部屋の中の世界。部屋の外の世界。それを繋げる窓。
現実の自分。夢と心の世界の王。それを結ぶクロノア。
それならば、自分の世界へと射し込む冷たい月光は。
月光を避けた暗闇で誘ってきたから、それに乗っかった。
ただそれだけで事は進んでしまう。
小さな彼に口付けをして押し倒して服を剥いだ。
この行為が何になるのか、ガンツには分からない。
ただもう止められないということだけはしっかりと分かっていた。
「あっ…!!」
首巻きを取られた哀しみの王が焦った声を上げる。
「どうした?あってもなくてもそんなに変わらねェだろ?」
「べ、つに……つけてるのが当たり前だったから、びっくりしただけだよ」
プイとそっぽを向いて何でもなかったことのように言い放つ。
内心焦っているのが逆によく分かる。
その仕草にガンツの口角がニヤリと上がった。
「そうか。じゃあ、代わりにこうしても別にどうってことはないよな」
「っひぁ!??」
露わになった首筋へ唇を落す。
這わせるように舐めれば、クロノアの肌と同じような味がした。
哀しみの王はクロノアの心の一部。
加えてこの細い身体はクロノアの肉体を借りたものなのだか似たような味はするだろう。
表に出ている人格が違う。それだけの事だ。
「か・・・噛まない、で・・・」
舐める内に牙が脈に当たったのか、肌が粟立っている。
痛くするつもりはないと耳の傍で呟いてその肌に吸いついた。
「っ!!」
「もっと力抜け。じゃねェとホントに痛くなっちまう」
「そんな事言われても・・・どうしていいか、分からない・・・」
「ゆっくり息して、それが駄目なら天井でも見てろ」
戸惑った顔に対し、若干投げやりに答えて舌を移動させる。
揉むほどもない薄い胸板に小さく実る突起を舐めた。
「う、ぁ・・・!!は、ぁ・・・はぁ・・・」
言われた通りの呼吸をしているがまるで整わないらしい。
反対側の突起を指で擦りながら愛撫を強くしていく。
「っ!!クロノア、は・・・いっつも、こんな風に・・・感じてたんだ」
「感覚まで伝わってるわけじゃねェのか」
「つ、たわってない・・・それに・・・こんなとこ・・・見られたら嫌だと思って・・・みても、な・・・」
「それが賢明だぜ」
覗き見られても難であるし、情事の最中の自分を知ればさらに王が怒りだしかねない。
大人げないとは重々承知しているがそれがガンツの愛し方なのだ。
愛しみながらも攻め立てて、泣いて満足するまで止めない。
「うぁっ・・・!!」
突起に歯を立てればビクンと身体が跳ねた。
嫌だと言いたげに首を振る。
「オラ、もう両方とも真っ赤だ」
「!!!わ、ざと言ってるでしょ・・・いじ、わる」
きゅっと抓ってやれば深紅の瞳に涙が湧いた。
同時にむくむくとガンツの中の鬼畜とまではいかないがよろしくない気持ちが持ち上がる。
目の色が獲物を見るものに変わっていった。
「ハン?黙って集中しろってか」
「・・・っ!?」
するりと下腹を撫でると王は驚いたのか貝のように足を閉じてしまう。
少し力を入れて開かそうとするがどうにもきつく拒絶されたらしい。
人の足には絶対に動かかせない角度がある。
太腿の開きと膝の開きがある同じ角度になると、そこから強引に開けば骨折させてしまう。
流石にそれは洒落にならない事態。
「やれやれ・・・」
彼から開かせるように、ガンツはそっと内股を撫でる。
そして、落ち付き払った声で囁いた。
「クロノアはこれをしたら足開くんだけどなァ?」
もちろん嘘だがトントンと膝頭を突いて催促すれば、王が悔しそうに睨みつけてくる。
ゆっくり開かれる足の間から、既に快感を示している彼のものがあった。
「イイ子だ。ちょっとじっとしてろよ」
「ふ、あぁ!??…っく!!」
咄嗟に声を抑える王を初々しく思いながら彼のものを一口で口内に収める。
大きく舌を裏筋に沿わせながら頭を離し、また同じように含んだ。
何度か繰り返せば、含んだ熱は次第に高まっていく。
「ン・・・。これの味はクロノアと変わらねェな」
「・・・うる、さいっ!!」
掠れた声で顔を真っ赤にさせながら怒鳴る。
王のそんな顔も声も新鮮で、それが何よりガンツを楽しませた。
「くぁ・・・!!!」
「一回出しちまえよ。その方が後々楽だぜ」
我慢ならないのだろう。
ガンツは口に銜えたまま手を這わせ、強い刺激を与える。
とろとろと先走りを口の端から流れさせながら、じゅる、と強く擦った。
「ちょっ・・・そ、んないき、なり・・・っ!!」
「逃げンなよ。殻にも篭るな、ほら――」
身体捩らせた王を逃がさない内にトドメの快楽を与えれば、細い腰が跳ね上がる。
「―――っあぁ!!?・・・あ、うぅ・・・」
大きく何度か跳ねた後、ぐったりとその身体が脱力した。
目をぎゅっと瞑り睫毛を震わせ、頬を赤らめた顔は可愛いと思う。
口の中に溢れる蜜液を掌に出して見せつければ、心底嫌そうな眼をされた。
「どうだ?」
「・・・悪趣味」
「さて・・・どうする、これ以上をするか、しないか?
