+ホームランレコード+



2つのブラスターの閃光。
ブーメラン、矢、爆弾。
なんだかよくわからない紫の光。

それらがルイージマンションの中をごった返すように飛んでいた。
チーム戦だけに、お互い負けられない。
チームメイトはフォックスとウルフ、リンクとガノンドロフの組み合わせ。
仲間が仲間なだけに、負けたら相当後味が悪くなること間違いなかった。

「ウルフ!避けろ!」

フォックスはリンクの放つ矢を避けながら、自分の後ろにいるウルフに注意を促す。

「分かってる!てめぇは前を見やがれ!」
「チョロチョロしおって・・・!」
「・・・外したか・・・・!」

走ったり飛び回ったりしているウルフとフォックスに相手組はイライラしはじめていた。
直接攻撃に行けば距離をとられて左右から銃弾を浴びせられる。
仕方がないので片っ端から遠距離攻撃とアイテムを当てまくる作戦に出ていた。

「いい加減に・・・止まれ!」

リンクは近くにあったホームランバットを掴むとこれまた近くにいたフォックスにブン投げる。
どうせ避けられるだろう、という思いもあった。


しかし。


リンクが投げた時、フォックスはウルフの援護に夢中になっていた。

「いだっ!!!?」

ゴィン、という鈍い音と共にフォックスが場外へ飛んでいく。
その後ウルフの健闘も空しく、勝利を勝ち取ったのはトライフォース組だった。



「フォックス!どこにいやがる!?」

選手控室に入るなり、ウルフは大荒れの状態で叫んだ。
負けたとことが相当気に障ったらしい。
イライラしているのが目に見えて分かった。

「そういえば・・・いないな・・・?」

次の乱闘に待機している選手がウルフから距離を取る中、リンクだけが平然と傍に立っていた。
慣れと、傍に寄るなと言われていないからいるだけなのだが、周りから焦った視線が飛んでくる。
そんなに恐がらなくてもいいのに、と思いつつ自分も最初はこんな風だったか、と思い直す。

「フォックスなら先ほど救護班に運ばれていったぞ」
「アイク・・・それは、本当か?」
「ああ。バットの辺り所が悪かったらしい。意識が戻ってないそうだ」

投げた本人の目の前で、アイクは淡々と言いのけた。
彼自身の元々の性格もあるだろうが、ずばっと本質を言いすぎだ。

「ウルフ・・・」

ちら、とリンクは気まずそうにウルフを窺う。
ウルフは怒りを納め、行くぞ、と短く言うとリンクを連れて部屋から出ていった。



救護室は選手の控室のすぐ近くにある。
今回のことのように、怪我をした時にすぐに治療できるようにするためだ。

「フォックス、いるか!?」

ズバァンと縁側の窓が開けるが如く、ウルフは観音開きで救護室のドアを開いた。
リンクも黙ってその後に続く。
跳ね返ったドアはしばらく揺れ、何度かぎぃぎぃと悲鳴を上げた後、元に戻った。

「怪我人がいるんだ、もう少し静かに開けやがれ」

部屋のカーテンの奥からファルコの声が届く。
ウルフは大股でそのカーテンに近づき、引き裂きかねない勢いでそれを開いた。
その中には頭に包帯を巻きベッドに横になったフォックスと、その横で佇むファルコがいた。
ファルコは椅子にも座らぬまま、腕を組んでフォックスの方を見詰めている。

「どうなってんだ、この狐の容体は」
「どうもこうもねぇ、今は意識がねぇからな」
「・・・大丈夫・・・なのか・・・?」

リンクが不安気にフォックスの顔を覗き込む。
フォックスは眠っているというより、本当にぐったりしているように見えた。
直撃した頭に氷嚢が置いてあり、まだ氷ひとつも解けていない。

「目ぇ覚まさねぇことにはなんともな・・・」
「ったくこの狐は・・・」

2人(匹?)で保護者さながらの溜息を吐く。
リンクはフォックスに乱闘とはいえ怪我させた張本人だけに、居心地の悪さを感じていた。
ファルコとウルフはそれから特に言葉も交わさずにフォックスの顔色を見ている。

「・・・俺はそろそろ乱闘の時間だから行くぜ。あとまかせた」

5分と立たない内にファルコがカーテンをめくり出ていく。
まかせた、といわれても何ができるわけでもない。
ウルフとリンクは顔を見合わせしばし沈黙する。
下を向くリンクに、ウルフの方が切り出した。

