霧が薄れてきた頃、地面が揺れたと同時に、爆発音があたりに響いた。
音のするほうを見れば、大きな火柱が上がっていた。
「うわぁ・・・何あの火柱・・・」
レッドは高々と舞い上がる炎を見ながら呟く。
レッドのすぐ傍にはブルーとグリーンが佇んでいた。
「何か爆発したみてーだな・・・」
「まさか・・・ヴィオに何かあったのかもしれない!」
3人は顔を見合わせ頷いた後、火柱に向かって走り出した。
「ヴィオ・・・貴様、どういうつもりだ?」
「どうもこうもない、最初からこうするつもりだった」
ヴィオは勝者の笑みを浮かべ、シャドウの背後に立っていた。
シャドウはヴィオが言った通り、強い火炎をヴィオに向かって放った。
しかし、ヴィオは自分が言ったにも拘らずその炎を避け、シャドウに向かって突っ込んだのだ。
ちょうど、炎の陰に隠れるようにしてシャドウの視界に回りこんだ。
結果、炎は木にぶち当たり、シャドウは背を取られたのだ。
「最期の願いは俺を殺すことだったのかよ」
「・・・別にそういうわけじゃない」
背後を取られたといっても、シャドウは余裕だった。
メラメラと炎を正面から受けた木がシャドウの余裕の表情を照らす。
ヴィオもシャドウに向かって剣は向けているものの、斬ろうとはしていない。
それ以前に、斬ることができないのだ。
1人で相手にして勝てるほど、シャドウは甘い敵ではない。
「何で俺に炎を出させた?」
「それはお前が気付かせてくれた。霧には、火だと」
「・・・ああ、そうか。霧を消すには、燃え続ける火が必要だったな」
「それも、妖精ごと焼き尽くす激しい炎がな」
「俺は利用されたというわけか」
「ああ、お前が景気良く炎を出してくれたおかげで上手くいきそうだ」
シャドウは少し押し黙った。
ヴィオも剣を握る手に力を込める。
「ふふ・・・ははは・・・・」
「シャドウ、何がおかしい?」
「勇者なんて馬鹿だろうと思っていたが・・・お前は『リンク』より頭がいいんじゃないのか?」
「俺も『リンク』の1人だ」
ヴィオの言葉にシャドウは再度押し黙った。
笑みを消し、何か考えるように唇に手を当てている。
「・・・もし俺が確実にお前に炎玉を当てていたらどうするつもりだったんだ?」
「俺は死んでいただろうな、丸焦げになって」
「じゃあ、何故?」
何故、そんな危ない賭けに出た。
ヴィオはその問いに落ち着いた声で返した。
「シャドウ、お前相手に命を賭けないでいられるか?」
霧と邪妖精によって死ぬか、シャドウに焼き殺されるかの違い。
賭けとしては、どちらも命がけに変わりなかった。
「俺相手にか・・・・・・いい心がけだな。お前、少し気に入ったぜ」
感嘆の声を上げてシャドウは宙へ浮いた。
シャドウの言い方が貴様からお前に変わっていた。
同時に互いの殺気も消え、ヴィオは剣を下ろす。
「今日はもう帰る、お前の仲間も来たようだしな」
「・・・ああ」
ヴィオの背後でがさがさと草を掻き分ける音が聞こえる。
シャドウは何か言いたげな顔でヴィオの方を一瞥した。
「・・・・・お前なら・・・・」
「なんだ、シャドウ?」
シャドウは答えないまま背後を向け、猛り燃え立つ炎の風に乗るように舞い上がった。
真っ赤な炎がまるで羽のようにシャドウを包み、消した。
その瞬間。
「ヴィオ!無事か!?」
「ヴィオ〜生きてる〜?」
「何はぐれてんだ馬鹿!」
ヴィオは背後から飛んできた声に溜め息をついた。
グリーンと、レッドと、ブルーの声。
レッドに至ってはヴィオの姿を見つけた途端飛びついてきた。
「うわぁぁん心配したんだよ〜!」
「分かったから泣くなよ・・・」
レッドの頭を撫でながらヴィオは苦笑いを零した。
グリーンもブルーも、ヴィオを見つけることが出来たので安心したらしい。
「突然いなくなったからどこ行ったのかと思ったよ」
「すまない、グリーン」
「ったく、ふらふらしてんじゃねぇよ!」
「邪妖精に惑わされてたんだ、仕方ないだろう」
「邪妖精〜?」
レッドは顔を上げ、辺りを見渡す。
おそらく妖精を見つけようととしたのだろう。
「・・・いないじゃん」
「ああ、燃やしてしまったからな」
そう言ってヴィオはようやく落ち着きを見せ始めた木を指差す。
不思議な事に燃え移らないその炎は、当てられた木だけを黒々と焦がしていた。
「丸焦げ・・・これヴィオがやったのか?」
「いや・・・・まぁ・・・」
シャドウが、と言おうとしてヴィオは口をつぐんだ。
余計なことを言って、3人に心配をかける必要が無いと判断したからだ。
「それより早くこの森を出ようぜ、霧も晴れたようだしよ」
ブルーはヴィオからレッドを引き剥がすとさっさと歩き出した。
「ちょっ・・・待てよブルー、レッド!」
グリーンも2人の背を慌てて追う。
「やれやれ・・・」
ヴィオも溜め息を吐くと、急ぎ足を進めた。
5、6歩進んだ所で足を止め、焼け焦げた木の上を見上げる。
その上には、霧が晴れて澄み渡った夜空と、焼けるように赤い月が輝いていた。
fin.
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