+インソムニア+



ブリーガルという村でヒーロー気取りの子どもを連れ出してから数日。
オレとそいつは海へ向けて旅をしていた。
所々で幻獣を狩り、日銭の賞金を稼ぐ。
子どもがいたところで何ら変わりのない生活だった。
せいぜい、ほんの少し狩りが楽になった程度だった。

街道沿いのため、街の外でもぽつんとした宿が点々とある。
ただ街中の宿とは違い、いうなれば大人向けの宿もよく立っているのだ。
大体そう言う所には人目に付きたくないカップル、もしくは相手を漁りに来る者が集う。

「ガンツ、今日はこの辺の宿にするの?」

一番星を見上げ、その後に周りを見回しながらクロノアが問う。
旅の進度も宿もほとんどオレが決めていた。

「そうだな、これ以上だと日が沈んじまう」

快楽街ではないがそれとなく風俗だとわかる店の間を通る。
店の服なのだろうか、妙に肌を露出した女が目に着いた。
そして見なかったことにする。
だが閉じることのできない耳はその甘苦い声を聞いていた。

「あらァっお兄さん、イイ男ねぇ!どぅ?チョイの間でクッション、800にしとくわよぉ?」

確実にオレを指していた。
女特有の花に誘うような手招きと声と香り。
『これ』だから女は嫌いだ。

「子ども連れだ、他を当たれ」
「え・・・わっ!」

クロノアの手を引いて早足にその場を去る。
通りを抜ければ、もう女共の声は聞こえなかった。






落ち着いたのはあれから大分先だった。
2階建ての普通の宿の一室を借り、一息つく。

「クロノア、とっとと寝るぞ」

上着を壁に掛け、銃を枕元に添える。
睡眠薬代わりの銃。

「あのさガンツ」
「なんだ?」

ベッドに寝転がりながらぶっきらぼうに言い放つ。
クロノアは気にした風もなく隣のベッドに腰かけた。

「クッション800って何?」
「ああ?」

意味がよくわからず抜けた声が出る。

「あの女の人が言ってたじゃん。チョイの間で何とかかんとか」

首を傾げて尋ねるクロノアに、オレは眉を顰めた。

「知らねェのか?」
「し、知らないから訪ねてるんだよっ」
「・・・大人になりゃ分かる」

そのままシーツを被って目を閉じる。
すぐに抗議の声が飛んできたが無視して眠りの世界に落ちた。






朝が来る少し前の時刻だろうか。
空気はまだ夜のじっとりさを持っていて重い。
その中でうなされるような声が響いた。
できればやり過ごしたかったが苛つくようなその声にとうとう根負けする。
むくりと上半身を上げて周囲を見れば、その発信源はクロノアだった。

「クロノア、オイ?」

うるさくて目が覚めるはずだとライトを点けて彼のベッドに近寄った。
眠っているにしてはやや荒い呼吸。
びっしょりと汗をかいて髪を額に張り付けた赤い顔。
うわ言にしては断片的で途切れ途切れな寝言。
良くない夢でも見ているのかと、もうひとつ溜息を吐く。

「起きろよ、ちび!」

シーツからはみ出ていた黒白のしっぽを強く握った。
その瞬間、思いもかけない声がクロノアの細い喉から飛び出る。

「ひゃぁんッ!」

小犬の鳴き声に近いようなそれに一瞬戸惑う。
ぱっと力を抜いてしっぽがシーツに落ちると同時にクロノアが目を覚ました。

「うう・・・」
「起きやがったか」
「ガンツ・・・?」

ぼんやりとした瞳が見上げてくる。

「うーうーうるせェんだよ」
「ごめん・・・ちょっと夢見てて」
「夢ェ?ったく・・・風邪ひかねェ内に着替えとけよ」
「う、うん・・・」

返事はするものの、クロノアはベッドから動こうとしない。

「まだ寝ボケてやがンのか?さっさと着替えろよ」
「その、ガンツ・・・ちょっとこっち見ないで・・・」
「はァ?」

このガキは一体何をしどろもどろしているというのだろう。
中途半端な時間に起こされた苛立ちが返ってくる。

「さっさとしろ!」
「わぁっ!?」

シーツをひん剥くとクロノアがさっと下腹部を両腕で庇った。
様子がおかしい。

「なんだ、おねしょでもしたのかよ」

からかい交じりに告げれば返ってくるだろうと思っていた抗議の声は、なかった。
代わりに強く唇を引き締め、瞳に水を溜めるクロノアの顔があった。

「わ、わかんない。股間がぐしょってして・・・気持ち悪い」

震えた声で告げる。
羞恥もあってか幼い顔はひどく赤かった。
オレはクロノアから目を逸らして暫し考えた後、思い当ることを尋ねた。

「オマエ、最近女を抱いたことはあるか?」
「え・・・?何、抱っこ?」
「バカ。性行為したかって訊いてんだよ」
「そ、そんなのないよ!そんなの一回もしたことないっ!」

