+昼下がり窓の開いた部屋で+




「っはぁ!!」

シーツを押しのけ、跳ね起きた。
途端に外気が髪から服までぐっしょりと濡らす汗の気持ち悪さを伝えてくる。

「あー・・・」

時計に目をやり、まだ夜中と知る。
汗を吸った寝巻きをその辺に投げ捨てて耳やしっぽを振った。
手の甲で拭った頬が、まだ熱い。
身体の沸騰が収まりかけ、ようやく汗も引いたというのに。

「・・・はぁ・・・なんで・・・」

夢を見ただけなのだ。
ただ、内容がまずかった。
自分が焦がれてやまぬ人と口付けをする。
ただそれだけの夢。その部分しか覚えていない夢。

俺と彼とは心と身体を伝え始めてから初々しい。
それでも最近、極たまに、彼を無茶苦茶にしたくなる衝動に駆られる。
もっと俺のことだけ考えてくれたらな、なんて。
そう思うだけで、どうしようもなく彼が欲しくなる。
捕食動物の本能かもねって言ったら。
きっと彼は兎のように泣き腫らした目でこちらを見るのだろう。

「リンク・・・」

新しく着替えるのもめんどくさくなり、そのままベッドに倒れこむ。
朝は寒いとはいえ毛布に包れば風邪はひかない。
風邪をひいたら、彼が看病に・・・・。
都合のいいことを考えてまた眠りに落ちる。
朝はまだ遠い。





普段より20分遅れの起床。
それでもなぜか急ぐ気がせず、のろのろと着替えて台所に向かう。
台所では夢の中の人物が鼻歌交じりに朝食を作っていた。

「・・・リンク」
「フォックスさん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「ちょっと遅かったですね、体調が悪いんですか?」

今朝のことを言っているのだと、少し間を置いて理解する。

「・・・少し夜更かししちゃって。あ、もう朝食できちゃってる?」
「あ、はい。あとはお皿に盛ればいいだけなので・・・」
「じゃあ俺テーブルの方用意してくるよ」

朝食の香りに混じる新緑の香り。
リンクの香りなのだと思うと顔に熱が昇りそうになる。
一体今日の自分はどうしたというのだろう。

「フォックスさん?なんだか顔が赤いですけど・・・」
「大丈夫大丈夫。まだちょっと眠たいだけ」

大丈夫じゃないくせに笑って誤魔化す。
彼も信じたらしく青い眼は作りかけのサラダへと戻ってしまった。

「・・・ごちそうさまでした」

リンクが作った朝食を皆で食べ、各々終える。
子ども達はすぐさま外に飛び出し、午後の乱闘に向けてウォーミングアップという名の鬼ごっこを開始した。
俺とリンクは残って朝食の後片付けをする。
朝食をとってもなぜか空腹感に近いものが残る。
身体のどこかに満たされない臓腑ができたような感覚。

リンクの皿洗いを手伝いながら横に立つ。
彼の隣りに俺が立つのは珍しいことじゃない。よくある、そうよくあることなのだ。

「リンクは午後の乱闘に出るのか?」
「いえ、今日は入れてません。少し・・・調子が悪くて」
「どこか悪いのか?」
「・・・大したことではないのですが」

そう言ってこちらを窺う瞳はどこか頼りない。
困っているのに、嘘つくなよ。

「俺で良かったら話聞かせて」

こんな何気ない質問なのに、きっと断られたら俺はへこむんだろう。
頼られてないとか信用が薄いとか勝手に思って。
何でも相談できる相手なんてそうそうできるわけないのに。
それにリンクは内々に片づけてしまう性質だ。
いちいち俺に話したりなんかしないだろう。

「・・・聞いて、くれますか?」
「え、ああ。何だったら今日の午後にでも」

予想外だった。
何気ない質問だったのに。
安心したように笑うリンクの顔に、妙に気が焦った。

午前を家事に捨てて、昼食を済まし彼の部屋へ行く。
きちんと整った部屋。
殺風景でない程度に壁に貼られたポスターのようなもの。
空気を入れ替えるためか窓が一つ大きく開かれている。

