+ムーン+
気が付いた瞬間、開いたはずの目の前は真っ暗だった。
お腹がひどく重たい上に息苦しい。
腕が縛られているようにうまく動かない。
これはどうしたことだろう。
「ここで変わるとかねェだろ・・・」
呆れたような、残念ぶる声が降ってきた。
「死、に、がみ・・・?」
「久し振りだな、カナ」
「これ・・・どういう状況」
目隠しされて身動きが取れない。
この状況を作ったのがこの男なのは、恐らく確かだ。
「クロノアがよぉ、ちィとオイタするからこうしたんだがな。まさかお前に変わるとはよ」
「何・・・?ふざけてないで、早く目隠し、外してよ」
呼吸する事にお腹が苦しい。
息が詰まる感じが酷くなる。
「解いた途端クロノアに戻られても意味なくなっちまうからなァ」
「僕を、責めたって意味ないでしょ・・・」
「それもそうだな」
するりとガンツの手が汗ばんだ自分の額を撫でる。
そのまま目隠しを外すのかと思えば、ぞっとするような声で呟いた。
「今、すげェ機嫌が悪ィんだよな、オレ」
「そんな事、知らな・・・っひぁぁッ!?」
秘所から羽虫のような音が響く。
腹の苦しさはこれのせいだったかと身を捩った。
「あ、ぁあ!や、やめっ・・・止めて、ふぁッ・・止めて!」
無遠慮に蠢くバイブが水音を伴って腹を穿つ。
ガンツは止める事無く自分の頭を撫で続けた。
その優しい手付きが却って気持ち悪い。
「お前、腹ン中に何入ってるか分かってるか?」
「くだらない、玩具・・・でしょ・・・んんっ!とめ、止めろ、ッて、ば・・・!!」
「それの前にな、何回か分のオレのが入ってるぜ」
「何回か分・・?・・・え、な、っあ、い、いやぁッ!!」
理解した瞬間、一気に吐き気がこみ上げた。
この男、犯した後に、栓としてバイブを埋め込ませている――。
「外道っ・・!!」
「気持ち良くしただけじゃ仕置きにならねェだろ?」
ガンツが僕の体を抱き抱える。
不用意に上半身を起こされたせいで腹が伸ばされ悲鳴を上げた。
「ふぁ・・・くぅ・・・っ放し、て、苦しっ・・・!」
布の擦れる音が耳元で聞こえて視界が開ける。程無くして腕も自由になった。
ぼんやりした視界ですら、己の下腹部はひどい有様だった。
乾いて太ももに張り付いた白濁の跡。
手首にしっかりと残る赤い紐状の跡と痛み。
「死神・・・ここ・・・お風呂場は・・・」
「共同のが、廊下の一番端にある。トイレもそこだ」
「なっ・・・!?」
設備も整っていないのに事に及んだのか。
あまりにも腹が立って、半分痺れの残る手で精一杯ガンツの手に爪を立てた。
「ッ・・・!」
「馬鹿・・・、はァ・・共同でもいいから早く連れてってよ・・・」
「・・・自分で行けよ」
「そんなの・・無理・・・っうぅ・・・ッ!」
動き続けるバイブを銜えたまま歩けそうにない。
焦らす程度の振動だが、動けば敏感な所を容赦なく擦り上げてくるのだ。
かといっていつものように宙に浮けるかといえば、苦しくてそれもできそうにない。
こんなに苦しい思いをしているのに、そうさせた張本人はあっさりと僕を手放した。
「ホラ、扉ぐらいは開けてやる」
小馬鹿にするように扉を開く。
時間は深夜らしく、廊下はぼんやりとしたライトが鈍く光っていた。
「や・・・無・・理・・動けない。死神ッ・・あ、くぅ・・・!」
大体服すら着ていないのだ。
外に出れるわけがない。
見兼ねたガンツがひょいと抱え上げてきた。
連れてってくれるのかと一息吐いたが、安堵したのは間違いだった。