「・・・・・・痛い?」
「ゼロとは言えねェな。クロノアはオレを思って受け入れたが、テメェはそこまで無理するこたァない」
少し虐めたい気持ちはあれど、乱暴に割り開けるほど酷くはない。
まして哀しみの王は殻に篭りやすいのだ。
無駄に傷つけてクロノアに影響させるわけにはいかない。
王は――別にガンツの事が好きではない。むしろ嫌いだと言って憚らない。
そんな子どもにこんな行為を強いるほど、ガンツは外道ではない。
「・・・クロノアが大丈夫だったなら・・・ボクも多分、大丈夫」
「気の持ちようってのは意外と大事だからな。・・・その言葉、信じるぜ」
多分という辺りにまだ不安が見られるが、了承の言葉として受け取った。
白濁に濡れた指を秘所へ、やや強引に押し込む。
感覚こそ王のものだが、身体はクロノアだ。
慣れた異物を柔らかい肉壁が貪欲に飲み込んでいく。
「っぐ・・・・・・」
「・・・すまねェな」
「うぁ・・・あ、あやまられる、筋合いなん、て・・・っ!!」
飲み込んでいく秘所とは裏腹に、王の表情は苦しげだ。
ぽつぽつと玉の汗が額に滲んで、呼吸は不安定になっていく。
ガリ、と硬い床に爪を立てる音が聞こえた。
「ンな泣きそうな面されたら謝りたくもなるぜ」
耳に口付けながら緩やかに収めた指を動かす。
ちゅく、じゅぶ、と浅い抜き差しによって生まれる淫猥な音が小さく部屋に響いた。
それが聞こえたのか、熟れたトマトのように王の顔が赤く染まっていく。
「そ、そんなに簡単に・・・泣くもんか・・・!きみに泣かされるなんて・・・!!
不本意と表すように王が頭を振る。
短く、呆れるような溜息がガンツの唇から洩れた。
「あのな、いじめっ子みたいに言うなよ・・・」
「っあ・・・だって、泣いてたら・・・きみの心が、分からな・・・」
涙を流せば無意識に殻に篭り、全てを遮断してしまうと思っているらしい。
別に哀しいことをするわけでもないのに。
「・・・今、悲しくて泣いてるわけじゃねェだろ?」
「哀しみ以外で・・・泣いたことない・・から・・・」
「じゃあ哀しみ以外で泣かせてやるよ」
粘着質な音を立てて指を引き抜き、折れそうな腰を抱えた。
その格好のまま自分のズボンの前を開き、少し手で擦り熱を高める。
いざ――という所で王の焦った声が飛んできた。
「ちょ・・・ちょっと待って!!!」
「なんだよ?」
出鼻をくじかれた気がして、ガンツが王の顔を覗き込む。
「もしかして・・・それ、入れるの・・・?」
恐る恐る視線を辿る王にガンツは思わず眉を顰めてしまう。
何のために後ろを解したと言うのだ。
「入れられたら最善だな」
「えっと……こんな体勢だけど、少し…話でもしようか。今後の事とか…」
視線を彷徨わせながらしどろもどろに王が言う。
多少気が動転しているようだが、今待ったをさせられるのは辛い。男として。
「そうだな、まずは入れる。それから揺すって突いて、オレもテメェも我慢できなくなったら終わる」
あっさり今後のことの話を終了させれば、直接過ぎる物言いに王は目を丸くしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・わ、分かりやすい説明だったよ」
「理解してもらえて何よりだぜ。さァて分かった所で足開きやがれ」
気付けばまた力の入りかけた足を角度が決まらない内に割り開く。
「え、あ・・・し、死んじゃったりとか・・・しないよね?」
心の具現がこんなことで死ぬのか。
ガンツはあまりのビビり様にめんどくさげな溜息を吐いた。
「多分な」
「!!!た、多分!?死んじゃった人いるの!??」
血の気が引く、というのだろうか。