真っ赤になって反対するところを見ると、おそらくこの推測は当たっている。
寝る前にあんな場所を通ってきたのだ。
自覚は無くとも少なからず刺激してしまったのかもしれない。
オレはクロノアに近づくと何も言わないまま問答無用で服を剥ぎ取る。
ふぎゃー!という声が宿に響いた。

「うるせェな・・・」

クロノアの顔面に枕を押し付け悲鳴を塞ぐ。
視線をずらしてその下腹部を見れば白い液体が下着と肌を汚していた。

「な、何、するんだよっ!?」

枕を押しのけたクロノアが泣きそうな顔で怒鳴ってくる。
がっと頭を掴み混乱したガキを押さえつけた。

「こうなったの初めてか?」
「えっ・・・う、うん。これ、何?今までこんなのなかった・・・」

茫然としながら汚れた下腹部を見る。

「オマエ、あの村にいたときは自慰してたんだろ?」
「じっ・・・うん・・まぁ・・・お風呂場とかで・・・でも眠った時に出たことなかった・・・」
「通ってきた道が悪かったな、あのテの女の香水には男を興奮させるものが混じってる時があンだよ」
「ボク・・・お風呂場行ってくる、まだ身体熱いし・・・」

はぁ、と熱気の篭った息が赤い舌を覗かせて唇から零れる。
備え付けのティッシュで白濁を拭う様に、ぐらりと自分の視界が揺れる気がした。




細い腕がオレの足の間に伸びる。
オレの呼吸は弾んでいる。
真っ赤な唇が動いて、耳に響く。
女の笑い声、声、声、声、声、声。



『楽しんだようね、ボウヤ』



やめろ、もうたくさんだ。声にできない。言葉が出ない。
真っ赤なティッシュでオレの腹に飛び散った白濁を拭われた。




「ガンツっ!?」

はっと意識を取り戻す。
気付けばクロノアを手首を捕まえてベッドに縫い付けていた。
クロノアの手の中には、白濁に汚れたものがある。

「どうしたのさ・・・・ちょっと・・・」

目を丸くしながらもクロノアが身じろぐ。
反対にこちらの力は強まるばかりだった。
駄目だ、言うな。クロノア、言うな。頼むから言わないでくれ。
オレの『あの時』の言葉を。
・・・制止の言葉は発することができず、クロノアの口からそれが零れてしまった。

「は、放してよ!」




――ああ、吐き気がする。


『放してくれ』


―――女がオレを押さえつけて、言葉を奪って。
―――ごぉんと頭をカチ割るような痛みが走った。




「んんっ!?」

ぴちゃ、と音を立てながら小さな咥内を犯す。
歯列を割ることなど容易い。
息を呑むような音をさせながらより深く噛み付いて、柔らかな舌を引き千切るように吸った。

「ふぅ・・・ん、っぁ・・・っはぁっ!」

どうにか逃げ出したクロノアはひどく怖がるような眼でこちらを見る。
無理もないことだった。

「な、にっ・・何するんだよっ・・・!!」
「・・・教えてやるよ、クッションで800っていうことの意味をな」

手はクロノアの腕を押さえているため、舌で薄い胸に刺激を与える。
濡れたものが這いずる感覚が気持ち悪いのか、くぐもった声を発していた。

「う、う」
「まずクッションっつーのは、ベッド代わりのことだ」
「あ、ふ・・・」

腕の抵抗が弱まってきたのを見計らって、右手を放してそのまま右胸の突起を弄る。
木の実のようにプツンと膨れたそれをすり潰すようにしてやれば嫌、という悲鳴が上がった。

