+きみと共有するものは、空気とことばと、それともう一つ+
ビルは走っていた。手にビスケットの袋を持って。
「フォックスーフォックスやーい、どこだー?」
探しているのは親友のフォックス。ちなみに返事はない。
日がさんさんと照ってくる昼休みは昼寝にはちょうどいい時間帯。
「あいつどこに・・・あ、」
フォックスはアカデミー内の一番大きな木の上にいた。
枝の上にいるというのに、見た目からしてくつろぎまくっている。
「フォックス、フォックス!」
木の下からフォックスに声を掛ける。
しっぽがひょこっと動くだけで起きる様子はない。
「まったく・・・」
ビルはハァと溜め息をつくと木を登り始めた。
太い枝に足を掛け、よいせ、と体を持ち上げる。
「フォックス」
「ん・・・ビル・・?何・・・?」
うつらうつらとしたままフォックスは這い上がってきたビルを見た。
「お前な〜なんでわざわざ木の上で寝るんだよ。下で寝ろよ下で」
登ってくるのがだるい!と怒ったがフォックスはぼんやりとしながら笑うだけである。
「だって〜・・・下だと眠れないし・・・」
・・・こんな寝ぼすけがビルに次ぐクラスの優等生とは。
ビルはフォックスの額に強烈なでこぴんをいれた。
「いっだぁっ!!」
「いい加減目を覚ませ」
ふふんとビルが笑う。
フォックスはぶつぶつ言いながら額をさすった。
「らんぼーものー」
カチーンとビルの頭だか胸だかから星が飛ぶ。
「・・・購買部で一番人気のお菓子やろーと思ったけどやめた」
「えっ!嘘っ!あれゲットできたのか!?」
フォックスの言う『あれ』とはもちろんビルの手の中にあるビスケットの事だ。
「ほら、ぷちビスケット。チョコレートのな」
ちらちらとフォックスの前に袋をちらつかせる。
この『ぷちビスケット』とは購買でもっとも人気のあるお菓子。
特にこぞって買うのは女子でバーゲンセール並の勢いで群がるのだ。
「あーあ、せっかくコネ使って買ってきたのにな」
「コネって・・・相変わらず肉体労働のしない奴だなー」
「・・・とりあえずお前をここから落としていいか?」
ぐぐぐっとフォックスの身体を落とそうとするビルに慌てて謝る。
「ちょっ、待った!ごめん、俺が悪かったですっ!!」
「分かればいいんだ」
ビルはぷちビスケットの袋の封を切ると、フォックスの前に差し出した。
チョコレートの甘い香りが二人の間に広がった。
「もらっていい?」
「だからお前の前に出してるんだよ」
「ありがと、いただきまーす」
フォックスはひとつ取り出してぱくっと口に放り込む。
ビルもそれに次いでひとつつまんだ。
「ん、おいしい」
「ああ」
「・・・でもさ、これ一番人気になるほどおいしいかな?」
フォックスの問いにビルはきょとんとする。
「お前知らないのか?」
「何を」
「このビスケットのまじない」
「まじない?」
「そう」
フォックスはこういうことに疎い。
占いとかその場は信じてもすぐに忘れていまう奴だ。
「それで女子がこぞって買うの?」
「ああ。まぁ恋のまじないみたいなものがあるんだよ」
「ふうん」
フォックスはあまり興味はなさそうだ。
ビルは噂とかに結構敏感な方である。
もちろん噂の真相を誰よりも早く突き止めて弱みを握ることも、稀にあるのだが。
「そのまじないっていうのが――あ」
ふたりで食べながら話していたらあっと言う間にビスケットはなくなっていた。
残り、一枚。
「ビル、最後の一枚だけど」
「ちょうどいい。これをこう二つに割って・・・」
ビルはぷちビスケットを二つに割る。
器用に、真ん中からぱっきりと。
「はい。半分」
「ありがと」
半分になったぷちビスケットを同時に口に放り込む。
「で、そのまじないって何?」
ビスケットを食した後、フォックスが指先を軽く舐めながら聞いてくる。
「まずは最後に残ったビスケットを真ん中から半分に割って意中の相手に食わす」
「ふむふむ」
「そうすると熱々の恋人になれる」
「へーぇ・・・・・・・ん?え?アレ?」
「ま、そーゆーこと」
ビルはフォックスの手を取るとその指先に口付けをした。
後に彼はフォックスに木から落とされそうになったとか。
fin.
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