+愛してると言え 俺だけだと言え。+
AM2:00。ここはグレートフォックス内のフォックスの部屋だ。
俺はフォックスのベッドの上に座り、テレビを見ている。
俺の横にはフォックスがいて、俺の左足の太腿に頭を乗っけて寝転がっている。
テレビの画面は大人向け道徳の番組を放映していた。
・・・なんで俺はこんなところで、こんなことをしてんだ。
最初、俺はフォックスの部屋にフォックスのスカーフを持ってきただけだ。
風呂場に置き忘れてたから。ただそれだけだったはずだ。
そしたらフォックスはベッドの上にシーツも被らず寝ていて。
風邪引くぞ、と声をかけたら持ち前の馬鹿力で腕を獲られベッドに座らされた。
寝起きのクセにあの身体のどこにそんな力があるのか、未だに俺は分からない。
それから足は枕代わりにされるはフォックスは布団は被らないは見ないテレビをつけだすは。
・・・本当に、何をやってんだ俺は。
テレビの番組は人権問題になっていて、自分と人を大事にしろとか抜かしやがる。
現状にはあまりにも不釣合いな言葉に、テレビの電源を落としたくなった。
もちろんそれは八つ当たりで、リモコンの主導権を握っているのはフォックスだ。
「・・・大事・・・ね・・・」
「フォックス?」
俺も無暴力半拘束状態にしてから黙っていたフォックスが何かを呟いた。
フォックスは僅かに頭を動かし、視線だけ、俺に向ける。
部屋の照明のせいか、ダークグリーンの瞳には光が入っていないように見えてギクリとした。
フォックスは首が回りにくいのか、頭をもそもそと動かす。
「フォックス、動くな」
「あー、うん、ごめん・・・」
向けられた瞳が伏せられる。
別に反省の意味を込めて伏せたわけじゃなく、ただ単に眠たいだけなのだろう。
「・・・なぁファルコ」
「何だ?」
「俺はファルコのこと、大事に思ってるつもりだけど」
すぅと三日月のようにフォックスの唇がつり上がる。
この問いに、答えが分かっててあえて訊くつもりなのだ。
「ファルコは俺に大事にされてる実感はあるか?」
「・・・・・さぁな。わかんねぇよ」
フォックスの笑った唇から犬歯が見える。
相変わらず鋭そうだな、とまるで噛まれたあるような事を考えた。
「じゃあ逆に俺のことは大事に思う?」
フォックスの言葉に、自分でも分かるほど眉間にシワが寄った。
きっと今の俺の顔は苦虫を噛み潰した様になっているに違いない。
「・・・まぁ・・・大事じゃないってわけじゃねぇよ」
「えー?随分曖昧な言い方」
不満を言いながらもフォックスの笑みは消えない。
からかわれているのか、これでも本気なのだろうか。
俺には計りかねない。
こんな状態のフォックスとのやり取りはどうにも化かされているようでいけない。
「しょうがねぇだろ、今まで意識したことなんてほとんど無かったしよ」
「そうだな、でもファルコも大分スターフォックスに馴染んできたし・・・」
「馴染んだっつーか、馴染まされたっつーか・・・」
本当に、溜め息が出るぐらい馴染んでしまってはいる。
ペッピーにもスリッピーにもあしらうぐらいには、慣れた。
が、まだ馴染め切れていないものがある。
俺の足を枕にしている子狐だ。
初めて会ったときは年下の可愛げが大きかった。
知り合って生活を共にする内にとんでもないしたたかさと魅力を見せ付けられた。
今までどちらかというと見せ付ける立場にいた俺としては、ひどく衝撃的なことだった。
ああ全く、俺としたことが!
「ファルコは今まで大事なものができた時はどうしてたんだ?」
「あぁ?」
「守ったりしてきたんじゃないのか?」
「あー、そうだな。一応守ってきたかもしれねぇな」
「曖昧ー」
「意識したことないっつってんだろ」
「たまには意識してみるといいよ」
フォックスはバネのように上半身を起こし頭を振る。
起きる際に、顔同士が指一本分ぐらいの距離まで近づいた。
「ファルコ、愛してるよー?」
「あーあー」
髪の毛が触れて絡まるような感触に、一瞬背筋にゾクリとしたものが走る。
甘えられているという自覚に、それを咎められない自分に、溜め息が出た。
フォックスのとろんとした目は、機嫌の良い幼い子どもを彷彿させる。
「ファルコだけじゃないけどねー」
「あー・・・もう寝ろ」
「んー・・・りょう、かい・・・」
こてん、とフォックスは横に倒れるようにして眠りに落ちた。
元々寝ぼけ半分だったのだから、眠りの世界に落ちるのも早い。
丸まって眠るフォックスを起こさないよう、俺はそっと立ち上がった。
シーツをかけてテレビも電気も消して、極力音を立てないようにして部屋を出る。
「夜更かししちまったな・・・」
フォックス言ってることはまるで両想いに近いのに、与えられる感覚は一方通行な片想いに近い。
俺にとってフォックスの本心を捉えることなど、空が透けるほど薄い雲を掴むのに等しいのだ。
だが、いつか俺じゃないと駄目ってものを作ってやりたい。
いつか俺だけ、ファルコだけ、と言えるものがフォックスの中でできたなら。
その時こそ、この給与外労働のツケを支払わせてやる。
それまでは振り回されていよう。性には合わないが。
きっと、そう遠くないうちに実現させてみせる。
俺の征服欲は人が思うよりずっと深い。
「覚悟しろよ、リーダー」
fin.
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