+ダイエット+
ごくり。
フォックスはシャワーを浴びた後、とある四角い装置に片足を乗せる。
どきどきどき。
彼の緊張は高まっていき、両足を乗せたところでそれは最骨頂に達した。
そして、
「う゛ぇ〜・・・」
げんなりとした声を上げた。
装置から弾き出された数字の並びに、フォックスの耳はしゅーんと垂れる。
「何やってんだ、お前?」
「うわひゃぁぁあっ!?」
背後からの声にフォックスは奇声を上げた。声を掛けた奴の方も同じぐらい驚いたが。
「っフォックス!いきなりなんだ、どう・・・ぶごっ!?」
がごんっといい音を立てながら予備のシャンプーが青い鳥の頭にヒットする。
そのまま後ろにのけぞったが、倒れるのだけは何とかこらえた。その間にひらひらと数枚の羽が宙に舞う。
「み〜た〜〜な〜〜〜!ファルコのバカ〜〜〜っ!!」
「な・・・お、俺が何をみたって言うんだよ!?」
妖気が炎の如く背中から出ているフォックスから後ずさりつつファルコが問う。
フォックスは無念の表情を顔いっぱいに広げながら、ぎゅっと拳を震わして言った。
「俺の体重!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
ファルコが間抜けな顔をしていると、フォックスはセキを切った様に喋り出す。
「は、じゃないよこの鳥頭!!俺、前より1.5キロ太ったんだよ・・・誰もいないと思って体重計に乗ったのにファルコのバカ!!」
「えー・・・あー・・・誰が鳥頭のバカだって!?」
とりあえず悪口を言われた事に対しては反論する。しかし・・・。
「(体重だって?)」
フォックスは標準か、やや細めの体型だ。少々体重が増えたくらいでそんなに慌てることだろうか。
「少しぐらい増えたって別にいいじゃねーか」
「良くない!!もう俺三十路間近なんだぞ・・・つまり!!」
「つまり?」
フォックスの顔に苦渋が表れる。
「つまり・・・曲がり角って事だよ!!」
「・・・あぁ?」
「肌荒れとかは男だから大して気にしない!でも体重は、中年肥満は嫌だ!!」
「・・・1.5キロ増で、中年太りになるのか?」
「なるっ!!」
ファルコは頭痛を起こした頭を抱えて壁に寄りかかった。
くだらない、でもこれが紛うことなき自分のリーダーであることは確かだ。
フォックスはそんなファルコを気にも留めず、腕組みしながらぶつぶつとダイエット法を考えている。
「運動不足なせいかな〜やっぱりクリスタルに聞いてみるべきだよな・・・よしっ!」
すたたたーっとフォックスは走り去って行く。行き先はクリスタルのところだろう。
ファルコはぽつんと一人になると、本来の目的を思い出した。
「・・・シャワー、浴びに来たんだよな。俺は・・・」
「クリスタルー!」
「あら、フォックス。どうしたの?」
フォックスはちょうど廊下を歩いていたクリスタルを見つける。
「クリスタル!今時間ある!?」
「え、ええ。大丈夫よ」
いつもとは違った真剣さにクリスタルはちょっとどきどきしながら答えた。
「頼む!ダイエットの方法教えてくれ!!」
「・・・・・・・・・・は?」
ファルコと同じ返答(クリスタルの方が反応は早かったが)にフォックスはかくかくしかじかと説明する。
「なるほどね。わかったわ、協力してあげるv」
「ありがとう、クリスタル!」
「じゃあ私の部屋へ行きましょ。いろいろ対策を練らなきゃね」
クリスタルはにっこりと微笑んだ。
「フォックスの奴、パッド忘れて行きやがって」
ファルコはシャワーを浴びた後、棚の上にフォックスのパッドが置いてあるのに気付いた。
フォックスがいるのはどうせクリスタルのところだろうと踏んで、今その部屋の前にいるのだが。
「クリスタル、いんのかー?」
ピーというインターフォンを鳴らして声を掛ける。
「ファルコ?ちょっと待って、今ドア開くから」
ドアの向こうからクリスタルの声が返ってきて、ぷしゅっと扉が開く。
そしてファルコは固まった。
「どうかしたの?」
「あー・・・フォックスはダイエット中なのか?」
「あら、知ってたの?」
フォックスは本を見ながらダンベルを両手に持って腕を振っている。
が、問題はそのダンベルの重さだ。ファルコから見てもありえないぐらい重い数字が刻まれている。
ふと、ファルコは以前スリッピーから聞いた話を思い出した。
「フォックスってライトフット族のマッチョ恐竜と棒の押し合いで勝った事があるんだよね〜」
マッチョな恐竜に、勝つ。あの細身でマジかよ。
その時はそう思ったが今ならああ・・・確かに、と遠い目になりながらも認めることができる。
「・・・これフォックスのパッド。あいつ忘れていったから」
「ええ、じゃあ渡しておくわね」
「おう・・・」
ファルコはくるっと身を翻してクリスタルの部屋を後にした。
どうかフォックスがマッチョになりませんように、と心のどこかで思いながら。
それから3日後。
元々細身なだけあってすぐに体重は戻ったらしい。
次いで任務が入ってきたし、忙しくなるので運動不足にもならないだろう。
そういえば・・・。
「おい、フォックス。お前よくあんな重いダンベル持ってたな」
「え、あれクリスタルのだよ」
ケロリとして言うフォックスにズザサーーーっ!とファルコから血の気が引いていった。
fin
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