+瞼の上に残滓+




もう一週間、リンクはフォックスとロクに顔を合わせていない。



フォックスは連続で仕事が入っているらしく、生活が不規則なっていた。
本人は不安定な職だからなどと言っていたが。
深夜に帰ってきたかと思えば朝早くから出て行ってしまう時もある。
数日帰らないこともざらで、食事も皆と共にできない。
ほんの数時間帰ってはまた出ていくといった具合だ。
たまにファルコが一緒でない時があって、どうしてだと聞いてみてもリーダー一人で片の付く仕事だと返されるだけである。
任務の内容すら、知らせてもらえない寂しさが心に募る。
彼の仕事には危険がつきもので、そう思えば思うほど不安に駆り立てられた。

「フォックスさん・・・」

3日前の朝方、飛び出して行ったフォックスを打ち消すようにシーツを頭から被る。
篭り湿った息を吸いこんでいるはずなのに、喉の奥が刺すように痛い。
きっと今自分は泣きそうな顔をしている、とリンクは顔を掌で押さえつけた。

「会いたい・・・」

フォックスと過ごせた夜は黄金の満月だった。
今窓の外を覗けば随分欠けてしまった白い月がぽっかりと空虚に浮かんでいる。

「・・・ぅ・・・・・・っ」

掌に感じる自らの熱い水滴。
孤独を吐き出すかのように切ない溜息を吐き、温い自分の手を腹を伝って下へと運んでいく。
心が納得しなくても、慰めなくてはならない。
でないとみっともなく泣き出しそうにだからだ。
するすると降りていく手が布を、服を払い除けて奥のものに触れる。

「フォックスさん・・・」

名を呼んだところで彼がいるはずもない。
せめて記憶の中の彼を呼ぼうと、あの掌と声を呼び覚ます。

『リンク』
「ん・・・っ」

ベッドの中で低く、少し掠れた声で名前を呼ばれる。
想像の中のベッドは暖かく、現実の寂しさと冷たさは存在しない。

『もっと?』
「・・・は・・ぁ・・・・っ」

優しく問いかけられながその手は意地悪をする。
分かっているのにゆっくり触れて指先でなぞるようにそれに触れる。
リンクも同じように熱を持ち始めた自分のものに指を這わした。
ぞく、と身体が震える。
彼の手ではないのに。

「あ・・・フォックスさ・・・」
「リンク、まだ起きてる?」

ぴた、とリンクの手が止まる。
コンコンとノックの音、続いて再度彼の声。
金縛りにあった身体を無理やり動かすように、リンクは服から手を抜いて強くシーツを握った。

「お、起きてます!」
「今部屋に入っていい?」
「あ・・・はい」

一瞬迷ったが結局は頷いてしまう。
こんな状態、もしシーツの下の自分を見られてしまったらそれこそ恥ずかしくて死にそうなのに。
会いたいという欲望には代えられない。

「お邪魔します・・・」
「お疲れ様ですフォックスさん」

静かに扉を開いたフォックスにリンクは顔を向ける。
なるべく平静にしていればわからない、はず。

「あ、ごめん、もう寝るところだった?」
「え、ええ。大丈夫ですよ、まだ寝入る前ですから」
「そうか・・・もしかして風邪ひいてるのか?顔が赤い・・・」
「大丈夫です!その・・・シーツで温まっているからですよ!」

苦しい言い訳だと自分でも思う。
フォックスもやや首を傾げながらリンクの寝ているベッドの傍に寄った。

「やっと仕事がひと段落したから帰ってきたんだ」
「今回忙しかったみたいですね・・・」

もぞ、と身体を起こし、腹まで隠すようにシーツを手繰り寄せる。
足の間の熱を気取られないよう、軽く膝を寄せた。

「リンク・・・その、ちょっとだけでいいから――」

言うが早いか、フォックスはリンクを抱き寄せてその肩に顔を埋める。
首筋から耳たぶにかけて当たる吐息に、リンクはびくりと身体を震わした。

「フォックスさ・・・」
「癒される・・・」

は〜、と堪能する声に思わずリンクも身体の力が抜けてしまう。
本当に疲れていたのだなと彼の背を頭を撫でればぐりぐりと額を肩に押しつけられた。

「リンク」

ゆっくり髪を引きずるように顔を上げたフォックスはそっとリンクの頬に触れた。
ピアスをなぞり耳の後ろを捕らえ、一瞬視線を合わせた後に唇を触れ合わせる。
唇同士の柔らかい肉厚が沈んでいく感触が分かるほどの優しい接吻は、とても甘い。