「お邪魔します」
「どうぞ。何もないですけど」

ソファーもないのでリンクは窓の前に立って外に視線を向ける。
その隣りに壁に背を預けた俺。
彼が喋り出すまで待とうかと思ったが今日は落ち着くということができなかった。
早々に、窓の外を見たままのリンクに声をかける。

「えと、それで何悩んでるんだ?」

戸惑いを見せる青い瞳は外の景色から自らの剣を握る手へと移っていく。
そういえば今日はまだちゃんと目を合わせていない。

「・・・思うんです。私がもし勇者でなければ何なのだろうか、と」

勇者以外にアイデンティティを見いだせないとでも言うのだろうか。
リンクの金糸の髪が窓からの風に揺れる。

「勇者でなかったら?」
「はい。あ、でも過去のことを言っているのじゃなくて、もしこれから剣が握れなくなったりしたらと・・・」

まだ頭の中で整理が終わってないのだろう。
ややもたつきながら思考を口にする。

「この先、剣を振るえなくなったらどうしようって話?」
「えぇ・・・はい」
「そうだなぁ・・・」

思ったより難しい悩みだ。
先のことなんてそれこそなってみないとわからない。
だけどリンクらしい悩みといえば悩み。

「じゃあもしリンクは勇者じゃなかったら何がしたいの?」
「え?」
「勇者じゃなくなったら自分のやりたかったこととか、我慢してたことが全部できるんじゃないかな?」
「やりたかったこと・・・」
「俺はスターフォックスをやりたかったからやってる。リンクはしたいこと、ある?」
「私は・・・皆と平和に暮らすことでしょうか」
「それでいいじゃないか」
「・・・でも、その平和を脅かす人がいたら私は戦うでしょう」
「・・・勇者じゃなくても?」

思わず苦笑いが出てしまう。
これだから彼は苦労性なんだ。

「はい」

曇りない瞳で告げる返事は透き通っていた。

「結局それじゃあ勇者だよ」
「あ・・・そうですね」

本当に今気づいたという顔。
きっとリンクの中では同じ質問が同道巡りをしていたのだろう。

「平和を願って戦う気持ちは変わらない。きっと剣を振るえなくてもどうにかなるよ」
「そうでしょうか・・・でも、そうだといいです」
「じゃあ勇者やめて俺の艦に乗る?」
「それも楽しそうですね」

冗談声で笑う。
なんで俺はこんな気高い孤高の勇者を好きになったんだろう。
闇を裂いて人々に平穏を与える優しい人に恋をしてしまったんだろう。
風が吹き抜ける刹那に考えたものに答えは出なかった。

「フォックスさん?」

本日、初めて目が合った。
同時に自分の中で小さく糸の切れる音が鳴る。
気が付けばリンクを引張って壁に押し付けて。
昨日見た夢のように口付けていた。

「・・・・ん、ん・・・っ」
「は・・・・・・もっと知りたいなら、俺が教えようか」
「え・・・・?」
「勇者じゃないリンクを、ね」

ふっと口端を上げて笑う。
普段とは違う俺を不審に思ったのか、彼が困ったように顔を伏せた。

「俺を見て」

顎を掬い上げ、そのまま口付けた。
突然したせいかリンクの目は見開かれたままで、抱きすくめる。
しゅるりと彼の首元の紐を解き、肩口まで露わにした。
吸血鬼に血を吸われる前の人間の姿ようだと、どこか遠くで思う。