「こうやって、大きなクッションの上で今してることをする」

ぎゅっと胸の突起を摘み上げ、反対側を舌で転がす。
ぶるぶるとクロノアの小さな身体の震えが伝わってきた。

「800っていうのは金額だ。そいつの性交渉の値段ってわけだ」
「あ、やっ・・・ガンツ、もう、いいっ!」
「テメェはいくらだろうなァ」

クロノアの意見に耳を貸すことはしない。
胸の突起の周り、白く柔らかい肉に大きく歯を立てる。
このまま食われるとでも思ったのだろうか、助けてと小さく悲鳴を上げた。

「なんだァ?恐いのかよ」
「こ、こわ・・恐い、よ・・・ガンツ、どうしちゃったの・・・?」

まるで何もわかっちゃいない子どもの顔だった。
大きく見開いた瞳からは溢れそうなぐらい涙が溜まっている。

「恐いこたァねェぜ?その辺の女にだってできることだ」
「ボ、ボクは・・・こんな、こと・・・・」
「気持ちよくしてやるだけだ」

他人と身体を重ねれば大人になるわけではない。
そんな簡単なもので大人になんかなれない。
だが情報量が少ない子どもにはこの行為は刺激が強すぎるのだろう。
もうどれだけ泣かれても止める気など更々なかった。
弱く反応しているクロノアのものに指を這わす。
握りこんで手早く擦り上げれば、やわらかい肉の棒は次第に熱の芯を宿し始めた。

「ひっ・・いやっ・・やめて、いやだ、あ、あぁ・・っ!」

身体をずらして口で愛撫してやる。
すぐにとろとろとした先走りを零して、手を止めようとすれば嫌と言いながらも物足りなさそうな声が降ってきた。

「どうだ、良いンだろ」
「やだぁ・・・恐ぃっ・・・クラクラす・・るぅ・・・っ!」

まだこれだけなのに随分と呼吸が乱れている。
喉の奥で笑い、クロノアのものを奥まで銜えこんで口と舌だけで追い詰めた。
根元まで銜えて唇を濡れたそれにぴたりと合わせる。
舌は先端から裏筋を擦るように少し突き出して、あとは頭を動かすだけだった。

「んっ・・あふっ・・・くぅ・・・はぁんっ・・・!」

クロノアは気づいていないだろうが次第に自ら細い腰を持ち上げて揺らしている。
じゅる、と強く吸い上げればクロノアはあっけなく蜜液を零した。
咥内を満たすそれを舌から垂らすようにクロノアのものの上に吐き出す。
びちゃびちゃと一段と酷い音が立った。

「はぁっ・・・は・・ガ、ガンツ・・・もうやめて・・・」
「自分から腰振っときながら何言ってやがる」

左手の親指を小さな口に捩じ込んで逃げようとする舌を押さえつける。

「ふぅ・・・っう、ぇ・・・あ、あ・・・」

飲み込みきれない唾液が唇の端からゆっくりと顎から首に伝っていく。
ぼんやりとした瞳は何を映しているのかわからず、呼吸もヒューヒューと抜けるような音を立てるばかりだった。

「まだ刺激が足りねェようだな」
「もっ・・もぅ・・む・・り・・だよぅ・・・っく・・・ひっ・・ぅ・・・」

泣きじゃくりだしたクロノアから指を抜いて代わりに口付ける。
塩辛い味の混ざった口付けだったが、クロノアは余計な抵抗はしなかった。
かといって受け入れているわけではない。
唇の周りを汚すほど激しく口付け、泣き声ごと呑んでやる。

「ガンツ・・・」

呟くような艶めいた声だった。
零れていたクロノアの蜜液を唾液の絡んだ指で掬って、他人に暴かれたことのない秘所に持っていく。
ぬるりとした指でも抵抗があるのか、少し進ませる度に皮の引きつりが指の腹で感じられる。

「い、痛・・・ぁ、あ・・・苦し、苦しいよ・・・っ!」

首を左右に振って大きく息を吐き出すクロノアを見ながら尚指を進ませた。
一度引き抜けばまた辛くなるのを知っている。
まだ一度に入れてしまった方が楽なのだ。
ぬるつく内で、掠めるようにコイン大のこりに触れた。
ぐり、とその場所で指を捻れば途端に今まで聞けなかった嬌声が上がる。

「いっ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっ!!」

ガクガクと誰かに揺さぶられるかのようにクロノアの身体が震え出した。
背を仰け反らせ、舌を露出させている。
魚のように跳ねるしっぽを気まぐれで掴めば、クロノアのものが強く反応を返した。

「ひっ、ああぁっ!も、もうダメぇっ・・で、出ちゃ・・っん、ふ、・・っく・・やぁぁアアッ!」

溺れているように手で宙をもがきながら喚き散らす。
その迷う手を繋ぐことなく、秘所に差し入れた指を増やしてドアノブのように何度も回した。

「うぁぁあっ!・・ゆ、許し・・・て・・・アぁッ・・ぁた、ま・・ぐちゃっ・・ぐちゃに・・なるっ!!」

とうとうオレの背にしがみ付いてくる。
ぎゅうと立てられる爪になぜか笑いが込み上げ、ずるりと指を引き抜いた。
ヒクつく秘所に自身のものを当て、待っての言葉すら聞かずに押し進める。
腹を殴られたような悲鳴を叫ばれた。