王の表情がいつもの暗く、だが高慢な顔から狼に襲われる鶏か兎のように変わっていく。
焦るとクロノアに似てくるンだなと思いながら、この冷静さは長く持たないと心の中で判断を下した。
「やり過ぎたらな。バカ、テメェ相手にやり過ぎる事なんてねェよ」
「そ、そうだよね・・・。ボクが死んじゃったら本末転倒だからね・・・!」
「10秒でいいから頭空っぽにできねェモンか?」
「ボ、ボクほら・・・一人の時間長かったから・・・考え事するのが・・・その、趣味で・・・」
語尾が自信なく小さくなる。
よっぽどこの状況から逃げ出したいらしい。
だがそれは自尊心と誘った手前、逃がしはしない。
「じゃあ、入れた後で頭ん中を空っぽにしてやるか」
煙草の煙でも吐き出すように長く息を吐き、王に微笑む。
ギラリと牙を見せつけながら。
「ま、まだ心の準備が…!!!」
心が心の準備とはどういうことなのだろう。
ともかく、もう待ってやれる時間も余裕もほとんどない。
「3、2、1」
「〜〜っ!や、やるならひと思いにやっちゃって・・・!!びっくりしてスフィアモードになっちゃうかもしれないけど!」
無情なカウントダウンに泣き出しそうな声を上げながら腹を括る。
「それは勘弁だけどな・・・じゃあ、そらよ」
ようやく王の内へと突き入れた。
「あ、あ、うぁぁぁぁ!!!!」
じたばたと暴れる身体を押さえつけてどうにか落ち着かせようとする。
慣れないとはいえ、誘っておいてここまで暴れるのもどうかというものだ。
「ッ落ち着け。身体の準備はできてんだ、馴染むまで動かねェから――」
「い、痛い痛い痛い!!!体壊れる・・・!!!」
「壊れねェよ。そんなにヤワじゃねェだろ、じっとしてろ」
「ひっ・・・!!!し、にがみ・・・・っ」
ガンツの手に縋りつき、王が助けを求めるような眼を訴えてくる。
そんな眼で見られても、できることといえば強引に苦痛と快楽に落とす以外できることがない。
「ン。大丈夫だからな、あんまり締め付けられるとオレもきついンだよ・・・」
掴まれた手を握り返してやる。
なんだか間抜けな図だが王が落ち着くと言うのなら仕方がない。
本当は早く突き上げて揺さぶって、快感を得たいのだが。
「あ・・・!・・・く・・・は、ぁ・・・あ・・・」
「そのままゆっくり呼吸しろ・・・そうだ」
彼の呼吸に合わせながら少しずつ揺する。
「んっ…ふ、ぁ…くぅ、ん……」
次第に王の方が動きに合わせて呼吸をし出す。
そろそろ、大丈夫だろう。
なんだかんだ言っても、王のものは未だはしたなく濡れている。
「はァ…少し奥まで突くぜ」
ズンと奥まで飲みこませれば一際高い声が王の喉から迸った。
「ひゃあぁぁ!!?・・・あ、変な声が、出て・・・っ!!」
「出してろ。じゃないと痛く感じるかもしれねェぜ?」
慌てて口を塞いでももう遅い。
それは既に快感を味わってしまった証拠だ。
意を得たと言わんばかりにグイグイと腰を揺さぶってやる。
「んくっ・・・や、は、恥ずかし・・・あぁぁっ!!」
「オレしか聞いてないからいいだろ。口塞ぐなよ」
「きみに・・・ん、聞かれてるっていうの・・・が・・・っふやぁ・・・」
「ン?オレの事が知りたいんだろ、オレはこういう時の声は嫌いじゃないぜ?」
大分前の事を持ち出せば、しぶしぶ口から手が離れた。
代わりに顔が余所へと向いてしまう。
つぅ、と汗の玉が頬の下へと涙のように伝わる。
「…そういうの……屁理屈って言うんだ…」
「じゃあ素直に言ってやる。声――もっと聞かせろよ」
「あ、あぁぁぁっ!!!や、あ、あ…は、にゃ…っ!!!」
身体ごと上に押し上げるように強く貫いた。
濡れて繋がる個所がヒクつきながら、押し出される粘着質な水を吐き出す。