「ん、ん・・・」

久々の口付けは長く、意識を深い水の底に沈めていくような感覚に見舞われる。

「は・・・。・・・寝る前に来てごめん」

軽く頬にキスをして立ち上がるフォックスに急に現実に引き戻された。

「あ・・・」
「おやすみ、リンク」
「待っ――!」

自分も立ち上がろうとして下腹部の熱が先程よりも増している事に気づく。
今立ち上がったら確実に分かる、バレてしまう―――。

「フォックス・・さん・・・」

でも、欲しい。
彼が欲しい。

「リンク・・・うわっ!?」

心を超える身体の勢いというものはすごい。
つい敵を放り投げる要領でフォックスをベッドの上に放り上げてしまった。
空中で思わず一回転した彼はあまりに予想外だったのだろう、ぽかんとしている。
その上にのそりと乗って、その胸に今度はこちらが顔を埋めた。

「ご、ごめんなさい・・・」
「リンク・・・もう・・・」

はぁと呆れるような溜息が頭上から聞こえる。
やっぱり呆れられた。浅ましかった。

「こんなにくっついたら、我慢できないんだけど・・・」
「え?」

苦笑いをしたフォックスがリンクの背に腕を回してより一層身体を密着させる。
太腿に当たる、潰れそうで潰れない自分と同じ熱の感触があった。

「フ、フォックス、さ・・・あの、その・・・」
「帰ってすぐがっつくつもりはなかったんだけど・・・ごめん、もう無理」

背中の手が後頭部を掴み、先ほどよりも強い口付けを与えられる。
舌が絡まり、歯を掠めて強く吸われた。
それだけでぶる、と背中が震えてしまう。
フォックスも同じらしく、彼の脈打つ心臓も早くなっていた。

「リンク、好きだよ。ようやく触れられる・・・」
「私もです、フォックスさん・・・」

焦がれた時間を忘れてしまうほど、燃え上がる気持ちに2人は互いを求め合う。






「ふ、ぅ・・・んっ・・・ぅ・・・」
「・・・は・・・っ・・・」

服を脱いだ時の、自身の熱を悟られた瞬間恥ずかしくて仕方がなかったが俺も同じ、とフォックスは笑った。
今ではベッドの脇に服を落して、互いの足の間に顔を埋め合っている。
フォックスの上で四つん這いになるのに抵抗はあったが彼の熱を口に含んだ途端どうでもよくなってしまった。
唇で扱いて、粘っこい透明な液を何度も吸い取る。
このまま口に出されても構わない。

「ん、む・・・・っあ!」

つぷ、とフォックスの指がリンクの秘所に滑り込む。
疼く下腹部はそれに耐えるだけでも精一杯なのに、口の動きを緩めようとはしてくれない。
喉の奥で先端を締め付けられて、牙と舌で愛撫されると大腿が震えだす。
甘い痺れが下肢から脳に伝わって、またその下肢に快感の反応を示してしまう。
もっと強い快感を期待しているんだ、と涙まで浮かべる自分の身体に今更ながら強欲だと思ってしまった。

「あ、ふ、フォックスさん・・・」
「ん?もうイきそう?」

口から透明な糸を引きつつ下から覗き込むようにフォックスを見れば、その顔には同じ液体がいくつも落ちていた。
汚れた顔に反応した自身がまたぽたりとその顔に雫を落としてしまい、恥ずかしくて堪らなくなる。

「す、すいません・・・っ!」
「あ、これ?」

今し方落ちたばかりの雫が口元まで垂れてきた。
あろうことか、フォックスはそのまま舌で舐めとってしまう。

「おいしいけど」
「やっ・・・そんな事・・・!!」

熟れていく頬が熱い。
どく、どく、と下腹部が脈打って楔を求めている。

「あ・・・も、欲しい・・・です・・・」
「分かった。・・・痛かったら、言って。もう少し慣らしたいけど俺も我慢できないみたい」

フォックスがリンクの下からするりと抜け出てそのまま後ろに膝立ちになる。
いつもより多くローションを掛けて、ぐいと腰を引き寄せた。

「あ・・・」

先程まで口に含んでいたものを秘所に当てられ、リンクの肌が粟立つ。
ぬちゅ、と腰を押し進められ、内に進入する熱を敏感な肉壁が絡みついていく。

「っひぁ!あっあっやっ・・・、・・・奥、もっと・・・!!」

もっと奥まで長く擦り上げて欲しくてじりじりと足を開く。
荒い息を吐いて、銜えこんだフォックスのものに少しの余裕を与えた。

「いいのか、もう動いて・・・?」
「はいっ・・・!い、ぃ・・から・・・はァっ・・・早く、・・・う、あぁぁッ!」

激しく貫かれて前のめりになる。
身体が熱い。
耳を打つ濡れた音に頭がおかしくなってしまいそう。
なのに甘く掠れた声がみっともなく彼を求めてしまう。

「リンク、可愛い・・・リンク・・・」
「っく、ァ・・・名前・・・あふっ・・名、を・・・ひゃぅッ・・・!」

リズムよく突き上げられて、粘着質な水音と肉のぶつかる音が部屋に響いた。

「はぁ・・あ、あっん、も・・・っと・・・呼ん・・で・・くださ・・ぃ・・・」
「うん・・・リンク、リンク・・・ん・・・気持ちいい・・・リンク・・・っ」

戦慄く内の蠕動がフォックスを淫らに誘っている。
大きな声で喘いでしまいそうになって顔をシーツに埋めた。
身体が熱いせいかシーツの冷たさにまで感じてしまう自分が恥ずかしい。

