+特別の日+
特別な人ができた。
特別な人と、特別なことをした。
今日は特別な日。
さぁ、一緒に特別なことをしましょう。
窓の外はまだ青白い。
きっと冷たい風が地面の上に座っていることだろう。
静かに、暖かな太陽に照らされるのを待ちわびながら。
「フォックスさん、おはようございます」
ベッドから起き上がると同時に、リンクが声を掛けた。
「んー・・・っ朝!今何時!?」
「ごめんなさい、まだ夜が明けて少し経ったぐらいです」
ベッドから飛び起きたフォックスに、リンクが可笑しそうに笑う。
フォックスは朝方リンクに起こされるのは主に寝坊した時。
慌てるのも、無理はない。
「おはようリンク・・・寝過ごしたかと思った」
「まだ眠たいでしょう、寝てていいですよ」
起き上がったフォックスの額を軽く押さえて、ベッドに戻す。
パサっと狐色の髪が枕の上に散らばった。
「ん・・・リンクは?」
「私は・・・そうですね・・・」
ここはフォックスの部屋。
夜を共に過ごした時はお互い自室に曙の内に帰る。
色々と問題があるのは仕方ないが、大概相手を起こさないよう出て行ってしまう。
お互いを思いやってのことだが少し淋しい朝でもあるのだ。
「もう少し寝ていたいです」
「じゃあ、もう少し寝ていよう」
フォックスは左腕を横に伸ばしてリンクに訴える。
リンクもそれに応えるように、その上に頭を落とした。
2人の視線が天井に向く。
まだ外からの目覚めの鳥は鳴かない。
「・・・寝ないのか?」
「なんだか目が冴えました」
「俺もだ」
じゃあベッドから出て起きろよ、というツッコミは存在しない。
在るのはもう少しこうしていたいという甘さだけ。
ぼぅ、と白い天井を見ているのに飽きたのか、フォックスはぎゅうとリンクを抱きしめた。
「フォックスさん?」
フォックスの心臓に話しかけるようにリンクが呟く。
フォックスは黙って自らのしなやかな指をリンクの肌の上を渡らせた。
「ふふ・・・くすぐったいですよ」
「・・・嫌?」
「いいえ・・でもちょっと、本当にくすぐったい・・・っ!」
身震いをしてリンクがフォックスを見上げる。
朗らかに笑って、悪戯っ子を見るような蒼の瞳。
ちゅ、とその額に口付けて、フォックスは手を滑らせた。
リンクはされるがままに笑って、静かに目を閉じた。
フォックスの手の動きが自然と眠りを誘うからだ。
優しく撫でられる感触は、自分が動物に触れる時のものに近い。
そう思いながら。
「ん・・・・ぅ・・・」
「・・・いい、なぁ・・・」
か細い声で、フォックスが呟いた。
何が『いい』のか、眠りの世界に落ちかけたリンクには分からない。
「フォックス・・・さん・・・何が・・ですか?」
「いやその・・・リンクはしっかりしてていいなぁって・・・」
「?」
「ごめん、変なこと言ったな。寝てていいぞ」
フォックスに再度優しく背中を撫でられ、リンクはうとうとし出す。
くぁ、と欠伸をした後、フォックスの胸に擦り寄った。
そんなリンクの様子を微笑ましく見ながら、フォックスは心の中で溜め息を吐く。
何がいいかって?それは、身体のことだよ、リンク。
男として2人とも背は高くは無い。
だが、種族の差と言うか、決定的な身体の違いがある。
筋肉はどちらも引き締まっていて、無駄が無い。
リンクは剣士としてついた筋肉が腕なり足なり目に見えて分かる。
だが、フォックスにはそれがない。どちらかというと獣のしなやかさの方が目立つのだ。
背中の反りや、身の傾け方など、柔らかく見えてしまう。
どうも負けて見える時がある。
こんなこと、服を着てしまえば分からない。
些細なことなのだが、だからこそ余計心にひっかかる。
少し、悔しい。
「ま、リンクがどんなになっても俺は大好きだけどなー・・・」
「私もフォックスさんが大好きですよ」
「っ!リンク起きてたのか・・・!」
「今、目が覚めました」
「・・・・・・・・・・・・・・」
フォックスは口と眉を八の字に下げて何ともいえない顔をした。
狙っていたのか、天然なのか。
この恐ろしいほど愛しい、特別な人は。
結局恥ずかしさより愛しさが勝ってフォックスは先程より強くリンクを抱きしめた。
そして堰を切ったかのように愛の告白を繰り返す。
「リンク、好きだ、すごく好き」
「私もフォックスさんのことがすごく好きです。あいらう゛ゆぅです」
「I
love
you、な。俺も愛してる」
リンクは英語の発音は少し苦手だが、返ってそれが可愛らしい。
フォックスが何度も額に唇を落とすので、リンクも負けじとフォックスをくすぐった。
途端に落ちてくるのは唇から笑い声に変わる。
「ちょっ・・・くすぐった・・っ・・・リンクっ・・・!」
「フォックスさんばかりしてるからですよ」
夜の愛撫より、実際こうやってくすぐる方がお互いまだ慣れている。
相手を気持ちよくさせるより、笑わせる方が得意なのだ。
リンクは手を止めるとすいっと身体を乗り出してフォックスに口付けた。
離れる唇を追って、今度はフォックスが口付ける。
重ねるだけかと思いきや、思いの他、深く唇を吸われた。
触れ合っては引っ込み合う舌は、次第におずおずと絡み合う。
「ん、んっ・・・・・・・は・・・ぁ・・・・・・」
「ん・・・・ん・・・っ」
1度も顔の角度を変えないまま、唇を離す。
乱れた息は僅かなもの。2、3回大きく呼吸をすればすぐに戻ってしまう。
「お目覚めの接吻にこれは刺激的ですよ」
「どこで覚えてくるのそんな台詞・・・」
へなへなと耳を垂らすフォックスにリンクが微笑んだ。
しばらくシーツの海で泳いでいた2人だが、いい加減良い時間になってきて身体を離す。
「じゃあ、私は部屋に戻りますね」
「ああ。じゃあ、またな」
「はい」
ドアの閉まる音と共にリンクの姿が見えなくなる。
フォックスはベッドから起き上がり、ぐっと背を伸ばした。
次はちゃんと着替えて台所かリビングで『おはよう』を言う。
けどそれは人前での挨拶に過ぎない。
2人だけの挨拶はすでに済ませてしまったから。
お目覚めのキスはもう済ませてしまったから。
外では目覚めの鳥が鳴いていた。
なんと甘美で幸せな朝だこと。
そして、
いつか、こんな朝は来なくなる。
さよならで終わる朝が来る。
だから今は特別な朝。
一緒に特別なことをしましょう。
目覚めのキスをして、『おはよう』と言って。
あなたと一緒に過ごせる、特別な今日に。
fin.
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