「フォ、フォックスさん・・・」
「何?」
「窓が・・・開いて・・・っあ・・・・」
「閉めた方がいい?」

壁にリンクを押しつけて耳元で囁く。
普段ならこんな意地悪はしない。
だけど今はどうしようもなくリンクを求めていた。
窓を閉めるのさえもめんどくさく思うほどに。

「だっ・・・て・・・まだ、昼、なのに・・・」
「そうだな。でも・・・我慢、できない」

リンクの肩口に顔を埋め、軽く牙を立てた。
そのまますっと粟立つ肌に舌を這わしていく。

「あぁ・・・お願いです・・・窓、だけでも・・・」
「後で。・・・今暑いから」
「声がっ・・・外に聞こえ・・・」
「じゃあもう、黙って―――」

リンクの喉奥に噛みつくように深く口付ける。
ぞくりと震えるお互いの身体。

「んっ・・・ん・・・・っ!」

口付けの最中だというのに彼は必死に手を伸ばして窓を閉めようとしてる。
閉めたって大差ないのに。
それよりもっとこっちに集中して欲しい。

「あ、あぅっ・・・ん、く・・・ふぁ・・・」

耳をそっとリンクの胸に当てればまるで心臓が外に出たがってるかのように打っている。
もっとよく聞こえるようにと頭を擦りつければ白い肌がびくっと跳ねた。

「くすぐったかった?」
「あ・・・・もぅ・・・・・」

潤んだ瞳と上がった息は艶めかしく、物欲しげに吐き出している。
着こんでいるせいか白い陶器のような肌を舌でなぞる。
ちゅ、と胸の突起を吸えば一瞬リンクの呼吸が止まるのが分かった。
反対側を爪で引っ掻いて、口では優しく愛撫する。

「っや、ぁん・・・フ、フォック、スさ・・・・・・」
「ああ・・・こっち?」

服越しにリンクのものに触れる。
そのままゆっくり撫で、唇と逆の手は胸の突起を弄ったままにする。
その間、彼の甘い声は止むことがなかった。

「ぅ・・・く・・・あぁ・・っ・・・・は、んン・・・・!」

がくがくと震えるリンクの足は次第に壁へと体重を預け始めている。

「・・・っフォックスさん!も・・・い、やぁ・・・・」

リンクが訴えるように左右に頭を振った。
目尻に溜まった涙がぱらぱらと散って降り始めの雨のように顔にかかる。

「じゃあ・・・どうして欲しい?」

分かった上で指で少し強くリンクのものをなぞる。
つつつ・・・と上から下へ流せば余計にそれが張り詰めるのが分かった。
もっとよくわかるようにと手袋を脱いで床に落とす。

「っひぅ!・・・あ、・・・・・ょく・・ぇ・・つ・・・・・れ、て」
「何?」
「っ直接・・・触れて・・・」
「分かった」

一旦リンクから身体を離し、両手を短いチェニックの中に滑り込ませる。
太ももまで白いタイツをずり降ろし、あとは足でタイツの間を踏んで強引にブーツの上まで降ろした。
乱暴だと思っても止めることができない。

「あ・・・や、やだ・・・・ぁ・・・」

閉じかけるリンクの足の間にすぐさま自分の足を入れる。
彼の視界から消えるように腰を下ろし、目の前にきたリンクのものを何も言わないまま口に含んだ。
先端に舌を捩じ込めばとぷとぷとしょっぱさに近いと先走りが溢れる。

「く・・ぁっ!?だ、だめ・・・っ駄目です・・・!」

俺の頭を押し返そうとリンクが俺の髪を掴む。
必死とはいえ震える手に掴まれても痛くはない。
それに反抗するように彼のものを吸って奥まで銜えてやった。

「アぁぁっ!・・・や・・・もぅ・・・」

滴る透明な液を指で掬って秘所に持っていく。
滑り込ませた先は溶けそうなほどに熱かった。

「っふぁ・・・!」

リンクのものを喉で締め付け、指は秘所を解いていく。
内で指を曲げれば彼の背が仰け反り、がくがくと震え出す。
くちゅくちゅと大きな水音を立てながら解し、指3本を根元まで入れ込んだ。
流石にこの辺りまでくると自分の方が堪らなくなる。
指を抜いて口を今にも達しそうなそれから離し、立ち上がる。

「身体、回すな」
「え・・っあ・・・・!」

踊るようにリンクの身体を反転させて上半身を壁に押し付ける。
上気した肌、物欲しげな呼吸、ちろちろと見える赤い舌、腰を引かせて突き出すような姿勢。
ぞくっと俺の中で欲が沸騰する。

「・・・挿れるよ」
「っあ、待っ・・・ひ・・・・っンぅ―――っッ!!」

寸でのところでリンクが自分から口を塞ぐ。
片手を壁から離したせいで余計に頭が壁に押し付けられている。
いつもなら痛い思いをさせないように気を使えるのに。
今は涙を零して口を押さえて声を我慢している姿が、愛しく思えた。