「俺様達も行くか。どうせしばらくしたらへらへらしながら起きてくるに決まってる」
「あ・・・いや、俺はここにいる。どうせ・・・暇だから・・・」
「・・・そうか」

ウルフは意外そうな目でリンクを見ると、開きかけたカーテンの間から出ていく。
そのまま立ち去ると思っていたが、ドアの前で足音が止まる。

「ウルフ?」
「ガキ、てめぇのせいじゃねぇんだから無理するんじゃねぇ。どんくせぇ狐が悪い」
「・・・!・・・すま、ない・・・」

ウルフの言葉にリンクは顔を伏せた。
足音はドアをくぐって去っていく。
リンクはドアからフォックスの方に向き直り、近くにあった椅子に座る。
誰も座っていなかった椅子はひんやりとして無機質な温度を伝えてきた。

「俺のせい・・・じゃない・・・」

でも、バットを投げたのは自分で。
ぶつかったのはフォックスで。

「すまない・・・フォックス・・・」

そっと包帯の上を撫でる。
フォックスの耳がぴくっと動いた。

「う・・・・・・」
「フォックス!?」
「うぅん・・・リン、ク・・・?」
「だ、大丈夫か・・・?」

柄にもなく取り乱すリンクにフォックスは不思議そうな顔を向けた。

「どうしたんだ・・・そんなに・・驚いて・・・?」
「気分は・・・?頭は痛くないか・・・?」
「そうだなぁ・・・ちょっと痛いかも・・・」

ぼんやりした口調で答えながらフォックスは自分の頭に触れる。
メットの硬い感触の代わりに包帯が触れた。

「俺の投げたバットに・・・当たって・・・その・・・」
「あぁ・・・それで包帯・・・。ごめんな、心配かけて。俺は大丈夫だよ」
「フォックス・・・」

無事で、怒らないフォックスにリンクは安堵の息を吐く。

「そろそろ・・・起きないとな」
「バっ・・・何を言ってる!・・・まだ、休んでいろ」
「そう・・・?じゃあ、そうしようかな。リンクも傍にいるし・・・」
「フォ、フォックス・・・?」

フォックスは満足そうな息を吐いて目を瞑った。
リンクはフォックスの様子がどこかおかしいのを感じつつ、頭を打ったせいだと自分を納得させていた。
それが、後々リンクにとって大変なことになるとは思いもしなかった。






フォックスがバットで頭を打ってから早5日。
日常はつつがなく行われ、何の問題もないように思えた。
だが。

「おかしい・・・」

リンクは顎に親指、唇に人差し指を当て、悩んでいた。
フォックスが頭を強打してからというもの、なんとなく以前と態度が違うのだ。
以前は古の勇者を思い出すのかどこかよそよそしさがあった。
だが今ではそんなものは吹き飛び、全くもってオープンなのである。
それこそ、古参のピカチュウやファルコを同じような扱い。

それで何か困ったことがあるかと言えば、無い。
だがいきなり変わった態度に戸惑うのはこちらだけ。
そのことをウルフに話してみたが怪訝な顔をされた挙句、

『さらに不仲になるよりマシだろう』

の一言の元に終わった。
そう・・・いい方向には行ってはいる。
だがそこには納得しないリンクの心があった。
段階を踏まずに仲良くなるのはどうにも心地よくないのである。
そこまで考えてリンクはそっと窓の外を見た。
窓からはフォックスがアイクに剣を教わってもらっているのが見える。
アイクが片手でぶん回している剣を、フォックスも同じように持とうとしているのが見えた。
あぁ重たそうだな、と彼の表情から窺える。

「はぁ・・・フォックス・・・」
「悩み事かい?」
「まぁ・・ちょっと・・・」
「フォックスが気になるの?」
「ああ・・・って!?」

リンクが慌てて振り向くとそこには青髪の王子がにこやかに立っていた。
背後を取られるほどフォックスを気にしていることに、リンクは腹立たしくも恥ずかしくなって顔を赤らめる。

