+喧嘩花火+



夫婦喧嘩は犬も食わない、という言葉があります。
意味の知らない人は今から辞書を引くべし。ひとつ賢くなれます。
それはともかく、夫婦間の喧嘩は食うものがいないほど厄介なもの。
夫婦でなくともそれに相当する喧嘩を世の中しちゃう人もいるわけなのです。



「なんだよ!」
「なんですか!」

珍しく、彼らは喧嘩をしていました。
彼ら、とはフォックスさんとリンクさん。
一体何が原因なのでしょうか。

「なんであの時飛び出したりなんかしたんだよ!?」
「フォックスさんがダメージ200%も溜まってたからでしょう!」

どうやら、彼らはチームバトルをしていたようです。
フォックスが危ない所をリンクが庇い、庇われたフォックスはちょっと怒ってしまいました。
危ないのはお互い様なのに、リンクが怪我しちゃったじゃないか、という自己犠牲に怒っています。
リンクはリンクで、庇うまで危ない状態になったフォックスも悪いと反論。
2人の喧嘩の火花はどんどん大きくなっていきます。

「そーだな、リンクは大丈夫だよな。道具をたくさん持ってて飛びにくいし攻撃パターンも豊富だし!」
「な・・・フォックスさんだって攻撃は良く当たるしすばやいじゃないですか!」
「む・・・アピールで流れるリンクの金髪とか剣を振るう姿がすごい綺麗で狙われたりするだろ!」
「フォックスさんだってアピールで挑発したり、眠ってる時は丸まったりして可愛らしくて狙われやすいじゃないですか!」

台所から飛んでくる2人の喧嘩声。
ご飯を待ってるカービィやファルコは背筋が凍る思いです。

「・・・っリンクは美形だし愛想がいいし優しいから他の奴が放っとかないだろ!」
「・・・っフォックスさんだってふわもこの尻尾や頼れるお兄さん雰囲気で他の人に言い寄られるじゃないですか!」

なんだか喧嘩の点がずれてきていますお2人さん。
台所のドアの隙間からハラハラしながら彼らの様子を見ていたネスくんと子リンクくん。
ネスくんは青筋立てながら死んだ魚の目で溜め息をつきました。当然です。
子リンクくんは未だにハラハラしながら彼らの様子を見ています。

「リン・・・行くよ」
「えっ・・・止めなくていいの?リンクお兄ちゃんが・・・」
「その内仲直りするよ」

ネスは子リンクの手を引いてとことこ、カービィ達のところに戻っていきます。
もう、付き合いきれない。そんな表情で一杯でした。

その日の夕食の場は、ズンと沈んだ空気。
リンクもフォックスも一言も話しません。つられて他の人も一言も話せません。
皆でとっても怖い夕食を味わいました。



リンクが食後のデザートにスイカを持ってきたところで、黙っていたカービィが勇気を振り絞りました。

「リンク、今日お祭りがあるの!行きたい!」

カービィの横にいたファルコは一気に血の気が引きました。
今この状況で言うなよこの桃球!と汗が殺気と一緒に流れていきます。

「だ、ダメ・・・かな・・・リンク・・・?」
「・・・いいですよ」

リンクはにこりとも笑わないまま、許可を出しました。
嬉しいけど、怖い。カービィは引き攣った笑いを浮かべながら喜びます。
食後のスイカがいやに塩辛いな、と皆思いました。

「・・・ファルコ」

ぼそっと、スイカを食べながらフォックスが呟きました。
ドスの利いた、ハラワタを凍らすような声です。

「な、なんだ・・・?」
「子供達の面倒・・・手伝ってくれ・・・」
「あ、ああ。分かってる・・ぜ・・・」

いつもに増して逆らえないファルコ兄さん。
哀れ。泣かないのが元暴走族リーダーのプライドです。

「・・・そうですね。じゃあもう1時間後に出ましょうか」

気がつけばリンクまでドスの利いた低い声。
ガノンドロフと会話する時以上に怖い声です。
フォックスを除く皆は、ガタガタ震えながら頷きました。



1時間後、皆は我先にと家を飛び出しました。
あれからどんどん家の中が寒くなっていき、息をするのも苦しくなったからです。
その元凶であるフォックスとリンクは最後にのろのろと玄関を出て鍵を掛けます。
フォックスは元々足が速いので、あっという間にリンクを残して子供達と合流しました。
こんな状態でも子どもの面倒を見ようという優しくも迷惑な心に皆涙が出そうです。
見かねたファルコが、再度勇気を振り絞って言いました。