「え、や、やだ!何するのッ!?」
自分を扉の外に落して鍵を掛けたのだ。
部屋の中から声が聞こえる。
「夜中だからあんまり大きな声で喘ぐなよ、気付かれるぞ」
「し、死神!やだよ、開けて!!」
「――今日は客が満員だそうだからな、見つかる前に早く行けよ」
聞く耳持たずと言った感じだ。
言葉にならない口をはくはくと動かした後、身体を引き摺る様にして廊下の端へと進んだ。
「ふ、うぅ・・・死神め・・後で・・覚えていろ・・っあ、ぁあ・・・!」
一歩進む度に内が擦れて膝が落ちそうになる。
大声を出さぬよう口に手を当てて進むが、時折声が漏れてしまう。
もし今他の部屋から客が出てきてこんな姿を見られたら。
嫌な想像に身体が震えた。
身に何も纏っていない上に、秘所に淫らな機械まで銜えて。
羞恥と屈辱で憤死してしまいそうだ。
「誰も・・・いない・・・はず・・・」
通り過ぎる扉の奥でカタンと音がして体が跳ねる。
つい耳を澄ませてしまう。
扉から他人が出てきた所で隠れる所などない。
「はぁ・・・やだ・・・誰も・・・来ないで、見ないで・・・」
ぶんと頭を振って嫌な想像を消そうとするが小さな物音に反応してしまう。
その度にゾクゾクと身体の奥が震えた。
緊張のせいか自分から玩具を締め付けている事に気付いて、いっそ消えてしまいたい気持ちに駆られる。
窓の外には三日月が見えた。
まるで惨めな自分を嘲笑っている様に見えて哀しくなってくる。
「うう・・・」
よたよたと酔っ払いの様に力なく歩いて、ようやく廊下の端に着いた。
風呂場というより広く浅いタライのような物と水道が付いているだけでランドリーな感じだった。
お湯が出るのかすら怪しいが、とりあえず身を清めようとタイルに足を踏み入れる。
「見つからなくて良かったな」
「!?・・・っ後ろから・・追って・・きてたの・・・」
「本当に素っ裸で倒れられちゃ困るからな」
ガンツはニヤニヤと意地悪く笑い、颯爽と自分の横を通り過ぎる。
この男のする事だ、きっと静かに部屋を出て、自分が耐えながら歩くのを見ていたに違いない。
どこまでも悪趣味だ、と心の中で毒を吐いた。
「来いよ、湯張ったぜ」
湯気を出すタライの前で手招きする。
機嫌が悪いと言ったが凶悪な面ではなく、いっそいつもより穏やかな顔をしていた。
もっともそれはさらに醜悪な本性を剝き出しにしているせいかもしれないが。
警戒しながらタライに手を浸け、熱湯でないことを確認する。
「何怖がってンだよ」
「怖がってなんかない・・・!」
這うようにして中に入り、お湯の温かさに深く息を吐いた時だった。
また甘い声でガンツは背筋の凍るような言葉を囁いた。
「自分で処理できるよなァ?」
「ちょっ・・ここで放置する気・・!?」
「・・・手伝って欲しいか?」
クイと自分の顎を指先で持ち上げ、色気のある湿った吐息を吐く唇に親指を掛ける。
その指を余程噛み切ってやろうかと思ったがそこまでする元気はない。
何より吐き気も、腹の圧迫感ももう限界だった。
「もう・・いい。自分でする」
「そうか」
ガンツが目を細めて己の手元を見る。
つられて僕が彼の手を見れば、その中に小さなリモコンがあった。
カチ、と軽い音が鳴った瞬間、僕は身を反らした。
「ひっ・・う、ぁああッ!やっ、お湯、入ってッ・・・はっ・・んんぅっ!!」
玩具は振動が弱めた代わりに、タライに張られたお湯を吸い込んでいた。
飲み込んだ湯の出る先は当然腹の中。