「フォックス、頭打ってから様子が変だね」
「わ、分かる・・・のか・・・?」
「んーまぁなんとなくだけど」

マルスの言葉にリンクはぱっと顔を上げた。

「どうにか・・・元に、戻せないだろうか・・・」
「じゃあまずは直接彼と話してみようか」
「え・・・ちょっと、待・・・っ!」

ダンスに誘うかのようにリンクの手を取るとそのまま外へと向かう。
リンクは流されるままに、マルスに引きずられていった。

「フォックスー!ちょっとー!」

マルスに手を掴まれたまま大きく左右に振られたのでリンクはよたたっとたたらを踏む。

「何?マルス、リンク」
「フォックス、頭打ってから様子が変だよ」
「マ、マルス・・・!?」

ずばっと本題を切りだすマルスにリンクは焦る。

「え?どこが?」
「だって、僕とリンクと手をつないでるのに何も言わない」
「っ!忘れてた・・・放せ!!」

慌ててマルスの手を振りほどき、2、3歩ほど距離を取る。
この人はこの人で油断ならない。リンクはそう確信した。

「いや別に。仲良いなーって思ったぐらいだけど」
「ふぅん・・・じゃあ前に僕がリンクに盾をぶつけられたの覚えてる?」
「へ?そんなことあったっけ?」

なかったよな、とフォックスはリンクの方を見た。
リンクもそんなことをした覚えはないので首を縦に振る。

「なかっただろ?」
「このリンクじゃない方にだよ」

リンクははっとした。
マルスが言っているのは、古の勇者のことだった。
古の勇者のことなら、フォックスが覚えてないはずがない。

「え、じゃあトゥーンの方か?」
「いいや」
「じゃあ、誰だ?リンクはその2人しかいないだろう」
「・・・フォックス?」
「俺は皆に会ったのも、こんな大会に出たのも初めてなんだからリンクはその2人しか知らないぞ」
「・・・だそうだよ、リンク」

マルスにいきなり会話を振られ、リンクは返答に詰まった。
いやそれよりもフォックスが古の勇者を覚えていないというショックが大きい。
古の勇者を覚えていないから、今のリンクに対してよそよそしさがなかったのだ。
どうやらバットの衝撃で変な風に記憶が飛んでしまったらしい。
きっと今のフォックスにとってこの大会が自分の初参加だとい思っている。
前の大会の記憶が抜け落ちているのだ。

「マルス・・・どうしよう・・・」
「まかせて。アイクー!ちょっとー!」

フォックスを呼んだ要領でアイクを呼ぶ。
近づいてくるアイクにそのままマルスはどこからともなくバットを出して彼に放った。

「アイク!フォックスの頭に天空やってくれたら骨付き肉上げるよ!」
「天・空!」「え?」「アイク!行動が速すぎる・・・っ!!」

3人の声がそれぞれ重なり、鈍い音の後には物言わぬ人、ならぬ狐ができていた。

「アイク!マルス!なんてことを!!」

たんこぶを作ってひっくり返ったフォックスを抱え、マルスとアイクを睨む。

「・・・すまん、つい」
「じゃ、フォックスのことは頼んだよ」
「ちょっ・・・マ、マルス!」
「・・・何?大丈夫、多分フォックスの記憶は戻ってるよ」

あっさりと言い切るマルスにリンクは少々、呆気に取られた。
そんなリンクをマルスは目を細めて見詰め、何かを諦めたような笑みを浮かべる。

「ま、まだ何か・・する気か・・・?」
「・・・僕も、好きだったんだよね」
「・・・何がだ・・・?」

マルスは答えずにさっとマントを翻して歩き出した。
リンクはその青いマントを背負う背に、僅かに哀愁染みたものを見る。

「・・・アイク、お肉あげるからついてきて!」
「・・・ああ」

2人はすたすたと歩いて玄関に入り、扉をパタンと閉める。
そのままマルスは扉に寄りかかって深く長い溜息を吐いた。
その様子に、室内に上がりかけていたアイクも足を止める。

「・・・マルス。どうかしたのか?」
「僕も好きだったんだよ、リンクじゃないリンク。前の勇者をね」
「・・・そうか」
「でももういないからね・・・」

それだけ言うとマルスはアイクを追い抜きマントを揺らしながら歩き出す。
アイクも何も言わず、黙ってその後に続いた。






一方残されたリンクとフォックスはというと。
リンクはのびたフォックスを野外に置くわけにもいかず、とりあえず背中に担ぐ。
力には自慢がある。
背負っている剣の上にフォックスを担ぎ、玄関に向かう。
まず一歩、と足を踏み出した時だった。

「何してやがんだ、ガキ」
「・・・ウルフ」

昼間の外で彼の姿を見るのは珍しい。
シガーを銜え、伸び伸びと煙を吐き出しているところだった。

「また気絶してやがんのか狐は」
「・・・さっき、気絶・・させられたんだ・・・」
「水でもぶっかけろ。そうすりゃ目ぇ覚ますだろ」
「っマルスといいウルフといい!・・・なんでそう、フォックスに・・・冷たいんだ・・・」
「・・・てめぇだって似たような態度をそいつに取ってんだろうが」

