+ねぇ。その痛みはやっぱり、苦しいですか?+




雨雨降れ降れ、もっと降れ。
なんて言葉はちゃんと迎えが来てくれる人だけが言うものである。



「あークソっ!いきなり降り出しやがって!!」

ファルコは大雨の中、激しく水しぶきを飛ばしながら通りを駆けていた。
予想を激しく外した天気予報を恨むべきか、おつかいを頼まれた自分の不幸を恨むべきか。
雨など大嫌いなのに。羽が濡れて身体が冷える。
延々恨んだところで雨は止みはしない。ここは一旦戦線離脱・・・じゃない、雨宿りを行うべきだ。
そう判断すると、一直線にそばの公園に駆け込んだ。

「はー・・・」

公園にあるドーム型屋根の下で一息つく。
中は狭く、立つこともできないのだが休めるならいいかと腰を下ろした。
下ろした瞬間、背に違和感。

「ピチュ・・・」
「んなっ!?」

驚いてその場から飛び去った。その拍子に派手に頭を屋根にぶつけてしまった。

「いってぇ・・・・」
「ピチュ〜・・・」

黄色い身体に黒がしばしば、小さくてぬいぐるみの様な、ポケモン。
今は押し潰されたせいか顔をしかめているが、周りからは愛玩されまくっているポケモン。

「ピチュー・・・ピチュピチュ〜」
「なんだってこんなところに居やがんだ。雨が降ったら帰るように言われてンだろ」
「ピチュチュ〜」

しょぼーんとピチューの耳が垂れ下がる。

「あー、ピカチュウたちに置いてかれたか」

ここまできてようやくピチューの隣に腰を下ろす。
ぶつけた頭がまだ少し痛い。

「ピチュ・・・ピチュ・・・」

じんわ〜とピチューのつぶらな瞳に涙が浮かぶ。
これにファルコは焦った。こんな狭い所で大音量で泣かれたら耳が壊れる。
広い所で泣かれても耳を塞ぐ位なのに。

「ま、まぁ大丈夫だ!雨が上がったら迎えに来るだろ!」
「ピチュ・・・」
「な?だから泣くな」

ピチューは涙を拭うとファルコにそっと寄りかかる。
子供は苦手と言っときながらも毎日子供と付き合っていたら扱いに慣れるもんだと実感する。
自分の所のリーダーも、子供と言えば子供なのだが。

「ピチュチュ?」
「ん、なんだよ」
「チュ〜・・・」

きゅくるるる〜と抜けた音を立てて先ほどよりもピチューが寄り添ってくる。

「腹が減ったのか?」
「ピチュ・・・」

ごはんちょーだい、と言わんばかりに見詰めてきた。
時計を見ると今は午後3時、軽いものならあげても問題は無いだろう。

「一応買い物だからな。コレで我慢しろ」

スーパーの袋からメロンパンを取り出し、ピチューに渡す。

「ピチュ!ピチュピチュ〜」

お礼を言っているのだろう、ちょこんと頭を下げた。
メロンパンはフォックスに買って来いと言われた物だが、この場合は仕方ない。
9割9分の予想で買いなおして来いといわれるだろうが。
もそもそとパンを食べだすピチューを見ていて、自分まで腹が減ってくる。
ぐーと腹が鳴った気がした。

「ピチュ?」

ピチューが不思議そうに顔を上げる。
ああ、気がしたじゃない。鳴っちまったようだ。

「ピチュピチュ〜!」

ぶきっちょな手付きでピチューがパンを半分に割る。微妙な三日月にそれは割れた。
ピチューは割った片方をファルコにスッと差し出した。

「ピチュ!」
「俺にやるってか?」
「ピチュ〜!」
「あー・・・サンキュ」

断ろうにも『さぁ食え!』と言わんばかりに差し出されたら食うしかないだろう。
とりあえず3口で食って僅かな腹の足しにする。

「そろそろ雨も止みそうだな」

ドームから少し顔を出して雲行きを見る。
さっきの激しい雨は通り雨だったのだろう。そろそろ雨も弱まり、雲も晴れそうだ。
ふと、ピチューがえらく静かになったのに気付いた。

「ピチュ〜・・・zz」
「・・・オイ」

腹が満たされたせいか、ピチューはうとうとして目を瞑りかけていた。

「チュ〜・・・ピチュチュ〜・・・zzZ」

気持ちよさそうに眠りだすピチューを起こすのはどうにも忍びなくなってくる。
ピチューぐらいなら寝ても抱えて帰れるだろう。
しかしなんだかどんどん仕事が増えている気がする。
フォックスの苦労性でもうつってしまったのだろうか。だとしたらとんでもない事だ。

「やれやれ・・・めんどくせぇ・・・」

そうこう考えている内に、雨は止んでいた。
虹こそ出てはいないが、灰色の雲の間には光が差し込んできている。

「帰るか・・・」

静かに呟いて、右手に買い物袋を掲げ、左手にピチューを乗せる。
起こさないよう、ゆっくり足を進めた。



「あ、お帰りファル・・・ぶっ」
「笑うなよ」

噴出しそうになるフォックスをファルコは即制す。
柄じゃない絵図になっているのはすでに重々承知のことだ。

「ピチュー寝てるのか?」
「あーそーだよ。ピカチュウ達は?」
「ピチュー探しに行ったよ」
「・・・・・」

なんだか馬鹿を見たような気分。
とりあえずピチューをその辺のソファーに寝かし、フォックスに買い物袋を渡す。
買い物袋を開いて、おや、とフォックスは手を止めた。

「ファルコ、メロンパンは?」
「・・・ピチューが腹空かせたんでやった」
「・・・分かってるよなー?」

笑顔で首を傾けるフォックス。
少なくとも、俺はこの笑顔に勝てた試しがない。

「買いなおしてきマス・・・」

自分も半分食べたのだから、文句は言えない。
だが、ちょっと、いや、かなり、人使いが荒いような気もする。

「じゃあついでにネスとピカチュウとリンとカービィにピチュー帰って来たって言っといてな」

一難去ってまた一難。どうしてこうもやる事が増えるんだか。
ああ、ずっとピチューを抱えてたせいか少し腕が痺れている。
頭は痛い、腕は痺れる。やってらんねぇ。
だがやらされる側には拒否権もない。
ここはあきらめてもう一度外に出るべきだろう。

「さ、ファルコいってらっしゃい」
「おう・・・」

フォックスの笑顔に見送られて、玄関の扉を開く。
1歩踏み出し、空を見上げた。
雨上がりの空は、飛び立ちたくなるほど澄み切っていた。

















                                             fin.

































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