+アメノチ・デヴィエーション+
昨日未明、クロノアが連れ攫われた。
「クソッ!!どこ行った・・・!?」
ガンツは雨の中を一日中走り回ったが見つけることは出来なかった。
今は軒先で水をたっぷり含んだ前髪を搔き揚げて、暫しの休息を取っている。
「クロノア・・・」
迷子ではない。
ボルグは何度も来た街であり、はぐれてもすぐ帰れる宿を取った。
少し買い物をして来ると言って昼過ぎに出て行ってからすでに20時間は経っている。
今更ガンツからクロノアが離れるはずがない。
今更、そう、今更なのである。
「畜生ッ!!」
濡れたアスファルトを蹴って走り出す。
その姿は番いを失った獣に似ていた。
「ンン・・・」
目が開けられない。
目が開いた感じがしてもまだ真っ暗だ。
ここ、どこだろう。
ボク、何してるんだっけ・・・。
「オイ、気づいたみたいだぞ」
誰。
ガンツ・・・じゃない。
知らない人。知らない男の人の声だ。
「薬嗅がせすぎだ。やっと目ぇ覚ましたのかよ」
随分荒っぽい口調。
――くす、り・・・。
そうだ。
ボク、呼び止められて。
ガンツの連れって頷いたらハンカチを当てられて。
帰らないと。
ガンツが待ってる。
おかしい。
身体がうまく動かない。
「ま、いいや。オイ、テープ回せよ」
「このガキも馬鹿だよなぁ、死神なんぞとつるむから」
ノイズの音が聞こえる。
べたりと頬を触られて、鳥肌が立った。
「や、め・・・」
この人達、何。
何するの。
ノイズの音に混じって、マイクを使った時みたいに声が響く。
何、してるの。
ボクの服が乱暴に引き裂かれる。
「音拾ってるか?」
「ああ、問題ねぇ」
音。拾う。
ノイズに混ざって今度は映画の始まる前みたいな音がする。
見えない。
どうなってるの。
「よく映ってるな、安物だがいけるか」
「編集したら死神に送りつけねぇとな」
ガンツ。
ガンツに何をするつもりなの。
ボクはどうなるの。
「死神め、凄腕の賞金稼ぎだからって調子に乗るとこうなるんだぜ」
「俺達が釈放されるまでにこんな弱みを作ってるなんてな」
「――ガキ、恨むなら死神を恨むんだな」
いやだやめて
はなしてさわらないできもちわるい
つねらないでかまないで
あたまがぐらぐらする
おなかがくるしい
いきできないやめてぬいてやめてやめてやめて
いたいいたいいたいいたいいたいいたいくるしい
いやだいやだいやだいたいいたいいたいやめやてめてやめていたいいやだいやだやめてやめてやめて!!
たすけて、ガンツ。
ガンツの目の前に広がる最悪の事態。
廃屋でカタカタと鳴るスクリーンに映し出されるのは、乱暴を働かれているクロノア。
聞いたことのない悲鳴と覚えのある嬌声が耳をつんざく。
クロノアを貫いている男達には見覚えがあった。
昔、捕まえて刑務所送りにした賞金首だ。
釈放されて、仕返しにきたんだろう。
奴らが釈放されたと同時に殺しておけばよかった。
クロノアという自分の弱みから目を離すんじゃなかった。
そう思いながら銃の引き金を引いた。
血の海の中で、赤だか白だかに濡れ染まったクロノアを抱きかかえる。
「オレのせいだ・・・」
ちゃんと、殺しておけば。
刑務所から出た時に殺しておけば。
クロノアをこんな目に遭わすことはなかった。
他の賞金首達もそうだろうか。
クロノアが弱みと知っていれば狙ってくるだろう。
そうなる前に。
「ちゃんと殺してこねぇと・・・」
今までに捕まえた何百もの賞金首共を。
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