ガンツの蜜液と玩具と僅かに膨らんでいた腹は緩やかに膨らみを増していった。
「う、あ、あ、苦し・・ぃ・・止めて、も、お腹、痛・・・い・・・ッ!」
べったりとした汗が噴き出て獣のような呼吸に変わる。
ぶしゅ、ちゅぶ、と出てるのか入っているのか分からない水の行き来する音が腹から木霊した。
「ホントに、止め・・んあぁぁッ!や・・・だ、零れ・・・て・・・・ひゃう!もう、出した・・いっ!!」
いい加減限界なのだろう、玩具と秘所の肉の隙間からお湯が小さく弾ける。
それを見てガンツはようやくスイッチを切った。
たぷんと鳴る腹が気持ち悪くてタライの外に倒れるように手を突く。
その腕すらガクガクと震えて、まるで玩具の振動が残っている様だった。
「はぁ・・・あ、う・・・抜いて・・ん、くっ・・・もう・・・お願い・・・だからぁ・・・」
じんと赤く熟れた避暑にガンツが指を這わせてそこから覗く玩具に触れる。
ゆっくり、ぬるぬると尾を引くような抜き方に背筋がぶるりと震えた。
「ァ、ん、・・・ッふぁ、・・・あああァァッ!!」
ぬぽんと間抜けな音を立てて白濁交じりのお湯が秘所から溢れ出る。
緩んだそこはひくりと小さく蠢いただけで尚更弛緩した。
濁流のような音も恥ずかしくて堪らないが、それよりも。
「触ってもねェのにいっちまったか」
嘲笑う声に肩が揺れる。
秘所から液体を漏らすと同時に、触れてもいない自分のものが蜜液を吐いていた。
淫乱と言外に言われたようで、目頭と頬が熱くなる。
「うっ・・・く・・・最悪・・・見る、な・・・ひぅっ・・・ふ、うぅ・・・」
「泣くなよ」
「うるさい・・・誰の、せいだと・・・」
鼻を啜って涙交じりに反論する。
みっともない。
顔を俯いたままにしていれば、頭上からジッパーの開く音がした。
見上げればズボンの前を寛げたガンツがいた。
さぁっと自分から血が引くのが分かった。
「え?・・やだ、何・・・」
「仕置きはまだ終わったわけじゃねェぜ?」
「や、やだ!僕は関係ない――!!」
「・・・今お前がオレに抱かれねェならクロノアにもっとキツイ折檻するぜ」
「な――」
今で充分苦しいのに、これ以上――。
そんな事、クロノアは耐えられない。
「わ、分かった・・・」
「今日は物分かりがいいじゃねェか。じゃあ、口でしろよ」
後頭部の髪を掴んで自分のものに引き寄せる。
嫌々伸ばした舌に人肌の熱が触れて思わず頭を後ろに引きかけた。
だがそれを許すはずもなく、小さく開いていた口に強引に割り込んでくる。
「んぐッ!?ん、んっ!うぅ、っんんー!!」
喉の奥を突かれて咽せそうになった。
何度かは咽頭に当たってこふっと肩が跳ね上がる。
口の端から色々と混ざり合った生温かい透明な液体がはしたなく吹き出た。
「う、ん・・・ッふ・・・・う、うぅ・・・」
動かしにくい舌を引っ込めて、喉の奥まで来ないようにしなければ呼吸すらできない。
心臓のように脈打つそれを、ひたすら耐えて口の中を蹂躙させる。
ぐぷぐぷと小さく柔らかい舌に擦りつけた後、ガンツはようやく拘束していた頭を離した。
「ふぁ・・・ぷは・・・っ!」
「ま、こんなモンか・・・」
乱暴に僕の身体を反転させ、タライの中へ突き返す。
汚れたお湯に頭から突っ込んで咽たのもつかの間、腰を持ち上げられ一気に貫かれた。
「――ひ、ぁぁぁああッ!?・・・い、やぁ・・!!」
玩具の何倍も強い刺激に思わず涙が零れる。
内臓まで押し上げてしまいそうな突き上げに呼吸がうまくできない。