「ガキ共の面倒は見てやるから、リンクと仲直りしてこいよ」
「・・・嫌だ」

フォックスは頑固なところがあるので、まだ仲直りするつもりは無いようです。
そもそも、マジ切れ状態なので、ファルコが何を言おうと聞き入れません。

「フォックス、お前だって悪かったんだろ」
「そうだよ、でも俺はまだ怒ってる」

見りゃ分かる、と言おうとしたのを飲み込んで、ファルコはがりがりと頭を掻きました。

「はぁ・・・リンクの泣き顔、見たくねぇんだったらさっさと仲直りしろよ」

ファルコはそう言い捨てると子供達の方へ向かいました。
フォックスはその場で立ち止まって少し考えた後、また歩き始めました。
祭りの喧騒から離れた高台へと向かいました。
ひとりになりたい、と思ったのです。





ドン、ドンドンドドドン、ドン、ドン、ドン。
ピーピーピーヒャララ、ピーヒャラピーピーピーヒャララ。
太鼓と笛と、祭囃子がリンクの耳を騒がせます。
リンクの周りには、たくさんの出店が並んで、たくさんの人が行き交ってます。
それが尚更、リンクを孤独に感じさせました。

「フォックスさん・・・」

リンクは夕食時と打って変わって、すっかり元通りになっていました。
それどころかひどく落ち込んで、零れるのは重たい溜め息ばかりです。

「・・・リンク?」
「あ・・・シークも来てたんですか。お祭り」

リンクの前に現れたのはシークでした。
相変わらず暑苦しそうな布を顔に巻いています。

「どうかしたのか、元気が無い」
「それが・・・」

シークは夕食時に居なかったので事情を知りません。
マルス、ロイ、ゼルダなど、貴族階級以上に当たる人は、皆と住んでるところが違います。
庶民派アットホームの家とは違って、彼らは『宮』に住んでいました。
ちなみにマリオファミリーはピーチの城に住み、ファルコンやサムスは自分の基地に帰ります。
残りはどこに住んでいるのかもわかりません。割と皆ばらばらに住んでいるのです。
ただどんちゃかさ騒ぎや上手い飯を食べようと、家に集まることも少なくありません。

「ふうん、フォックスと喧嘩しちゃったんだ」
「はい・・・」

とぼとぼと出店通りを抜けて、点在する提灯の明かりを頼りに歩きます。

「これからどうするの?」
「フォックスさんに・・・謝りに行きます」
「・・・なんで?」
「なんでって・・・私が、悪いんですから・・・」
「リンクは悪くないじゃないか、仲間を庇うのは当然だろう」
「それは・・・」
「それに200%も怪我を負ったフォックスの方が悪いじゃないか。
 フォックスがそこまで怪我を負ってなかったらリンクだって庇わなくて良かったんだし。
 その上フォックスはリンクに酷い暴言を吐いてるじゃないか(暴言ていうかノロケだけど)。
 謝るのはフォックスの方だよ」

シークに捲くし立てられ、リンクは困惑した顔になります。

「で、ですがフォックスさんは悪くないんです!」

そう断言した後、リンク顔を伏せてしまいました。
リンクは、シークの言いたいことは分かっているのです。
どちらも悪いけど、どちらも悪くない。
そういうことなのです。

「・・・本当に、妬けてきちゃうなぁ」
「え?」
「フォックスならね、この先の高台に居たよ」
「ほ、本当ですか!?さっそく行って・・・」
「リンク、待った」

シークは走り出そうとするリンクの腕を掴みます。

「フォックスは、まだ怒ってたよ」
「う・・・」

リンクの表情に苦いものが浮かびました。
それでもシークの手をすり抜けて、一言。

「それでも、行きます」
「そう・・・じゃあ、最後のおせっかいだ。泣いては、駄目だよ」
「はい、分かりました!」

駆けていくリンクを見送りながらシークは深く長い溜め息を吐きました。

「・・・勇者も怒った獣には手を焼くな・・・」

自嘲を含んだ声が、提灯の明かりに静かに溶けていきました。



タッタッタッタッタ。
リンクは走りました。
長い長い、石の階段を登ります。
この高台はとても高い所にあるので、一番上まで登ろうとする人はいません。
そんな所を、リンクは一生懸命走ります。
そしてとうとう、高台の頂点まで到着しました。

「フォックスさん・・・」

フォックスはいました。たったひとりで。
高台の先端の手すりに座って、提灯に照らされた人々を見ています。
リンクが声を掛けようとした瞬間、フォックスの姿が光にかき消されました。
同時に、色とりどりの花火が、大きく散って地面に落ちます。

