ち上がった。
「父さん、もう寝る?」
「ああ、そろそろ休んでおくよ」
「そう。じゃあおやすみ」
「おやすみ、フォックス」
ジェームズは2階の寝室に向かって歩き出す。
フォックスはジェームズが飲み終わった後のグラスを持って、台所に向かった。
「・・・と、フォックス」
ジェームズが戻ってきて、フォックスの居る台所に顔を覗かせる。
「どうしたの、父さん?」
「右足、酷くならないうちにフォックスも休むんだぞ」
「っ!?」
「じゃあ、おやすみ」
ジェームズはあっさりと2階に上がっていく。
反対にフォックスはグラスを持ったまま、固まっていた。
「気付いてたんだ・・・」
父さんには敵わないなぁと思いながらも、グラスを丁寧に磨いた。
ついでに翌朝なんで右足を怪我したのか訊ねられ困ったことになるのだが、それはまた後の話である。
fin.
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