口を開けた所で汚れたお湯が埋めようとするので苦しさは変わらない。
「くぅ・・・は、ぁ、あ、あ!・・や・・・いや・・・激し・・・もっと、ゆっくりっ!」
「ああ、腹ン中にまだオレのと湯が残ってるみてェだな、泡立ってやがる」
足を強引に開かされ、ビクンと足の指が突っ張った。
四つん這いで頭を下げ、腰だけガンツに突き出した格好は苦しい。
じゃばじゃばとタライのお湯が今にもひっくり返りそうなぐらい波打つ。
「あっ・・あはっ・・・ああん・・・」
忙しない抽送に吐き出したばかりの自分のものが嫌でも反応する。
奥を突かれる度に切ない声が漏れ、はたはたと涙が零れた。
甘酸っぱい快楽で痺れた秘所が、もはや抵抗所か一層蕩けて彼を喜ばせている。
「こんなにきゅんきゅん締め付けてよ、そんなにバイブが良かったのか?」
「違っ・・・あっ・・ン、はぁっ・・あ、あァ・・・やだ・・駄目ぇ・・・ッ!」
上擦る声も止まらない。
瞼の裏で何度も閃光が走る。
「死神・・っも、いや・・・はぅ・・ぁんッ・・・出る・・・もぅ、やだぁ・・・ッ!」
快楽に呑まれた身体が打ち震えて泣きじゃくった。
嬌声の間に限界だと懇願の声を絞り出す。
ドクリとガンツのものが熱を増して、壊すように僕を抱いた。
「イきてェ?」
「い、イきたっ・・・もう・・はぁ・・ンッ!・・ぁふ・・イき・・たい・・・ッ!!」
全ての感覚が感じすぎてもうおかしくなっていた。
全身が言う事を聞かない。
ただガクガクと揺すって絶頂を待ち望んでいる。
不意に耳を持ち上げられ、ガンツもまた甘く熱っぽい声で嘲る言葉を吐いた。
「カナは裸で歩いて触ってもいねェのに達して、今だってこんなに腰振ってやがる」
「や――言わ、ない・・でっ!だって・・だって・・・ひゃう!・・それは・・ァ・・・ッ!!」
ぶんぶんと強く否定するように頭を振る。
手綱を引くように後ろから羽の様な耳を引っ張られ、嫌でも顔が天を向く。
引っ張られた痛みと突き上げられる快楽に瞳が溶けそうなほど涙が零れた。
その顔を見てガンツは満足気に笑いながら囁いた。
「どうしようもねェ―――大した淫乱だぜ」
同時に叩き込む様に散々弄られた奥を穿たれて、身悶えた。
「あ、あ、あっ・・や、いやぁぁぁあああッ!!」
背筋が仰け反って内を締め上げる。
強い電流で麻痺したように身体が跳ね上がった。
「ハ・・・言葉だけでイっちまうとはな」
そういう彼も達したらしい。
腹に先ほどのような粘着質な気持ち悪さが返ってくる。
「はぁ・・は・・・ァ・・・あ、あぁ・・・死に、がみ・・・クロノア、には・・・」
「・・・手は出さねェ、もう折檻は終いだ」
「そう・・・、・・・覚えて・・・ろ・・・」
ここまでが僕の限界だった。
糸を切る様にして気を失った後、目が覚めた時にはルーナティアだった。
「・・・死神、殺す」
次に向こうの世界に行く時には、絶対に報復してやる。
心にそう誓った。
次に出会ったのはまた暫く時が開いた後だった。
「やぁ、死神。久し振り」
「お前か」
平然としている所を見ると、前にした事など忘れているらしい。
クロノアとも仲直りはあの後したようだし(喧嘩の原因は大分くだらない理由だったが)。
今こそ、あの屈辱と恥辱の復讐の時。
「・・・今・・・夜だね」
見上げれば清々しいほどの星空。
復讐の舞台としては美しすぎるかもしれない。
「ああ。見ての通り野宿だがな」
「ふぅん・・・ねぇ死神」
炎の前に座るガンツに、斜め横からすいと身体を寄せる。