めんどくさそうに言いながらウルフはシガーを吸う。

「お、俺は別に・・・そんなこと・・・」
「絶対してねぇって言えるのかよ」
「それは・・・・」

思い当ることがないわけではない。
それだけに、抱えているフォックスのことが心配になってくる。

「そんなんだからややこしい記憶の飛ばし方したんじゃねぇのか」
「!・・・気づいていて・・・いたのか・・・?」
「なんとなくな」

ウルフの投げやり的な言葉にリンクは矢で胸を射されたようなショックを受けた。

「どうした、青い顔しやがって」
「・・・俺、俺だけが何もわからなかった・・・マルスやウルフはわかってたのに・・・」

実際考えればマルスもウルフもリンクより共に過ごした時間が長い。
それだけに変化を見つけることができたのかもしれない。
だが今では、リンクは自分といるときが一番長いと思っているところもあった。
それだけに心のショックは大きい。

「それがどうした。一番心配してんのはてめぇだろうが」
「ウルフ・・・」
「俺様はそいつのために心を砕くなんて死んでも御免だぜ」

ウルフの優しいのだか厳しいのだか分らない言葉がストンと心に落ちてくる。
フォックスを担いだまま、下を向いた瞳から熱く透明なものが滲んだ。

「・・・とっとと目ぇ覚まさせるぜ。そらよ」
「えっ・・・!?」

きゅっと蛇口を捻る音と共に噴き出す水。
それは直線にフォックスの後頭部に激流となって辺り、問答無用でリンクにも降りかかった。

「わっ、ちょっ・・・ウルフ!やめ・・・!!」

だばだばと大量の水をホースから噴出しながらウルフは子どものように笑っている。
リンクの出かかった涙もすっかりホースの水に紛れてわからなくなってしまった。

「ん・・・うぅん・・・」
「フォックス!?」
「ん・・リンク・・・・うわっ!冷たっ!?」
「あ、馬鹿!暴れ・・る・・・なぁ・・・っ!!」

ぐしゃぁあ!という盛大な音と共にフォックスとリンクは同時に空を見上げた。
フォックスが下敷きになったおかげで、リンクは怪我することもなければ服が汚れることもない。
ああ倒れた、と実感するまで僅かな間だったが2人にはそれがスローモーションのように感じられた。

「あの・・・リンク?」
「・・・なんだ」
「お、起きれる?俺、背中ぐちょぐちょなんだけど」
「・・・しばらくそうしてろ・・・」
「ちょっそんな!!」

ばたばたと暴れるフォックスをリンクは全体重を掛けて起き上がれないようにする。
空を見上げればウルフが散らした水が薄く小さな虹を作っていた。

「ガキ共はガキ共で遊んでろ。俺様はもう戻るぜ」
「ああ・・・」
「ウルフ!ちょっと助けてくれ!」
「ふざけろ」

小馬鹿にするように鼻で笑って去っていくウルフ。
リンクは後で礼を言わなければ、と思いつつも今身体を動かす気にはなれなかった。
濡れた服が気持ち悪いのに、背中の温度が心地よいからだ。

「・・・フォックス、古の勇者にも・・・こんなことをしたか・・・?」
「は?な、なんだ突然・・・・」
「・・・したのか、してないのか・・・」
「してないよ。こんな泥遊び」
「そうか・・・」

フォックスとしてはいい加減リンクを退かそうと思い、リンクの顔を覗きこむ。

「どうした、フォックス・・・?」
「いや。・・・もう好きなだけこうしてていいよ・・・」
「・・・そうか?」
「うん。たまには、こういうのもいいや・・・」
「・・・わかったから、あまりこっちを覗くな」
「わかった」

名残惜しそうにフォックスがリンクから虹の消えた青空へと視線を向ける。
覗きこんだリンクの表情は、まるで明るい花のようだと心の中で呟きながら。。
その可愛らしい笑顔をもうしばらくしてもらえるなら泥んこでもいいか、とフォックスも苦笑する。

「・・・フォックス」
「ん、何?」
「俺といたこと・・・忘れるな」
「リンク?」
「絶対だ・・・いいな」
「よくわかんないけど・・・うん、忘れないよ」

リンクはその言葉を満足そうに聞くとおもむろに立ち上がった。
急になくなった重さに、フォックスは開放感とどこか寂しさを感じる。

「・・・本当にドロドロだな・・・」
「おかげさまで」
「フン・・・ほら」

リンクの差し出した手をフォックスは少し迷ったあとに強く掴んだ。
本日2度目のぐちゃぁあ!という泥水の音が響くのは、あと少し後のこと。

















                                                fin.



















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