「あーっ!・・っふ・・あ、ぁ・・・やっ・・・」

リンクの長い耳を甘噛みして突き上げる。
逃げる腰を捕らえて引きよせ、さらに強く。

「っアぁああっ!!」

突いた時に彼の弱いところを刺激してしまったらしい。
猫の爪とぎのようにリンクの指先が壁を引っ掻く。

「リンク・・・好きだよ」

この言葉に反応するようにきゅんと内の締め付けがきつくなる。
嫌だ駄目だと言っても自分の言葉に反応してくれるのは嬉しい。

「はァ・・あっあっ!んくぅっ!ひゃァンッ!!」
「あ・・・そろそろ・・・・・」

自身の限界を感じてギリギリまでリンクから引き抜く。
彼が息を吸ったところを狙って一気に貫いた。

「ひっ…・・っあぁぁァあああッ!!」
「っ・・はぁ・・・・!!」

締め付けられながら最高の快感を得る。
リンクの腰に回していた手を肩まで持っていき、激しく上下する背中に顔を埋めるようにして抱く。

「あぅ・・・フォックス・・さ・・・わ、私・・・」
「ん・・・なぁに・・・?」

まだお互い整わない息で会話する。
声と同時に汗が流れる音も下肢から粘着質な音も聞こえているけれど。

「う・・・・ぅ・・し・・・ろ・・・だけ・・・・で・・・・」

泣きそうで消え入りそうなリンクの声。
壁の方に目を向ければたらりと白い跡が残っている。

「あぁ・・・後ろだけでイったの初めてだね・・・」

体勢的に耳元で言えば、リンクの赤かった顔がさらに赤くなる。
そんな顔したら、またしたくなるのに。
快楽から抜け出せていない潤んだ青の瞳がこちらを覗く。
駄目だ、こんな強姦みたいな真似。



・・・我慢できない。



「リンク」

強引に腕を引いて床に座る。
俺の膝の上にリンクが乗ったまま、ぐるりと回転させた。
向かい合わせでリンクは俺の膝の上に。

「ぅ・・・ふ・・ァンっ!やぁ・・急に・・・!?」
「もっとしていい?」
「えっ・・あっこれ以上は・・・!皆が帰って・・・」
「もっとしたい」

唇を貪って犬歯を擦り合わす。
舌先に引く水の糸が重力に負けて膝に落ちた。
震えるリンクの足を大きく開かせて濡れた自身と秘所を露にする。

「やっ・・・見ないでください・・・っ!」

耐えきれないように腕で顔を隠す。
腕を柔らかく退かし、瞳に反して赤い顔にそっとキスを落した。
汗で髪の毛の張りついた額、伏せられた瞼の上、熟れた頬と順番に触れる。
自分は瞼の上に口付けるのが好きだと最近知った。
あのころころとした不安定な眼球を唇で感じる、あの感触がなんとも言えず愉しい。

「ん・・・フォックスさん・・・あの・・・」

もぞもぞとリンクが動く。
もうちょっと彼を食んでいたいのに。

「何?」
「その・・・な、内で・・・あの・・・フォックスさんの、反応して・・・」

恥ずかしいのかリンクの瞳がきゅっと瞑られる。
確かに前の熱と口付けのせいで自分のものは起ち上がりかけていた。
親指ほど抜けばとろりと吐き出した蜜液が伴って彼の白い大腿を汚す。
蜜液の流れはそのままに、引いた分をまた内に戻した。

「っん・・ぁ・・・」

一度達して敏感になった身体はこれだけでも反応する。
ふと目の前のはだけた胸に手を添えて軽く掴んだ。
意外と柔らかい胸を指で掴んだり緩めたりと、抵反発のような弾力を楽しむ。

「やっ・・・何・・して・・・っ」
「気持ちがいいから」
「・・もっ・・・駄目・・です・・・・っあぁ!」

すでに赤く色付いた胸の突起を親指で強く擦る。
返ってくる反応が大きいのは、まだリンクの熱が冷めていないからだ。
熱を逃がすように弱く頭を振って駄目、とうわ言のように言う。
揺れる金色から青のピアスが見え隠れする。
身体ごと揺さぶってやればブランコのように青色が揺れた。