そっと彼の内股に触れて、擦りつく猫のような仕草をした。
「な、何してやがる・・・っ!」
「僕、野宿初めてだし・・・寒い・・・」
「はァ?火の傍にいりゃいいだろ」
「君が良いんだよ・・・」
そっと顔を寄せて強く抱きしめる。
彼の背後で口に薬を含み、内股に回した手は分からないように彼の武器を奪った。
後は顔を戻して彼に口付するだけ。
「ン!?・・・ッんぐ・・・っ!」
「はぁ・・・おいしい?」
「何、飲ませやがった・・・」
口を押さえて苦々しく僕を睨む。
まだ気取られぬように、ぐりと彼のものをズボンの上から刺激した。
「ふふ・・・ここが興奮する薬だよ・・・」
「なっ・・・お前、どうしたンだよ・・・?」
「僕と――遊んでよ、死神・・・いつもみたいに気持ちよくして・・・」
自分でも吐き気がするような誘い文句。
手は動かし続けてじわじわ熱を持ち出すのを感じた。
「ね、立ってよ」
戸惑いながらも彼は立ち上がった。
僕は膝立ちになって彼の腰を掴み―――。
ガシャン。
「は?」
「成功、馬鹿な死神」
彼の股間には鋼鉄でできたパンツのような物が食い込んでいた。
腰回りには丁寧な細工、先程刺激してやった部分には重たそうな錠前が付いている。
アクセサリーと同じ要領で持っていける拷問道具はこれしかないな、と僕は思っていた。
「鋼鉄の貞操帯だよ、ちなみに鍵はここ」
「な、何しやがる、外せ!!」
「前にそういった僕に死神はどうしたんだっけ?」
この時僕は悪の王と言われれば否定できないような表情をしたであろう。
けれど心底良い様だと思った。
「あー・・・前はその、悪かった。やりすぎた」
「素直に謝るんだ、じゃあ、僕を捕まえられたら鍵をあげるよ」
と言いつつふわりと空へ舞い上がる。
捕まえられそうで捕まえられない高さを保ってそこから彼を見下した。
「上等ッ・・・痛ぁぁぁぁあああああ!!!?」
駆け出そうとした瞬間、ガンツは前のめりになって倒れ込んだ。
「あははははは!反応したモノが鋼鉄の帯で締め付けられるんだもん、痛くないはずがないよ」
愉悦。憐憫の視線を彼へと向けた。
本気で涙目になってるガンツに、早く追いかけてきなよと手を叩く。
彼は凶悪な顔をしたまま、足の間を押さえて動けなくなっていた。
ついでに武器がなくなっているのにも気づいたらしい。
「萎える事とか考えても無駄だよ、さっき強ーい媚薬飲ませちゃったしね」
「この、ガキ・・・ッ!!」
「この僕にあんな真似してただで済むと思った死神が馬鹿なんだよ」
唾棄するように言い捨て、フンを空中で足を腕を組んだ。
鍵を指で弾いてはチラチラと彼に晒す。
「そうだなぁ、今後僕を様付けで呼ぶっていうなら外してやらない事もないよ?」
「ふざけんな、ンなのできっか!この性悪!!」
「あ、そう。じゃあ早く僕を捕まえて見せるんだね!!」
かくして始まった鬼ごっこ。
結局根を上げたのはガンツの方だった。
というよりとうとう激痛で泡を吹いて気絶したからだ。
倒れ込み、力なく僕へと伸ばされた手を踏んでクスリと笑う。
「カナ様って呼べば助かったのにね」
独り言を呟いて鍵を一度、宙へと投げる。
その空には丁度月が見えていた。
真ん丸で青白い月はまるでダークムーン。
「いい月夜だったね、ガンツ」
目的を果たした僕は、今夜の夜空のように清々しく笑った。
fin.
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