「花火・・・」

リンクが呟きました。
が、はっと気を取り戻してフォックスを探します。

「リンク」

気がつけば、フォックスはリンクの横に立っていました。
まだ、眉間にシワが寄ったままなのですが。
パーンッ!と花火が弾けて輝きます。

「フォックスさん・・・あの・・・ごめんなさいっ!」
「・・・・・・・・・」

フォックスの言葉を代弁するように、花火が彗星みたいになだれ落ちます。

「怒っているは知っています・・・でも・・・」

涙が出そうになるのは、花火の強い光に目がくらんだせいではありません。
先程のシークの言葉を支えに、リンクはぐっと我慢しました。

「リンク、俺が怒ってるのを知って、なんで来たんだ」
「・・・フォックスさんと、仲直りするためです」
「俺が怒っているのは、リンクの事もあるけど、自分の事もあるんだ」

リンクの自己犠牲にも怒っているけれど、そのリンクを許せない自分にも怒っているのです。
悪循環がフォックスの中でぐるぐる回っていました。

「フォックスさん・・・」
「・・・まだ、怒りが収まりそうに無いんだ」

そう言った瞬間、今度はリンクがキレました。
所謂逆ギレというやつです。

「っいい加減にしろよ!」

目を射し、腹から轟くような爆音の花火が空に咲きます。
リンクがフォックスの襟首を掴んで、引き寄せました。
リンク、すごい形相です。口調まで昔に戻っています。

「もう許すだの許さないだの悪いだの悪くないだの!」
「リ、リンク・・・」
「俺は仲直りしたいんだ!なのにフォックスは怖いしネガティブだし!」
「ちょ・・・落ち着いて・・・」
「落ち着いてられるか!なんだよもう・・・フォックスの馬鹿!」

大きな花火が連続して打ち上げられます。
炸裂する音に合わせて、リンクがフォックスを叩きました。
パァンッと花火が咲けば、ゴスッといいパンチがフォックスに入ります。
殴りながらシークから流すなといわれた涙がぽたぽたと落ちていきました。

「っい、痛っ・・・リンク、止めっ・・・!」
「フォックスは俺と仲直りする気はないんだろ!だったらボコる!!」

すっかり暴れる子ども状態と化したリンクを見るのは初めてなフォックス。
どうしていいのか、あたふたしながらリンクの拳を受けます。
受けても逆の手で殴り返されます。

「ちょっ・・ごめん!本当にごめんなさい!反省しました、仲直りします!!」
「・・・・・・・・・本当に?」

したたか殴られた後、フォックスはようやくリンクの両腕を捕らえました。
服の下には青あざが出来てるかも。
フォックスはそんな事を考えながらリンクを宥めました。

「本当です。仲直りします」
「もう怒ってないか?」
「怒ってないです。ごめんなさい」

なんだか口調が逆転しちゃった2人。
リンクもようやく落ち着いたようで、腕の力を抜きました。
ふと見れば、リンクの顔が真っ赤です。
泣いていたのと、取り乱してしまったので恥ずかしくてたまらない様子。

「・・・・・すみません、フォックスさん。すごく、取り乱してしまって・・・」
「あ、いや・・・俺の方こそ、ごめん・・・」
「・・・仲直り、しませんか?」
「ああ、仲直りしよう」

フォックスが自分の両手の人差し指の先をくっつけてリンクに差し出しました。
リンクはそのくっついた指先を左手でぎゅっと握ります。
これで関係修復。元通りになりました。
間違ってくっついた指先を切っちゃったら、絶交という意味になってしまいます。

「・・・・リンク、帰ろうか」
「はい」

そっと手を繋いで、長い長い階段を降り始めました。



「そういえば・・・なんで俺が怒ってるって分かってたのに会いに来たんだ?」

俺が頭を冷やした後の方が良かったんじゃないか、とフォックスは問いかけます。
リンクは少し、顔を赤くして、ぼそりと呟きました。

「だって・・・待ってる間、淋しいじゃないですか」

淋しくて仕方ないから、急いでで謝りに来たのです。
フォックス、顔をきょとんとさせてリンクを見詰めました。

「・・・ああ、そうか。そうだったのか」
「フォックスさん?」

妙に納得しているフォックスさん。
リンクから見れば???です。

「俺も淋しかったから、あんなに余計にイライラしたのかな」
「淋しがりやさんですね、フォックスさんは」
「リンクもだろー」

くすくす。2人は幸せな笑みを零します。
花火はいつの間にか、終わっていました。


















                                    fin.


























+緊急あとがき+

乙女すぎてごめんなさい。
最初はもっとロマンチックに仲直りするはずだったんです。
書いていたら何故かバイオレンスチックに。
剣を使う16歳の少年の拳は、割と硬いのではなかろうかと。
最終的に強いのは、狐よりも勇者様というお話。
















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