その様に狭く締めつけてくる内を、もっと濡らし満たしたい欲求に駆られる。
逃げようとする王の身体を引き寄せ、尚強く奥を擦り上げた。
「ッ・・・内・・・出してもいいよな?」
「い、いい・・・から!だからな、まえ・・名前、呼んで・・・カ、ナ・・ッて・・・!!」
ぽろぽろと零れる涙が彼も限界なのだと伝えた。
互いの息が上がり、揺さ振りが大きくなる。
繋いだ手がさらに身体の中心に近寄り身体を掻き抱く。
哀しみの王に至ってはもはやしがみ付くと言った方が正しい。
互いの身体がドクンと大きく鼓動する。
「!・・・ッカナ・・・!!」
「っ!!!!」
深く深く奥を濡らすように蜜液を吐き出した。
その感覚に包まれながら、王も背を仰け反らせて腹に蜜液の花を咲かせる。
「ア、あ・・・ん・・・」
余韻が引くのか虚ろは瞳はしばらく身体と共に震え続けた。
カナ、と呼んで抱き締めればゆるゆると腕の力を抜かれる。
ほぅ、と何とも言えない色っぽい吐息が王の唇から零れた。
「苦しくないか?」
「・・・へい、き・・・」
「そうか」
顔のあちらこちらに口付けを落とす。
クロノアほどではないが、彼がひどく可愛いものに見える。
素直に身体を預けているせいだけではない。
妙に満たされた気分だ。
「どうだ?少しはオレのことが分かったか?」
「・・・とりあえず、いじわる言うっていうのは、良く分かった・・・かな」
「いじめて欲しそうな顔してたからだ」
「クロノアにもそういう事いうの・・・?」
げんなりした、いつもの可愛くない顔。
だが今はそれを見ても顔が緩む事にしか過ぎない。
「さァな。技巧じゃ酷いことはしてねェつもりだがな」
若干嘘ではあるが、最後まで愛でているのだから勘弁してもらいたい。
ガンツは鼻先を寄せて、大げさな程淫らな声を上げていた唇に接吻を施した。
「・・・オレはテメェについて少しは分かったことがあるがな」
「・・・え?」
「・・・秘密にしとくけどな」
案外可愛いのだと、教えるつもりは毛頭ない。
言った所で、栓無い事だ。
「・・・性格悪いって、よく言われるでしょ」
「否定はしねェな」
「・・・はぁ、まぁいいよ。ボクも色々分かった気がするし」
「もっと知りたくなったらまた、来いよ」
「どうだろう。案外きみの方が都合が悪いかもしれないよ」
「・・・テメェ相手じゃ浮気の勘定には入らねェと思ったが」
クロノアの心の一部というのなら、浮気ではないだろう。
もっとも、そうでなかったら抱く気などなかったが。
王が腕からすり抜け、ふわふわとベッドの方に飛んでいった。
身体は濡れたままだというのに金の首巻きや諸々で身を整えていく。
「言わなかったんだけどさ、この体はクロノアのものだから・・・目が覚めた時に痕とか痛みとか全部残ってるんだよ」
「・・・先に言えよな!?」
それはマズイ。
非常にマズイ。
思わず頭を抱えてしまう。
「『寝てる間にしました』なんて言ってみなよ。クロノア、怒ったら本当に怖いんだから」
クスクスと笑う王が小憎たらしい。
あえて言わなかった辺り、確信犯だろう。
「・・・テメェも大概性格悪いぜ。ったく・・・」
起き上がり、ガンツも手早く身を整えた。
外はまだ月光で満ちている。
王の影が濃く自分に伸びていた。
顔を上げれば、ひと頭高い所に彼が浮かんでいる。
「いじわるされた仕返しだよ。クロノアが起きる前に教えてあげただけいいと思ってよね」
「・・・その頃テメェは慌ててるオレをクロノアの中で見てるってわけか」
「そうだね。たまにはきみも大慌てしてみればいいんだ」
偉そうな表情がガンツを見下す。
深紅の瞳はざまあみろと言わんばかりの視線を醸し出していた。
