+なかしたい。ないてほしい、ぼくだけのために+
それはまだフォックスがリーダーになったばかりで、力が足りなかった時のこと。
それは任務を終えて、グレートフォックスに帰還した時のこと。
「ファルコ、お疲れ様」
フォックスはアーヴィンごしに俺に声を掛けた。
俺は短く、相槌を打つ。
「また助けられちゃったな、俺」
「もっと精進しやがれ、リーダー」
フォックスはまだリーダーとしては幼い、経験不足は仕方が無い事だ。
だが、それで俺は甘やかす訳もいかないし、実際フォックスもそれに甘んじていない。
メットを取ったフォックスの顔はしゅんとしていた。
「ごめん・・・ファルコ」
「まぁ、生きて戻れたんだから今日はこれでいいだろ。さっさと休もうぜ」
「うん・・・」
すっかりしおらしくなってしまったフォックスの手を引いて、アーヴィンから出す。
そのままペッピー達と軽くミューティングをし、終わるとさっさとフォックスは自室に戻ってしまった。
「ファルコ」
ミューティングルームから出ようとした時、ペッピーに呼び止められた。
今日は小言とを食らうようなことはしてないはずだが。
「今日はごくろうだったな」
「あァ?いつもの事だろ」
「いや、お前さんがあの時フォックスを守らなければ撃ち落されていたかもしれんからな」
ああ、そういう事か。
このウサギのオッサンはいつまで経ってもフォックスの保護者だ。
心中、本当にハラハラしてたんだろう。
「あいつはまだ経験不足だ。・・・まァ、今だけは気に掛けといた方がいいだろ?」
「もうしばらくはお前さんの盾がフォックスには必要だな」
「ああ」
だが多分俺達が思っているより早く、フォックスは強くなる。
俺の盾なんかすぐに必要なくなるだろう。
そうしていつか、先陣を切ってビームの飛び交う中に飛び込んでいく。
「ファルコ」
「ん?」
「フォックスにやっといてくれ」
ペッピーがそう言って投げ寄越したのは小さなチョコレート。
飴玉のような包装紙に包まれていて、握ったら溶けてしまいそうだった。
「任せたぞ」
「へいへい」
ミューティングルームを出て、フォックスの部屋に向かう。
あいつは真面目だから、きっと今頃戦略の復習でもしていることだろう。
そうでなかったら、落ち込んでいるに違いない。
「フォックス、いるか?」
部屋ののドアを軽く叩く。
返事は、ない。
「フォックス?」
「ごめん・・・今、俺・・・取り込み中だから、後にしてくれないかな」
フォックスのこの言葉に、俺は溜め息が出た。
いや、言葉と言うより声だ。フォックスの声は明らかに泣き声だった。
「今じゃなきゃ意味ねぇだろ」
ドアを開いて、案の定暗いままの部屋に明かりをつける。
ベットに上に狐のしっぽの生えたシーツの山があった。
「フォックス」
「何・・・お説教なら今度にして・・・」
「違ぇよ。泣き虫」
シーツの山をなだめる様に軽く叩く。
スン、と鼻を啜るような音が聞こえた。
「慰めもいらない・・・」
「慰めるつもりなんざねぇよ、バカ」
「・・・・・・」
シーツの山は黙り込む。
しっぽで俺の膝を弱く叩いたのは、バカと言われたささやかな仕返しなのだろう。
「フォックス、お前はまだ未熟なだけだ」
「・・・知ってる」
「落ち込むのはもっと別の時に取っとけ」
「・・・いつ?」
「誰かを本当に守り切れないでいた時に、だ」
「・・・それ、ファルコに言われたくない」
「あン?」
シーツの山は突然起き上がって、枕を俺の顔面に叩き付けた。
しまった。こいつ相手に油断してしまった。
「ぶっ!?・・・フォックスてめ・・・ぇ?」
フォックスは泣き腫らした目からまた涙を流して、俺を見詰めていた。
いや、睨んでいたと言うべきか。
「あの時・・・下手したらファルコが落ちてたかもしれない・・・」
ぽたりと一粒の涙が俺の手の甲に落ちた。
ダークグリーンの瞳から落ちたのに、ひどく透きとおった熱い雫。
「フォックス・・・」
「・・・死なせたく・・・ない、のに・・・」
これは俺のために泣いているのか。
それとも俺のせいで泣いているのか。
・・・俺が、泣かせているのか。
「俺が早々くたばるかよ」
挙句に出た言葉がこれ。
俺も大概、バカだ。
「・・・っ俺は!・・・・・・・・・・」
また黙り込む。伏せた顔は髪のカーテンに遮られて隠れてしまった。
それでもフォックスが言いたいことが喉でつっかえてんのが目に見えて分かる。
「手前の無力さが悔しいんだろ?」
フォックスは無言で頷いた。
「フォックス、自分の気持ちと実力ってのは一緒についてくるもんじゃねぇんだぞ」
「・・・分かってる・・・やっぱり説教になってる」
「どっかの誰かさんがどーしょーもないガキだからな」
「悪かったな」
フォックスの瞳に力が戻る。
射抜くような眼はきっと誰にも負けないであろうに。
「フォックス、泣いたら腹減ったろ?」
俺の言葉に、フォックスは急いで目の周りを拭った。
「泣いてない」
「・・・っく」
「笑うなバカ!!」
大口を開けたところに、さっきのチョコレートを放り込んでやった。
フォックスが驚いて口を閉じる。
「っ!?」
「チョコだチョコ。ペッピーからだけどな」
俺がしてやったりという顔をしていたら、フォックスが弱く袖を引いてきた。
「・・・足りない」
「あ?」
「俺はこれだけじゃ足りない」
フォックスは目を細めて、人形のように首を傾げた。
何故なんだ、元気付かせるために来たのが調子付かせてしまった。
一応、慰めることには変わりないから、それでもいいのかもしれない。
「ファルコ」
扇情的な眼差しで、フォックスは俺を見上げてきた。
fin.
ブラウザバックでお戻り下さい。