「あ・・・はァ・・も・おかしく・・・なり、そぅ・・・っ!」

ぎゅうとリンクが俺に抱きついてくる。
背中に回った腕が強く服を掻く。
上着とスカーフを取ろうと動きを止めると彼の方が強請ってきた。

「あっ・・・フォックスさん・・・もっとっ!やめ、ない・・で・・・!」
「・・・少し、待って・・・」

上着とスカーフを投げ捨ててリンクの腕を引く。
熱っぽい瞳を晒したまま喘ぐ口腔を塞いた。

「んっ・・・んぁっ!っは・・・ァあ・・・も・・っと・・っ!」

動いては離れる唇に何度も口付ける。
口付けに集中して緩慢な動きをする俺に、リンクの方が激しく腰を振った。
官能に身を任し乱れていく彼の姿が可愛らしい。
開きっぱなしの窓からぐちゅぐちゅと、平素では聞くことのない音が漏れているだろうに。
もうそんなことも忘れたかのように蕩けていく。

「くぅ・・・・ンん、お願いです・・・早、く・・・っひぅッ!!」

不意打ちに強く突き上げた。
チェニックの裾ごとリンクの腰を持ってぐっと奥まで穿つ。
裾を上げたせいですべて除かせたリンクのものは触れてもいないのに濡れて感じ入っている。
それに薄く笑い、浮き沈み仰け反っては前に倒れかけるリンクに何度も楔を打ち込んだ。

「あぁぁああっ!あふっ!もぅ出ちゃっ・・・あぁああッ!!」
「っ・・・俺も・・・っだ・・・っ!」
「ひっ!ンぁ・・・っアァああぁぁぁッっ!!」

甲高い嬌声と同時に下肢の方で蜜液が散っていく。
ぐったりとしたリンクは俺の方に倒れこみ、息を震わせている。

「・・大丈夫、リンク?」
「んっ・・あ、熱ぃ・・・」

リンクの内に注ぎ込んだもののことを言っているのだろう。
視点の定まっていない瞳から紅潮した頬を伝う涙を拭ってやる。

「ごめん、すぐ抜くから」
「っ!ぁ・・・・・・・」

ずるりと引き抜く感覚に、リンクが小さく喘いだ。

「・・・シャワー浴びようか。立てる?」

恥ずかしそうにうつむいて首を横に振る。
僅かに苦笑してリンクを抱きかかえ、浴室に向かう。
服も身体もどろどろでいっそ服を着たまま風呂に入った方が早かったかもしれなかった。





「あの・・・今日はなんで、こんなこと・・・」

ちゃぽん、とリンクを湯を張った浴槽に入れ、自分はシャワーを浴びた。
一応、後始末は終えている。

「・・・捕食動物の本能かもね」

案の定、彼は兎のように泣き腫らした目でこちらを見ている。

「・・・食べたかったんですか?私が」
「うん・・・ごめん、無理やりして」

すっとリンクが微笑む。
恐い笑みじゃない。見惚れるようなきれいな顔。
こんな浴室で見るような顔ではないけれど。

「私、勇者以外のものになれてましたか?」
「うん。俺だけのものになってた」

そう言って惚気た俺の顔に大量のお湯をぶつけられた。

「ぶわっ!・・・リンク、怒った?」

目を拭ってリンクを見れば、お湯に顔を沈めている彼がいた。
こぽこぽと水泡が小さく浮かんで破裂する。

「リンクー愛してるから顔上げて」

浴槽の縁に頬杖をついて愛しい顔が浮かんでくるのを待つ。
今頃あのきれいな顔が真っ赤になっているんだろうと思うと、顔が緩んだ。

「        
 (I love you)

彼の国の言葉を呟く。
僅かに水上にあった長い耳がぴくっと反応するのが分かった。
まさか俺が彼の方の言葉を言えるとは思わなかったんだろう。
がばっと顔を上げた彼を、もう沈まないようすぐさま抱きしめる。

「フォックスさん、今・・・!!」
「いつも言ってることだろう?」

頬を染めつつも、リンクは花のように微笑む。
そして先ほどの自分と同じ意味の言葉を、慣れない英語でたどたどしくも囁いた。






                                              fin.