「アアアぁぁッ!?・・・熱・・熱いっ!・・もっそれ以上・・入らな・・ぃイ・・・やめてっ!!」
「大丈夫だろ、もっと力抜いて足開けよ」

そう言って一気に自分のものを奥まで埋め込んでしまう。
声にならない悲鳴というのはこういうものかと、細い足を肩に掛けさせ、より一層突き上げながら思った。
クロノアは泣きながら口先の抵抗しかできないのに、顔は恍惚を表していた。
涙も唾液も汗も溢れ返ったひどい顔なのに、それを見ていると自分の口角が吊り上がるのが分かる。
肉体的ではない精神的な欲が満たされていく気がした。

「恐がってたくせに結構な淫乱だな、オマエは」

ぐずぐずに溶けだした秘所に何度も強く打ち付ける。
段々と激しくしていけば最初のキツさが吸いつくような締め付けに変わっていく。

「あ、アッ、あっ、あッ、アっ!・・っガ・・ぁ・・ン・・・ツ、・・ガン・・ツ・・・ッひぅ・・あああァァァッ!!」

律動に揺らされるままいつもよりずっと高く切ない声を零す。
ギシリ、とベッドが一際大きく軋み声を上げて、後は食い散らしたい欲だけが部屋に響いた。






父親と共にいた頃だ。
同じように歓楽街を通った。
こういう場所に立ち寄った時、自分が寝た後に父親とジャンガがどこかに行くのを知っていた。
それが知りたくてこっそりついて行ったことがある。
今となれば、後悔しか残らない行為だった。

初めて視るもの。
酒とたばこと香水の匂い。
それと同じく生々しい匂い、水音、息、声、欲情。
重なり合って揺れ動く大人の裸体。
耳に衝く女の声、声、声、声、声、声。



『ボウヤ、遊んであげましょうか』



助けてすら言葉にならない。
気がついたら元の宿で自分は眠っていた。
でも夢ではなかったことが身体中、赤い跡として刻みつけられている。
何よりあの柔らかい脂肪に触れた感触が手に残っていた。
それからだ、女が嫌いになったのは。






「ん・・・」
「目ぇ覚めたか」
「ガンツ・・・ボク・・・っ痛ぁっ!!」

腰に割れるような痛みを感じたらしい、クロノアが起き上がりかけた身体をそろぉっとベッドに落としていく。
時はすでに昼を回っており、出歩くにはちょうどいい天気だった。

「オラ、水飲め」
「うん・・・」

コップに視線を落とし、クロノアが押し黙る。
オレは黙っていても仕方がないと、自ら口を開いた。

「悪かったな・・・無理やりして・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

クロノアは何も言わない。
ただ大きな瞳を俯かせただけだった。

「・・・オマエがもうオレといるのが嫌なら村に帰れ」
「嫌だよ」

即答だった。

「は?オレに襲われたんだぜテメェは」
「そ、そうだけど・・・帰らない、ついて行く!」
「・・・勝手にしろ」

好きとも嫌いとも言われなかった。
あの女もオレにそんなことは言わなかった。

「ガンツ」
「・・・なんだよ」

部屋を出ていこうとするオレにクロノアが声をかける。

「お腹空いた、ハンバーグ買ってきてよ」
「あァ?」
「ボク部屋から動けないんだし、いいでしょ?」

じとっとした目で睨まれる。
仕方なく頷くと、いつものヒマワリのような笑顔を見せた。
調子が、狂う。
オレはアイツを襲ったワルモノなのに、なんで笑ってやがるンだ。

「・・・ボクのこと、嫌いにならないで・・・」

扉を閉める瞬間かすかに届いた声。
振り返ろうにも足は廊下に踏み込んでいたし、クロノアの姿も見えなかった。
バタンと閉じた途端に鍵の落ちる音がする。
そのままずるずると扉の向こうで何かが崩れ落ちる音。
きっとクロノアが身体を叱咤して鍵を掛け、そのままそこに座りこんだのだろう。
身体が痛いくせに。

「ハンバーグ・・・だったか」

どうやらこの扉を開ける鍵はハンバーグになったらしい。
コン、と扉の内側から相槌代わりの音が返ってきた。
オレはひとつ溜息を吐くと階段へと足を向ける。
クロノアに引っかかれた背中が、心なしか痛んだ気がした。





















                                      fin.




















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