+俺が大丈夫だと言ったから、俺達の関係は大丈夫だ。+
彼とずっと大丈夫だという証を、俺は欲しかった。
真っ赤に燃える夕日、とはよくいったものだ。
すぐそばにはグレートフォックスが佇み、夕日を浴びている。
沈む太陽を背にしながら俺はグレートフォックスから降りてきたフォックスに向かって、軽く手を振った。
夕日に当たったフォックスは赤々と燃えているように見えた。
「ビル、来てたんだ」
「ああ・・・ちょっと、寄っただけだよ」
「そうなの?アカデミーってもう終わってる時間だっけ」
俺はアカデミーの学生服を着たまま、ここに来た。
ちょっと立ち寄ったというのは嘘で、本当は授業が終わってから直行した。
フォックスは明日俺の前からいなくなる。
父親の残した雇われ遊撃隊スターフォックスを継ぐのだ。
多額の借金と共に。
「フォックス、準備ははかどってるか?」
「うん。もうほどんど終わってる」
準備万端!と元気よく言う友人は、このところ不思議なほど垢抜けた気がする。
前より大人の部分が大きくなったかもしれない。
父親がいなくなったせいかもしれない。
どちらにしても、俺はすこし寂寥感を感じていた。
「アカデミー、どう?」
「何の変わりも無い。それよりフォックス」
「何?」
「食料はちゃんと日数を考えて積んだか?怪我をした時の医療品は持っているか?」
「・・・・・・・・・・」
「どうした、忘れていたのか?」
「違うよ!・・・まったくビルは心配性だなぁ」
フォックスはつつつ・・・とにじり寄って、人差し指で俺の眉間を突いた。
頭が軽く後ろに傾きながらも、なんとか体勢を持ち直す。
「っそうは言ったってな、フォックスは明日から・・・」
明日から、いなくなるのに。
「うん、そうだね。俺行っちゃうもんね」
さして悲しくなさそうに言って、フォックスは微笑んだ。
その様に多少カチンときてその笑顔で上がった頬を、俺は左右に引っ張った。
むにーと伸びる頬はいつものように柔らかい。
どこまで伸びるか、アカデミーではよく試していた。
「ひふー!」
「おー、よく伸びる」
フォックスは俺の手をのければいいのに、何故か俺の額を叩いてきた。
ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち。
・・・そろそろうっとおしい。
「ストップ」
コンと叩かれていた自分の額とフォックスの額をぶつける。
熱を測るようにして、俺はフォックスの温かさを感じた。
フォックスは何がしたいのか、と言いたげにダークグリーンの瞳をきょとんとさせている。
それでも、顔を離して俺が笑えば、フォックスもつられて笑った。
「あーあ、ビルとももう一緒にいられなくなっちゃうなぁ・・・」
「まぁな。でも会おうと思えば会えるだろ。通信だっていくらでもできる」
「でもこうして会う機会は今よりずっと減るよ・・・」
顔を伏せたフォックスに、俺は軽く肩を叩いてやった。
フォックスも、はっきりと口には出さないが淋しいとでも感じているのだろう。
俺だって同じだけど。でも言ってやらない。
俺はフォックスの背を押さなくてはならないから。
「・・・辛気臭い顔をするなよ、フォックス」
「だって、これからも本当にどうなるのかなんて分からないもん・・・」
「先が見えないのも楽しいことだ。可能性がたくさんある」
「・・・ビルは心配じゃないのか?」
「心配だよ、お前のことだからな」
大事な友達なんだから、心配しないわけがない。
「そうじゃなくてさ、自分の将来のこと」
「・・・お前に向ける心配の5分の1ぐらいで心配だな」
「何ソレ!そんなに俺って頼りない!?」
「ああ」
きっぱりと言った俺に、フォックスはぽかんとした顔をしていた。
だって自分のことは頑張れば自分自身でいくらでも幸せにできる。
だけどお前のことは、俺がどんなに頑張っても幸せにすることはできない。
ほんの刹那の喜びしか、俺には与えられない。
フォックスの間抜けた顔も今は戻って、今度はつんと拗ねた顔になった。
「そんな顔をするから子どもっぽく見えるんだろう」
「悪かったですねー子どもっぽくて」
ぷぅと膨らんだフォックスの頬を左右から手の平で挟んで、口を割らせた。
唇がひし形になったフォックスの顔は、さっきと同じぐらい間抜けだった。
「ハハハ、変な顔」
「あーもーっビル!」
フォックスの『はたくのこうげき』が飛んできたので俺はスッと距離を取る。
そのまま、俺とフォックスの追いかけっこになった。
まるで自分のしっぽを追うように、同じ所をぐるぐる回る。
駆け回りながら、俺とフォックスは声を立てて笑った。
笑い声が、辺りに響いた。
「ハハ・・・ちょ・・・息、苦しー」
「はっ・・・深、呼吸・・・しろよ・・・」
散々駆け回った後、お互いを背もたれにするようにして、地べたに座り込んだ。
フォックスの乱れた息が肺に、そして背中に伝わって揺れる。
「はぁ・・・あーそうだ、ビル」
「何だ?」
「元気でね」
「フォックスもな」
「うん」
ズン、とフォックスは背筋を伸ばして、俺の方に体重をかけてきた。
俺は身体を少し前のめりにしながらも、なんとか潰れないように耐える。
「・・・ビル、ずっと友達でいてくれよな」
「当たり前だ。フォックスが悪人になったって友達でいてやるよ」
「じゃあ俺はビルが無職になったらスターフォックスで雇おうか?その時余裕があればだけど」
「馬鹿言えよ。俺は軍に骨を埋めてやるさ」
「頑張って出世しろよー」
「そっちこそ、ちゃんと生き残れよ」
フォックスの仕事に危ない仕事があるってことは知ってるから。
「なぁ・・・フォックス」
「何ー?」
俺が後ろを覗き込めば、フォックスもこっちを向いてにこっと笑った。
その笑顔は、俺がよくフォックスに向けている笑みと似ていて、俺よりも大人びていた。
「・・・なんでもない」
「何だよ、気になるじゃん」
「忘れてくれ」
フォックスは知らなくていい、俺の感傷なんて。
お前が思うより、俺はお前を大事に思っているから。
お前が俺を忘れない限り、大丈夫だから。
俺を、忘れないで。
fin.
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