+あの日から浮かぶのはいつも決まって+
夜道は暗い。点々と灯る街灯に照らされて、なんとか道を示している。
そんな時分に、ギャンとバイクのエンジンが鳴り響いていた。
「はっ・・・クソっ!!」
俺は曲がり角でバイクのハンドルを鋭く切る。
追手は少なくとも15人以上。
「待ちやがれ、ファルコ!」
油断した。
宇宙暴走族のヘッドともあろう俺が、なんて様だ。
「チクショウ・・・っ!」
息が上がっている。そろそろ体力が運転に支障を来すほど落ちてきている。
どっかに身を隠さないとマジでやられちまう。
そうでなくとも挟み打ちをされれば自分は終わりだ。
短く道を曲がり、どうにかして追手を捲かなければならない。
フッと小さな看板が目に入った。一瞬だが、落盤事故という文字が見えた。
「こうなりゃ・・・死なば諸共ってか・・・!!」
道の先が見えなくなった所まで来たとき、俺はブレーキを踏んだ。
そのままバイクを横倒しにして、跳ぶ。
「あばよ、クズ共!!」
横倒しになったバイクは激しく回転しながら追手に突っ込んでいく。
続いて聞こえる悲鳴と、破壊音。
「ハッ・・・バーカ」
俺は道なき道へ、意識と一緒に身体を落とした。
・・・誰かの声が聞こえる。
誰だ?死神か、悪魔か、閻魔大王か?
「ペッピー、この人大丈夫かな?」
意外と若い声なんだな、悪魔って。
「骨にヒビが入っとるが問題ないじゃろう」
ああ、こっちの声の方が年寄りみたいで悪魔っぽいな。
顔が見たいが、動かす気力は出なかった。
「う・・・」
「あれ、起きた?」
ふっと影を感じる。
若い方が、どうやら俺の顔を覗き込んでるようだ。
「お・・・ま、え・・・は・・・」
声が上手く出ない。
身体も動かなかった。
「あ、まだ起きないで」
若い声の方の奴が俺の肩を押さえる。
起きれるわけが無いと言いたかったが上手く舌が回らなかった。
「だ・・・れだ・・・おま、え・・・は・・?」
「俺?俺はフォックス・マクラウド」
「フォ・・・ク、ス・・・」
「うん。フォックスだよ・・・あなたは何ていう・・・」
「こら、フォックス。怪我人と何時までも話しとるんじゃない」
年寄りの方の声が飛んでくる。
若い声の奴、フォックスというからには、狐なのだろう。
そいつと年寄りの声は悪魔ではないとようやく分かった。
「分かったよペッピー。俺達は警察とかじゃないからゆっくり休んでいいよ」
フォックスのその言葉に俺はやっと今生きているということに気付いた。
信用はまだしてないが、とりあえず安心してもいいようだ。
「は・・・・」
軽く溜め息を吐いて、俺はまた意識を闇に落とした。
また目覚めれることを信じて。
それから3日、俺はなんとか動けるようになった。
動けるといっても、壁沿いにずるずると這い進むぐらいなのだが。
「・・・身体が重てぇ・・・」
2日前、やっと目が開くようになってフォックスの顔を見た。
フォックスとかいう奴は、まだ少年・・・学生だった。
今は学生の本分として、アカデミーに行っている。
「腹減ったな・・・」
どっこいしょと身体を起こしてベットから立ち上がった。
まだ少し、身体が悲鳴を上げる。
俺は痛みを抑えてのろのろと台所に出た。
そこには、メモとおにぎりが4つ、置いてあった。
「・・・何て書いてあるんだこれは」
置いてあったメモに黒ミミズがのたくっていた。
どうやらフォックスは字が相当汚いようだ。
ともかく、俺はラップに包んであったおにぎりを取って頬張った。
「俺が誰かに施されるなんてな・・・」
ここは平和で、静か過ぎる。
裏街の雑踏が、少し懐かしく思えた。
「ただいまー」
玄関からフォックスの声が聞こえた。
帰って来たようだ。
「おかえり、フォックス」
「あれ起きてたのか」
「よぉ、勝手に食わせてもらったぜ」
「いいよ、食べていいって書いておいたでしょ?」
あれはそういうことが書いてあったのか。
初めて知ったぜ。
「そういや、今日はやけに帰ってくんのが早いじゃねぇか」
「うん、アカデミーで保護者懇談会があるから・・・」
「保護者・・・あのウサギのじいさんか」
「・・・ううん。俺にはいないから、直で話してきた。俺、両親いないから」
不意に空気がしんみりとする。
誰かがいないという事は、どこの世界でも空気を冷たくさせる。
俺のいた、あの裏でもそうだった。
「な、それよりさ。俺まだ聞いてないんだけど」
ぱっと顔を上げて、フォックスが俺の前に立つ。
「なにを?」
「名前。まだ教えてもらってない」
そういや、言ってなかったな。今更だけど。
「俺はファルコ・ランバルディ」
「ランバルディさん?」
「ファルコでいい」
『ランバルディさん』なんて呼ぶのはチームの下っ端ぐらいのものだ。
・・・チーム。まさか俺が死んだと思って追悼でもしてたら逆にぶっ殺してやる。
だがそう思われるのも、時間の問題か。
「ファルコって暴走族なのか?」
「あ、ああ。そうだ。宇宙を走り飛び回ったりしてな・・・」
いつの間にかフォックスは冷蔵庫の前で野菜を取り出し始めていた。昼飯でも作るのだろう。
フォックスは手を動かしながら俺に話しかけてきた。
フォックスぐらいの年頃なら、多少なりとも悪いことに憧れを持つ奴もいる。
だがフォックスは優等生タイプなのだろう。たいして興味なさそうに俺の言葉に相槌を打つ。
「・・・チームの人が心配してるんじゃないのか?」
「さぁな。だが、連絡も取ってないからな・・・」
「・・・早く元気にならないとな、ファルコ!」
そう言ってニコっとフォックスは微笑んだ。
俺は持っていたおにぎりをあやうく落としかけた。
それから日々が過ぎ、結局俺は3週間弱程フォックスの家にとどまってしまった。
「ファルコって回復力あるなー、なんかもう骨もくっ付いてそう・・・」
「ケッ、こんな怪我なんぞ日常的だったぜ・・・俺はもう行く」
俺は洗ってあった俺の上着を羽織って玄関に向かう。
フォックスは何も言わずに後ろについてきた。
玄関で扉に手を掛けると、フォックスはいきなり俺の服を掴んできた。
「フォ、フォックス?」
「あのね、俺、おかえりって言われたのほとんど無かったんだ。だから、ファルコが言ってくれた時は嬉しかった」
俺は扉に向いたまま、フォックスの言葉を背中で聞いた。
「元気でね、ファルコ」
「・・・世話ンなった」
ゆっくりと服を引っ張る力が消えていく。
「・・・いってらっしゃい」
「ああ・・・」
俺は扉を開いた。
シャバに戻った俺は当然俺を追い掛け回してきたチームを速攻で潰した。
それからまた時間は流れて、時々フォックスの事が頭に浮かぶようになった。
そしたら、今度はあいつから来た。学生服を脱ぎ捨てて、パイロットの格好をしていた。
「腕が欲しいんだ、ファルコ。スターフォックスに入ってくれないか?」
フォックスはあの時と変わらない笑顔で俺に手を伸ばした。
fin.
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