「・・・テメェ・・・じゃあ開き直ってもう一回するか?」
気に入らないその視線を避けるため、宙に舞う王の身体を引き寄せる。
ボールのようにすぽんと胸に収まった彼はやだよ、と小さく呟いた。
「もう・・・疲れた」
「・・・ま、流石にこれ以上したらクロノア、怒る所か足腰立たなくなりそうだしな」
「うん、そうだね。それはきみも困るでしょ」
問うように見上げる視線は冷静さしかない。
もう一回したって構わないが、王が本気で抵抗しそうで大人しく止める事にする。
「今日はお開きだな」
「・・・右下ストレート」
ぱっと身体を解放してやれば、何かをそっと呟かれた。
「ン?」
「クロノアの癖だよ。怒るとそうやって鳩尾に一発入れるんだ」
「手が小さいせェからクリーンヒットしそうだな」
苦笑混じりに自分の鳩尾を撫でる。
「くるって分かってればきみならかわせるでしょ。後はせいぜい頑張って」
王が剣闘士でも見送るように、三日月の唇で笑った。
それが無性に―――無性に、喰らってしまいたくなる。
「オイ」
「な―――」
何、という前に顎を掬って口付けた。
行為の間でもしなかったような、濃厚な口付けを交わす。
噛みついて舌を吸ってより奥まで絡めて呼吸を奪う。
ただ、接吻だけの無体を働いた。
「んっ!・・・な、何、いきなり・・・」
「情報提供の礼だ。カナ」
銀糸を引きながらぴょんと耳を跳ねさせる。
カナ、と呼ばれるのに慣れてないせいか。
ほんのりと頬が赤く染まっているのを分かった上でわざと覗きこんだ。
「ン?どうした?」
「な、何でもないよ!僕はもう戻るから!」
「お?おぅ。じゃあまたな」
熟れていく頬の笑いを堪えつつ、あっさりと別れを告げる。
王の口が何か言いたげにもごもごと動き、はっきりしない声で呟いた。
「・・・名前。怒られてもいいなら、呼んでよ。気が向いたら・・・出てきてあげる」
「カナの小言が聞きたくなったら呼んでみるぜ」
「そう。ばいばい・・・・・・ガンツ」
「!」
してやられた。
最後の最後であの三日月の笑みを浮かべられた、おまけに名前まで。
性格が悪いのは本当にお互い様だと思いながら、元に戻ったクロノアの身体を抱える。
「ん・・・まにゃ・・・」
幸せそうなクロノアに、やや後ろめたい気持ちが生まれた。
不可抗力だし、彼はクロノアの心の一部。
決して不貞を働き裏切っているわけではないのだけれど。
はぁ、と海に沈むような溜息を吐いてクロノアをベッドへ横たわらせた。
「さァて後始末と・・・誤魔化せねェ分は起き抜けに襲っちまおうかねェ・・・」
山積みの問題に対し、物騒なことを言えばクロノアから言葉にならない声が上がる。
「まだ寝てろよ、流石に今起きられたらヤベェからな」
優しくクロノアの頭を撫でながら、どうしようもなく呟いた。
『今起きられたら現行犯だからね』
空耳のような声にビクっと撫でる手の動きを止める。
「テメェ・・・」
王の笑い声まで聞こえてきそうで、ガンツは早々にクロノアから離れた。
向こうの方が絶対に性格が悪いと心の中で毒づく。
行く場なく、窓から差し込む月光を横切り椅子へとのろのろ歩いた。
椅子に掛けておいたタオルはまだ湿っている。
「あー・・・畜生・・・」
どさりと倒れこむように椅子に腰かければ、月光がひどく凍てついているのに気づいた。
自分とベッドの上で眠る彼の間に、監視するように差し込んでいる。
自分の世界へと射し込む冷たいその月光は、三日月の笑みをするセンサーライト。
「・・・まるでカナみてェだ」
fin.
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