+スノー・スノー+



「なくなればいいのに、雪なんか」

その言葉は形として現れる事もなく、静かに白い息として溶けた。



ひゅうと冷たい風が頬を撫で、自前のバイザーを軽く揺らす。
俺は冷気でじんわりと痛む鼻を押さえ、雪の降り積もった道を進んでいた。
雪に染められた白い町並みは溜め息が出るほど長く続く。

「休めばよかったかな・・・」

あと10分もすればアカデミーに着く。
着いてしまえばこっちのもの。冷暖房完全完備の天国。
だが雪のおかげで色々と交通網がストップしてしまい、こうしてのこのこ歩くだるさ。
普段より厚めのコートに手袋が、重い。
足は冷えて痛いし、何よりいつこけるかわからないこの不安定な足元。
往来でこけたりでもしたら、笑いものどころではない。恥もいいとこだ。
もうやってられない。

「はぁ・・・」

だるいながらも、氷の上を避けて歩きながら前に進む。
5歩ほど進んだ所で、背後から派手な音が聞こえた。

「・・・っフォックス!?」
「イタタ・・・・・・あ、おはよービル」

振り返れば、親友が氷の上ですっ転んでいた。
見事な笑いものだが、周囲には俺しかいなかった。
なんだかすっ転んだ親友を見ている自分の方が恥ずかしくなってくる。

「おはよう・・・って何やってんだフォックス」
「や、声かけようと思って駆け寄ったんだけど・・・こうツルーンとね・・・アハハ」
「まったく・・・」

そう言いながら、俺はフォックスの手を掴んで立ち上がらせる。
その冷たさに俺は一瞬繋いだ手を離しかけた。

「フォックス・・・手袋ぐらいしてこいよ」
「慌ててて忘れた」
「手が真っ赤じゃないか」
「雪触ってきたもん」

・・・この子狐は馬鹿だ。紛う事なき馬鹿だ。

「・・・今、俺の事馬鹿だと思ってる?」
「ああ、ものすごく」
「雪も触ってみたら気持ちいいんだよ?」
「冷たいだろ」
「それはそうだけど」

フォックスは近くの雪を掴むと空に向かって放つ。
優雅、とは言い難い動作で雪は地面に落ちた。

「しもやけになったらどうする。銃も握れなくなるぞ」
「あー・・・今日って銃の訓練があったんだっけ」

フォックスはまた雪を掴むと、放り投げる。
今度は空でなく、俺に向かって。

「ヒットォー!」
「っ・・・フォックス!」
「雪合戦したい!」
「今はアカデミーに行くのが先だろ」

俺の正論に、フォックスは不服そうに頷いた。

「こんな日には銃より雪を握っていたいなぁ」
「無理だろ、そんな事」

俺は軽く溜め息をついて、はめていた手袋を外した。

「アカデミーに着くまで貸してやるよ」
「え、いいよ。ビルが寒いだろ」
「俺は着込みすぎて暑いんだ」

これは嘘だけど。
この馬鹿の前で格好付けてもどうしようもないことだけど。
放っとけないから。

「・・・ありがと、ビル」
「雪で濡らすなよ」

別に濡れても問題ない素材でできているけれど。
とりあえず、人の手袋を着けさせておけば雪に触るのは止めるだろう。
俺だって、銃より雪を握らせてやりたいけど、そうもいかないから。



その後、今日の銃の訓練は教官が休みと言うことで雪合戦に変わった。

「行っくぞー!」

フォックスはしっかりと雪玉を握っていて。

「はぁ・・・」

俺の手袋は、まだフォックスの手にはめられている。

「なくなればいいのに。雪なんか」

冷たくなった自分の手を祈るように擦り合せた。












                                   fin.

















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