「ぃい・・・気持ち・・イイ・・・っ!」

ぱさっぱさっと金糸の髪が飛び跳ねる。
何度かだらしなく開いたままの口に入りこんで、毛先に唾液を纏っては首や肩の肌に当たった。
もう前も後ろもとろとろで、ぼんやりとした意識が快楽に支配されるのを喜んでいる。
不意にフォックスが内の少し硬い部分を擦り上げ、その衝撃に目を見開いた。

「ひゃぅぅっ!!ああ・・・ゃ・・・んっ・・・ぁ、アッ!!」
「あ・・・ここ、リンク・・・」
「やっ・・・ああぁっ!ひっ、ンー!んくっ・・ふっふォ、クス、ふァ・・・ン・・・っ!!」

もはや彼の名前すらちゃんと発音できない。
シーツに額を擦りつけ、いやいやと左右に首を振る。
そのせいで触れてもいない胸の突起がシーツに擦れ、自ら快感を増長させてしまった。
溶けた秘所をガツガツと的確に穿たれ、先走りがはしたなくシーツを濡らしていく。



抉られて気持ち良くて。
愛しくて我慢できなくて。
羞恥心はあるけれど、嫌悪感など微塵もなくて。
もっとたくさん触れて愛してと、欲しがる気持ちが止まらない。



「好き、すき・・です・・・っ!」
「俺も・・・リンク、好きだよ・・・!」

ぞくぞくと背中を反らして限界が近い事を伝えた。
ズッズッと何度も奥を突くフォックスの動きが速くなっていく。
もっと突き上げて、奥まで濡らして欲しい、と呂律の鈍い舌がふしだらな言葉を音にする。

「あ、ふぁあっ!出る、出ちゃ・・あ、あっ、あぅっ!」

溜まりに溜まった熱が切ないほどの快感をもたらし、胸を締め付けた。
同時に内も締め上げてしまったらしく、背後で息を詰める声が聞こえる。

「お、お、き・・ぃ・・・、ンっ・・う・・あ、は・・・ッああァ!」

気持ち良すぎて、焦点の合わない眼からは涙を零し、唇はだらしなく開いても笑っている。
ああきっと自分でも今見たことないすごい顔でいるに違いない、と喘ぎながら思った。

「・・・っリンク、もぅ・・・俺・・・っ!!」
「あ、抜かな、いで・・・っ!私も、いっ・・しょ・・・に・・・」
「ああ・・・分かった・・・」

腰を掴んでいたフォックスの片手がリンクのものに伸びる。
雫をぽたぽたと零すそれを包み込んで上下に扱きあげた。

「あー、あふッ!あ、擦って・・・奥、出し・・ッひ!」

深くまで入り込んだフォックスが抜かないままで腰を揺する。
最奥まで突かれてかりっと耳を噛まれた瞬間、背骨を駆け抜ける電流に白い飛沫を散らした。

「はぁぁぁ・・・ッ!!ふぅ・・う、あ・・・、はぁ・・・ん・・・っ」
「っく・・・あぁ・・・・・・!」

奥に届く硬いものがどくりどくりと熱を吐く。
いつもより少し長めのそれは、離れていた時間を思わせた。
満たされた後、慎重にフォックスのものを引き抜かれ、寂しくなった秘所が涙の代わりに注がれた蜜液を零す。
こぷ、と内太腿にまで滴る感触にリンクは身体を震わせた。

「は、はぁ・・・フォックス・・さん・・・」

こてんと横に転がり、今だ覆い被さるフォックスを見上げた。
彼もまだ感極まった状態で、濡れたグリーンダークの瞳がうっとりとリンクを見つめている。

「・・・リンク、大丈夫?」

汗で張り付いた金糸の髪をリンクの頬から剥がしながらフォックスが問う。
優しいその手が心地よい。

「はい・・・」

軽く口付けを交わして気だるい余韻に身を任せてしまう。
うとうとと閉じかける瞳に、視界がぼんやりと滲みだした。

「リンク、寝ていいよ。あとは俺がするから」
「や、もっと一緒に・・・」
「今晩はずっと一緒にいるよ。もちろん明日もね」

恋しい温度が身体を包み込んでくれる。
逆らえない温もりに意識が溶かされていく。

「おやすみ、リンク」
「・・・おやす・・み・・なさい・・・フォックス・・・さ、ん・・・」

柔らかい口付けが瞼の上に降ってくる。
明日の朝はどうか隣で彼が眠っていますように、と心で願った。

















                                    fin.