+月夜水+
旅に出る、ということはしばらく家に帰らないということである。
家でない上に宿や民家に泊まれなければ、暗い星空が天井となり冷たい土が寝床となる。
早い話が野宿である。
「ねぇねえ、見て!空がすっごいキレイだよ〜!」
「うるせーぞ、レッド」
バシャっとブルーはレッドに川の水を飛ばした。
レッドは飛ばされた水を顔面で受け、手足をばたつかせる。
剣を振り歩いて一日歩き倒せば、体もそれなりに汚れている。
川や池があればそこで汗や汚れを流すのは当然のこと。
「ブルー!何するんだよぅ〜」
「二人とも遊んでないで早く身体洗えよ。風邪ひくぞ!」
少し離れたところで体を洗っていたグリーンがブルーに石鹸を投げて寄こした。
ブルーはなんとかぬめる石鹸を両手にはさんでキャッチする。
「馬鹿は風邪をひかないとは言うがな・・・」
一人だけさっさと水浴びをしてぬくぬくと焚き火の横で本を読んでいるヴィオがぼそりと呟いた。
「あぁ!?んだとてめぇっ!」
「あーもーっ夜にケンカしない!余計疲れるよ」
実際、一番疲れているのはケンカの仲裁をするグリーンなのだが。
グリーンの言葉にブルーはふしゅ〜と頭が不完全燃焼しつつも身を洗うのに専念しだす。
「でも・・・こういう時に家のありがたみって感じるよね〜」
レッドがぼんやりと遠くに見える、暖かく明かりの灯った他人の家を見て呟く。
「言うなよ・・・悲しくなってくるから・・・」
もともとキチンとした家に父と住んでいたグリーンはあらためてアウトドアの厳しさを味わっていた。
地面で寝れば体は痛い、夜露に濡れて寒いなど、不満もそこそこ溜まってくる。
グリーンはのろのろと川から上がり、身体を拭いて服を着るとヴィオの横に座る。
焚き火の炎が悲しくなるほど暖かい。
「おいレッド、石鹸だ」
「ありがと・・・」
ブルーはぽいっとレッドの方に石鹸を投げる。
レッドは石鹸をぱしっと掴んだ瞬間、シュポーンと手から抜けて宙に飛んだ。
「あ、あれ?どこ・・・痛ぁっ!!」
石鹸はこーんと自分の頭にヒットして手の中に納まる。
それは、周りから見れば呆れるものでしかない。
「レッド、大丈夫か?」
「ほんっとドジだな、お前」
「っく・・・・」
グリーン、ブルー、ヴィオの順でレッドにツッコミを入れる。ヴィオは笑っただけだけど。
「ヴィオ・・・今、笑っただろ・・・」
「・・・何のことだ」
グリーンからの冷たい視線をあっさりとヴィオは弾いてしまう。
川の方では水の跳ねる音がしなくなる。どうやらブルーとレッドも上がったらしい。
「はう・・・イタイ・・・」
「痛みなんかすぐひいちまうっての」
川から上がってまだ頭をさすりながらのレッドとそれを呆れ顔で見るブルーが、焚き火を囲むように座った。
ぱちぱちと燃える炎が暖かく肌を照らす。
「あ〜あったけ〜」
「ブルー、年寄りみたいだよ・・・」
「なんだとレッド!!」
「ブルー!レッドも挑発するなって!」
「グリーン・・・だってブルーが〜!」
「あぁ!?お前があーだ、こーだって・・・」
「ああもう、二人とも!・・・ヴィオ、なんとかしてくれよ」
「・・・なんで俺が?」
ヴィオは自分は一切関係無いといった涼しい顔でグリーンに返答する。
その間にもブルーとレッドの言い争いは大きくなり、ブルーは今にも手が出そうだ。
「無関係顔してないで!!どうにかしないと近所迷惑だよ」
「やれやれ・・・俺はもう寝る」
ヴィオは布を体に巻くとと木の下まで行き、こてんと横になる。
極普通な動作だが、夜露の当たらない所で寝るあたり抜け目がない。
「はぁ・・・僕ももう寝る・・・」
ヴィオの姿にどっと疲れの波が寄せてきたグリーンは焚き火から少し離れる。
そのままヴィオと同じように布に包り、みのむし状態になり寝てしまった。
もはやブルーとレッドを止めるのもめんどくさくなったようだ。
ブルーとレッドはいまだ言い合いを繰り返し、焚き火よりも熱くなっている。
「だいたいブルーが・・・」
「言い出したのはお前だろーが!」
「すぐそうやって人のせ・・い・・・はっくしゅんっ!」
「!?・・・か、風邪ひいたのか、レッド?」
ブルーはぱっとレッドの額に手を当てる。熱・・・はないようだ。
だが、むしろ身体が冷えてきている。
「ん〜・・・寒い・・・もう寝る・・・」
レッドは両手で自分を抱えるように腕を擦る。
「ったく・・・ほら、布」
ブルーはレッドの分の布を渡し、自分の分の布をレッドの頭に被せた。
「あ・・・僕は大丈夫だよ。これじゃブルーの分の布が無いじゃん・・・」
半分眠りに入ったレッドがぼんやりと言う。
しかしブルーは自分のフォーソードを片手に座りなおしただけだった。
「ブルー・・・?」
「俺は夜番してるからまだ使わねーよ。いいからとっとと寝ちまえ」
「ん・・・ありがと・・・」
コンマ3秒でレッドは眠りの世界に落ちていく。本当に遠慮はないらしい。
布に埋もれたレッドの安らかな寝顔に、ブルーはほっと息をついた。
「(・・・やっと静かになったか・・・)」
これ以上うるさくなったら本をぶつけてやろうと思っていたヴィオは、持っていたぶあつい本をそっと手放した。
fin
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